蛍火はここに 夜空に瞬く星の光。朝焼けに白く輝く雪原。東から昇っては西に落ちていく太陽の動き。鳥の歌うような囀りに、風が木の葉を揺らす密やかな音。おはようと言うとおはようと返ってくる声。パチパチと油を跳ねさせるソーセージの音と、挽きたてのコーヒーの香り。
トラファルガー・ローが、自然の姿や日常のささやかな出来事に美しいと、愛おしいと思えるようになったのはここ最近のことだ。スワロー島はローの育ったフレバンスとも、三年の時を過ごしたスパイダーマイルズとも異なる、“北の海”を象徴するような極寒の冬島だった。それでも、この島で出会った二人やシロクマのミンク族などは慣れているようで、毎朝薄氷が張った桶の水で顔を洗い、燃え尽きた灰を掻き出して薪を追加する。そうして部屋が十分に温まったあと、ようやく起き出してきたローに向かって明るい声でこう言うのだ。
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