AGE白鳥ラフスケッチキオのセカンドムーン修学旅行篇~最終決戦ラクガキ。
ほぼ台詞が書き付けてあるだけのラフスケッチ。
***
(さらわれたキオとアノン兄妹の交流に+ヒンメル)
「毎日毎日、せっせとどこに通ってるんだよ?」
「友達のところだよ」
「トモダチトモダチ、またそれかよ」
「他に言いようがないじゃないか」
「安っぽいなってこと」
「……ヒンメルは友達いないの」
「そんなのいらない。俺、偉いもん」
口ではそんなことを言っているくせに、このまま付いてくる気らしい。
「その人は?」
「こいつはヒンメルって言って……ええと、僕が今お世話になっている人のところの子なんだ。おもしろがって付いて来ちゃったんだけど、迷惑だったかな」
「ううん、お友達が増えるの嬉しい。初めまして」
「……はじめ、まして」
「あいつ、マーズレイか」
「わかるんだ。うん、もう末期なんだって」
「もうすぐ死ぬのか」
「……やめようよ、そんな言い方」
「薬は」
「たくさん造れないから、普通の人の分はないらしいね。ルウの分は、ガンダムの認証解除と引き替えにイゼルカントさんにもらった」
「あの薬じゃ病気は治らない」
「知ってる。いったん発症したら治らないんだよね、あの薬でも症状の進行を遅らせるくらいしかできないから、ルウみたいな末期の人には気休め程度にしかならないって言われた」
「おまえ馬鹿じゃないのか! そんなことのために」
「わかってる、けど気休めでも短い時間だけでも、ルウはあの薬のおかげで外を散歩したり出来るようになったんだ。……とても寂しそうだったんだ、初めて出会ったとき。笑っても、さっきみたいな楽しそうな笑い方じゃなくて悲しそうで、だから」
「……友達、だから?」
「うん、ルウは友達だから。助けたいって思う。出来ることがあるなら何かしたいって思う。僕のしたことはたぶん正しくないけど、それでも、何もしなければよかったなんて思わない。」
「おまえは地球種じゃないか」
「関係ないよ、地球圏で生まれたって火星圏で生まれたって、目の前にいれば友達になれる。僕の父さんたちもきっとそうだった」
***
(父の迎え/キオとヒンメルの別れ)
「父さん、待って」
「ヒンメル。一緒に行こう」
「一緒に行こうよ、ここしかないなんて、そんなことない!」
「キオ」
呆けたように、涙が止まる。
だがすぐに、今まで以上にくしゃくしゃに顔を歪めた。
歯を食いしばって、深く俯いて、きつく手を握りしめて、そして、首を横に振った。何度も。
「ヒンメル、けど!」
「早く行け。……おまえなんか、いなくなっちまえ」
「友達だったのか」
「……あいつ、黄色いギラーガのパイロットなんだ」
するとアセムは少し驚いたように目を瞠ったが、静かに苦笑いを滲ませ、くしゃりとキオの頭を撫でた。
「そうか」
「友達、なんだ」
「イゼルカントさんのことが好きで、イゼルカントさんのために戦ってて、けど」
他には何もない、なんて。
両親もわからない、家族もいない、ひとりぼっちの彼を拾って育てたはずのイゼルカントは、父親を求めていたヒンメルのことを歯牙にもかけず、キオを死んだ息子と錯誤した。
ではイゼルカントにとって、ヒンメルは何なのだ。
言葉を続けられなくなったキオの頭を、父は何も言わず大きな手でくしゃりと撫でてくれた。
死者扱いされた気持ち悪さより、無性に悲しくなった。
こんな優しい手も、きっとヒンメルは知らない。
***
(キオとディーンの別れ)
「今朝、息を引き取った」
「とっくに末期だったからな、いつこうなってもおかしくなかったんだ。おまえらのおかげで、あいつは楽しかったって笑いながら眠るように死んだ。これで良かったんだと今は思うよ」
「こいつがヴェイガンの敵、ガンダムってやつか。なあ、キオ、おまえのは赤い方か?」
「うん、あっちの黒いのは僕の父さんの」
「親父さんが迎えに来てくれたのか。よかったな」
「……驚かないんだね」
「おまえがガンダムのパイロットだったって? ほら、ヒンメルの奴、アホだから口が軽いんだ」
「そっか、あいつがばらしちゃってたのか」
「まだ負けてないってめちゃくちゃふて腐れてたから、たぶんキオの方が強いんだろ?」
「どうかな、あのときは僕も一人じゃなかったから」
「ディーン。僕は帰るよ。……ねえ、一緒に行かない?」
「悪い。行けない。」
「どうして?」
