愛〆に密かに恋するモブ視点ショート梅雨のジメジメとした雨が続くある日。
「愛〆、今日ってお前技工部行くんだっけ?」
「んー?おぉ、行く」
クラスメイトの愛〆。
いつも馬鹿騒ぎして忙しない調子のいいやつ。
が、今日は珍しく授業もサボらずに最後のホームルームまでいたと思えばずっと外をボーッと眺めている。
いつもだったら昼休みに体育館に行ったり、ホームルームが終わった途端立ち上がって周りを誘い街へ繰り出すはずだが、今日はあまりにも大人しい。
「愛〆……今日どうした?」
「どうもしてねぇ……よ?」
「絶対どうかはしてるだろ」
調子が狂うな。
こんなに声量の小さい愛〆は初めてみたかもしれない。
まさか……
「お前、好きなコでもできた?」
「んなっ!?ち、ちげぇよ!!んなわけ!!」
「な、なんだよ!その否定の仕方は!まさか、マジで……?」
「ちげぇ!!断じて!!」
必死に否定する愛〆を見ると本当に好きな人ができたように見える。顔真っ赤だし。
吐け!と愛〆の腕にふざけて掴みかかり、ブンブンと振ると愛〆も抵抗してきた。
「ンだよ!ちげぇって言ってんだろ!す、好きな人とか……じゃねぇって!!」
「じゃあなんでそんな今日暗いんだよ!」
「それは普通に!!」
「なんだよ……あっ」
わちゃわちゃともみ合いをしていると愛〆の脚がうっかり俺の上履きを蹴り、俺はバランスを崩してしまった。
倒れる、と思った瞬間、腕を力強く掴まれそのままぐいと起こされる。
「あ、わりぃ……」
「…………なるほどな!!あー!!なるほどなるほど!!足使えばいいんだ!!あー!!」
「な、なに……?」
俺の謝罪はそっちのけでいきなり元気を取り戻した愛〆にちょっと引きながら何なのか尋ねる。
「いやさぁ!スマブラでぜんっぜん勝てねぇCPUがいてさぁ!今のでヒントもらったわ!!下攻撃も使わなきゃいけねんだな!ありがとう!!」
「お、お前さぁ……」
いつものように大声を取り戻した愛〆は、やっぱり今日帰るわ!スマブラやりてぇ!!とニコニコで鞄を引っ掴んで教室を出て行った。
こいつ……俺の気も知らないで……!
好きなコとかできたら承知しないからな!