Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yutsu_vvvvv

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    yutsu_vvvvv

    ☆quiet follow

    【春巳】春樹が巳波の誕生日を祝う話

    【春巳】春樹が巳波の誕生日を祝う話 そういえば、巳波の誕生日はいつだろう。本人に聞こうかと思ったけれど、折角ならサプライズでお祝いしたい。巳波の知り合いに聞こうかと考えて、巳波は芸能人であることを思い出した。そうだ、ネットで検索すれば誕生日が出てくるんだ。
     そうして、調べた。ナギと同じ、六月だそうだ。六月は、巳波が留学を終えて日本に帰国する月でもある。誕生日当日はまだノースメイアにいるだろうか。居たのなら、お祝いをしよう。誕生日よりも前にここを立つのなら、お祝いだけ先にしたい。

      ❀   ❀   ❀

     六月が近付いてくるが、あまりいい雰囲気ではない。
     巳波は留学が終わる時が近付いていることを残念がっているし、それと同時に早く俺から離れたいとも思っている。俺はどんどん弱っていく。俺を、見ていられないんだと思う。彼が目を腫らしている日が増えている。もうずっと怒らせてばかりで、ごめんねと言うと、何も言えなくなって自分の部屋に引き篭る。でもすぐに出てきて、俺に視線を寄越す。倒れてもすぐ駆けつけられるように、見守ってくれているんだ。
     俺が俺自身にしているオーダーのために、巳波が寄り添ってくれる。心地良さもありつつ、巳波の人生を俺に消費させている。だがそれは俺の自由と同じように巳波の自由だから、何も言わないでいる。俺としては嬉しい。
     だって、巳波のことが好きだから。ナギやゼロのことを気にしているみたいだけど、好きな人に順番なんてつけないのに。でも、巳波には伝わらないんだろう。そういうところも、巳波らしくて好きだな。本当に難儀で困った子だ。
     近頃はちょっと険悪になることが増えてきた。思い詰めた顔をしていることが多い。原因は、十中八九俺だろう。自惚れではなく、それ以外ない。まだ笑いあったりはできるけれど、巳波は怒っている。病気は悪化していく一方なのに、頑固に治療を受けないでいるから。俺の意思は変わらないけど、笑っている巳波が見たいな。
     
      ❀   ❀
     
     そうして、あっという間に六月になってしまった。
     巳波はナギの誕生日の頃には帰国するそうだ。寂しくなるなあ。しかし、巳波の誕生日は直接お祝いができる。出会ってくれてありがとう。一緒に居てくれてありがとう。
     俺を好きでいてくれて、ありがとう。

     今日は誕生日の前日。いつものように、学校へ向かう巳波を玄関まで見送る。靴を履き、家の鍵を手に取った巳波に、何気なく聞いてみる。
    「巳波、今日は何時に帰ってくる?」
    「珍しいですね、桜さんがそんなこと聞くなんて」
    「たまには俺だって聞くよ」
    「今日は夕方には帰ります。学校もあと少しですし」
    「そうか。今日は真っ直ぐ帰っておいで。いってらっしゃい」
    「ふふ、変なの。分かりました、いってきます」
     こうしたやり取りだって、もう数える程しかないんだろう。これが最後かも。寂しいな。一緒に住みます、と巳波が押しかけてきた時は驚いたけれど、幸せな日々だった。

     よし、巳波が帰ってくるまでにサプライズの準備をしよう。誕生日は明日だけど、前祝いだ。もし巳波に予定があったら一緒に祝えないから、今日お祝いして、明日も空いていたら明日も祝おう。
     巳波が好きな食べ物を並べていく。ノースメイアだから完璧な日本食を用意するのは難しい。ノースメイアでも有名な日本食や、日本食に近い食べ物を集めた。テーブルに沢山のお皿を並べる。食べるのが大好きだから、きっと喜んでくれるはず。