問い返してもディーンは何も言わず、ただ困ったように微笑んだ。
やわらかな拒絶だった。嫌悪でも憎悪でもなく、意地でもなく、ただキオの伸ばした手は拒まれたのだ。
「その代わりと言っちゃなんだけどさ、これをもらってくれ」
「ルウの夢なんだ。おまえが持っていてやってくれないか」
「……ディーン」
「元気でな、キオ。死ぬなよ」
「……うん。ディーンもね」
もう二度と会えないかもしれない。
ディーンもヒンメルも。
***
(志願したディーンとヒンメルの再会)
「……ディーン?」
どうしてこんなところに。
「何だ、ヒンメルって本当に偉いパイロットだったんだな」
「ずっと、ルウがいなくなったら俺も生きてなんかいけないと思ってたんだけどな。結局、俺はまだ生きてるし、何もしないで家に閉じこもってても腹は減るし、食ってくには金がいるし。それで軍に入ったんだ」
ルウがいなくなっても、ルウがいないってこと以外、何も変わらなかった。
「でもこれ何かの間違いだよな、俺みたいな新人がさあ。確認してくる。じゃあな」
「待って」
「いいよ。僕の部隊にいればいい。ディーンだってXラウンダーには違いないんだしさ。戦い方なら僕が教えてあげるよ。どうせ暇だし。僕は強いよ。それに、僕もディーンが良い」
「ヒンメルは地球に行ったことあるのか?」
「あるよ」
「エデン、なんだよな」
「そんな宣伝されてるみたいに天国みたいなところじゃなかったよ。ごちゃごちゃしてるし、うるさいし、くさいし、コロニーみたいに清潔じゃないし」
「そういうもの、なのか?」
「うん。でも──星が綺麗だった」
「星って、宇宙のあの星か?」
「そう、星。地球から見ると凄いんだ、同じものを見てるはずなのに、宇宙から見るのと全然違うんだ、きらきらしてた」
***
(最終決戦/キオvsヒンメル&ディーン/レギルス侵蝕暴走)
「レギルスが、言うこと聞かない」
「出来ない、止められない」
「ヒンメル!しっかりしろよ!」
「ディーンは君を助けようとしたんだぞ、本当にわからないのか!? 僕だってヒンメルを助けたいと思ってる! 友達だって思ってる! 君が死んだら嫌だ! いなくなったら悲しい! だから一人で勝手に諦めるな、このバカ!
「助けて、キオ。助けて……」
「待ってろ……!」
諦めるな。そう言った自分が諦めるわけにはいかない。
何とかしてレギルスを無力化するしかない。
「ウィービックさん?」
いいや違う。
いつか見た量子の海の気配。だがこれは違う。これは誰だ。
――助けたいなら。
身を寄せた小型シドが、AGE-FXのファンネル一つを取り込む。
キオの目の前で、モニタの表示が書き換えられていく。
細工されたファンネルの名前が変わり、レギルスの胸部をロックしたマーカーが点滅を始めた。
──打ち込め。
「これでヒンメルを助けられるの?」
ああ、それなら。
キオは迷わず、そのファンネルを打ち込んだ。
喰われていく、意識が何かに引き戻される。
「よう、クソガキ。ひっでぇツラだな」
デシルが笑っていた。
いつものような皮肉げな嘲笑じみた笑みではなく、もっと穏やかで、少しほろ苦い。
「仕方ねぇか、ガレットの野郎は情けねぇ莫迦ばっかりらしいからな。本当に仕方ねぇの」
「え?」
ヒンメルはぽかんと見返す。
今、何と言われた?
「でもまあ、ひとりじゃないから大丈夫だろ」
光る幻の中で、伸ばされたデシルの手がヒンメルの頭をふわりと撫でていった。
優しかった。
「レギルスはもうおまえの物だ。じゃあな。──ああそうだ、おまえらの友達、ディーンだったっけか? まだ生きてるからさっさと拾ってやれよ、早くしないと本当に死んじまうぜ」
脳裏をイメージがよぎる。
完全にシステムが死んで漂流するジルスペインのコクピットで意識を失っている、だが生きている、ディーンの姿。
ふつりと切れた。繋がっていた世界が、意識が。水面に浮かび上がる。
「……ヒンメル!」
キオの声が聞こえた。
「キオ?」
「よかった、大丈夫?」
「デシルが」
「え?」
「ディーンが、まだ生きてるって」
「ディーンが!?」
システムが死んでいるなら通信はあてにできない。ジルスペインはただのデブリに等しい状態だろう、機械で識別は不可能だ。
「ヒンメル、僕たちの力ならディーンを見つけられる」
Xラウンダーの力なら。
一人だけでは難しくても、二人で力を合わせれば。