無どきんどきん、と高鳴る心臓を抑えて前を向く。
頬を赤くしたまさもかわいいな、とか考えているとほらまた鼓動が高鳴る。
「まさ、いいか……?」
「う、うん……」
手を握ると、少し湿ってて、いや、これは俺の手汗かも。
ずいと顔を近づけて、もう一度じっと目を見ると、一度恥ずかしそうに逸らされた後少しこっちを見て、そして静かに閉じられた。
もう片方の手を頬に添えて、自分も目を閉じて、
「まさ、好きだ」
唇が触れる、その3ミリ手前……
一際大きな蝉の鳴き声が鼓膜に突き刺さる。
汗ばんだ体で、どうやら窓も閉めずに大の字になっていることに気がつく。
思わず視線の先の天井を見、窓の外の入道雲を見、また天井を見た。
見慣れたそれは実家の自室。
両親によって少し物置と化したそこで、凌我は頭の中を整理する。
さっきのは、夢。
夏休みに入って、しばらくお別れしていた晶晶と、キスする、夢。
「ま、ま、まさと……!!!きす、する……夢見ちまった……」
体育祭の頃から何となく、本当に何となく自分の中にあった違和感を、今までずっと見ないふりを続けていた罰だろうか。
うぶな思春期の男にはその夢はあまりにも刺激的で、思わず起き上がって脚の間を確認すると、それは見事に天を向いていて。
「はぁ……まさ、ごめん……こんな……」
それをちょいちょいと突いてまた大の字に倒れる。
夏の暑さではない、明らかに火照った額に腕をやって、大きなため息をつく。そのため息だって、やけに熱っぽくて嫌になる。
「俺、やっぱまさのこと好きだ」
部屋に一人のくせに、真面目な顔をして凌我は呟いた。
呟いたらもう止まらない。
「まさ〜〜!!好きだ〜〜……!!」
ごろんごろん、とベッドの上で転がって、こつんと当たったスマホに目をやる。
時間を確認すると、そろそろ夕方と言ってもいい時間。
明日、寮に帰るんだったなと思い出してスケジュールアプリを開くと、そこには「花火」の文字が。
また忙しなく上体を起こす。
「花火大会……!?そっか、忘れてた……!!
いつだっけ、え!明々後日……!?」
思わず晶晶の帰ってくる日にちも確認する。明日。凌我とほぼ同じ時間。
間に合う、と見るや否や、凌我はメッセージアプリを開いた。
「まさ!花火、一緒に見ねー!?」
間も無く既読が付く。画面を真剣に見ていた凌我は、途端にベッドから跳ね降りてリビングへと駆けて行った。
「かーちゃん!!俺の甚兵衛どこやったー!?」
どうやら夏はまだ終わらないらしい。