    「おかえり巳波。はやく入って」
    「ただいまかえりました、って、どうしたんですか?」
     腕を引き、部屋に引き入れる。早く喜ぶ顔が見たくて、気が急いてしまう。
    「わっ、すごい料理……!」
    「巳波、早いけど誕生日おめでとう。日付が変わったらまたお祝いするね」
    「し、知ってたんですか? 私は教えていないですよね、どうして?」
    「君は芸能人だからね。プロフィールは電子の世界を通じて誰でも見られるんだ」
    「ああ、そうでしたね。ふふっ、あはは! わざわざ誕生日を調べて、こんなに沢山の料理を用意してくださったんですか?」
    「巳波にサプライズがしたくて」
    「嬉しい……。すごく嬉しいです」
     頬を緩めた巳波を見て、つられて自分も同じ表情になった。巳波は笑った顔が似合う。
    「さあ手を洗っておいで。好きなだけ食べてね」
    「ふふっ、手を洗うよりも先に料理を見せたかったんですね」
    「うん、待ちきれなくて」
    「あはは、桜さんったら」
     巳波が手を洗っている間に、冷やしておいたノンアルコールのシャンパンを用意する。
    「あら、素敵ですね」
    「出会いに感謝を」
     心からの言葉を告げると、巳波は顔を曇らせた。少しの間を置いて、仕方がない、と眉を下げる。グラスを傾けて乾杯し、晩御飯には少し早い食事を始めた。
    「美味しい!」
    「そうだろう。それはカフェのオーナーに作ってもらったんだ」
    「この中に桜さんが作ったものもあるんですか?」
    「俺はあとでラーメンを作るよ。〆ラーメンにしよう」
    「私、ラーメンはお店で食べたいタイプなんです。でも、桜さんが作ったものなら、ありがたくいただきますね。きっと美味しいことでしょう。期待していますね?」
    「あはは、ハードルが高いね」
     久しぶりに、二人で沢山話す。巳波と話すのは楽しい。巳波も嬉しそうでよかった。最近ギクシャクしていたから、その分を取り返すように、会話に花が咲いた。
     
     お風呂に入って戻ってきた巳波は眠そうだ。遊び疲れた子供みたい。そういう俺も、正直眠たい。日付が変わったらちゃんとお祝いしたいから、頑張って夜更かしをする。
    「寝ないんですか?」
    「まだ日付変わってないから」
    「ふふ、健気ですね」
    「うん、待つのは得意だからね」
    「…………」
     巳波は眉根を寄せて黙り込んだ。俺がゼロのオーロラを見たいと言ったその一言だけで何年も待っていることを思い出しているのだろうか。
    「あ、日付変わったね。誕生日おめでとう、巳波」
    「あ……。ありがとうございます、桜さん」
    「明日、いや今日もまたお祝いしたいんだ。一緒に出かけない? 先客はある?」
    「いいえ、私の誕生日を知ってるのは多分この国では貴方だけですよ、桜さん」
    「そうなんだ、責任重大だな。明日も楽しみにしていて」

     翌朝、久しぶりに二人でゆったりと朝食を取れた。
     今日は少し遠くの海辺の街に二人で向かうことにした。観光客に混ざって、景色を楽しみながら歩く。幸い、今日は体調がいい。余計な心配をかけなくて済む。
     機嫌よく鼻歌を歌う巳波は、スキップをしそうなくらいだ。そんな少し先を行く巳波の手を取り、指を絡める。巳波は振り返って照れ笑いを見せ、手を握り返してくれた。
    「……ふふ」
     俺に歩幅を合わせつつ、あの建物が綺麗だとか、そこの出店の料理が美味しそうだとか楽しそうに話してくれる。繋いだ手は熱い。少し緊張しているみたいだ。
     ふらっと寄ったお店に巳波に似合う時計を見つけ、誕生日プレゼントとして贈った。使ってもらえると嬉しいな。その後、巳波が日本の知人用にお土産を買いたいから一緒に選んで、と言って、聞いたことのある俳優の名前を続々と挙げる。時々忘れてしまうけれど、はしゃいだ声で笑う綺麗なこの子は、人気俳優なんだった。
     
     その夜、一緒に寝ようと誘った。巳波は素直に従って、ベッドの中で抱き着いてくる。かわいいなあ。こんな巳波、普通の人は見れないだろう。
     大きめのベッドだが、男二人はまあ狭い。巳波が俺の胸に額を擦り付けた。すっかり瞼が重そうで、前髪がくしゃくしゃになるのも気にも留めない。満足すると、巳波は俺の胸に手を当てて心臓の鼓動を感じた。いつからか、これが巳波の癖になっている。
    「ふふ、今日は久しぶりにたのしかったです」
    「よかった。喜んでもらえて」
    「……日本にかえりたくないな……。ずっと、今日みたいな日だったら良かったのに」
    「ごめんね」
    「……桜さん……しなないで……。元気で、いてください……」
     声が震えていた。今日こそは泣かせないと思ってたのに、難しいな。
    「……ごめんね」
    「……っ、……誕生日、祝ってくださってありがとうございました。おやすみなさい」
     胸に埋められていた頭が離れていき、背を向けられた。明確な拒絶の姿勢だ。せめて日付が変わるまでは、幸せな気持ちでいて欲しかった。そう思って、後ろからそっと抱き締めてみたが、振り払われない。
    「……おやすみ、巳波。良い夢を」
    「っ、……っう、ぅ……っ」
     丸まった背中から、くぐもった嗚咽が聞こえてくる。胸に回している春樹の手に、巳波が震える手を添えた。腕に爪を立てないように、自身の手のひらを握り込んでいる。
     暫くして、小さな寝息が聞こえてきた。人と一緒だと眠れないと言っていたのに、今ではぐっすり眠れるようになっている。それだけ長い間、一緒に居たんだ。
     寝返りを打った巳波がこちらを向いた。頬に残る涙の痕をそっと拭う。ついでに、頭を撫でた。もうすぐお別れだ。悔いの残らないようにしよう。
     明日、生前遺言書を託そうと思っている。誕生日の次の日なのに、また怒らせて、また泣かせてしまうだろうな。本当に泣かせてばかりだ。ナギへの誕生日祝いの伝言もお願いしたらもっと怒るんだと思う。ごめんね、巳波。

     翌日、巳波は荷物をまとめて出て行った。
     俺の家を出るのは、まだ先の予定だったけれど。手渡したものを見た巳波は、瞳が零れそうなほど目を見開いて呆然とした。ぽろぽろと頬に雫が伝っていく。
     ナギへの言伝を伝えると、手を振りあげられた。しかし頬に予想した衝撃はなく、巳波は振り上げた手を、ゆっくりと下ろす。崩れ落ちるように、しゃがみこんで泣き出した。
     暫くそうしていて、ふらりと立ち上がったと思ったら、荷物をまとめ出したのだ。
     俺は立ったまま、巳波の横顔を見ていた。もう会えないかもしれない。泣き顔を目に焼き付ける。今までで一番、泣いて怒っていたけれど、律儀に生前遺言書は荷物に含めてくれた。請け負ってくれるつもりなのだ。出会った時と変わらず、真面目な子だ。
     玄関に向かう巳波を追う。靴を履いていつものように鍵を取ろうとして、やめた。もうこの家の鍵は必要ないらしい。諦めた顔で、ちらとこちらを見た。
    「もう、付き合いきれません。さようなら」
    「……いってらっしゃい、巳波。元気でね」
     離れていく背中に告げるが、綺麗な顔が振り返ることはない。あの時助けてくれて、出会ってくれてありがとう。君と過ごしたこの一年は、とても幸せな時間だったよ。

      ❀ 
     
     その後、ギャングスターが誕生した動画を見た。あの子は元気そうで、安心した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator