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    toku_10_9

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    フォロワーさんからの宿題プト杉です

    夢を見た ――彼に抱かれる夢を見た。戦友であるはずの彼に。
     いかに殺生も酒も好む生臭坊主の俺とは言え、「友」に肉欲を向けるほど不埒な生き物に堕ちちゃあいない、はず、だったのに。
    (触れてほしい)
     あの大きな手で。他の誰も許さなかったこの肉体の随所を。
    (見つめてほしい)
     太陽にも月にも負けぬあの輝きを放つ瞳で。許されることなら俺だけを。
    (……ああ、俺は)
     抱いた欲望に気づかぬほど、初心でも鈍感でもない。聡い彼から、一体どうやって隠しきろうか。そのことばかりを考えた。



     ――彼を抱く夢を見た。戦友であるはずの彼を。
     吾の中に彼の人格が生きているせいだろうか。夢と呼ぶには些か鮮明に過ぎた。生前の誰よりも丁寧に触れて、蕩かして、抱いた。
    (……ああ)
     目覚めて、自己嫌悪に陥る。「友」であるはずの彼をどうにかしたいという欲望があったことに。いや、そもそも前提が間違っているのか。
    (吾にとって、彼は)
     男女間の友情は成立しないと他人は言う。であれば、男同士の友情は?
    (友と呼ぶには、あまりにも)
     ああ、変質しない保証など、どこにもないじゃないか。



     自覚してしまったからには、もはや止められなかった。彼を掴まえようとも、果たしてこちらの気配を察知したのかは知らないが、妙に避けられているらしく思いのほか手間取った。

    「……杉谷、なぜ吾を避ける」

     やっと捕まえた彼を壁際に追い込んで、問うた。顔を上げぬまま、彼は小さく首を振る。

    「……言えない」

    「なぜ」

    「聞けば、きっとおまえは俺に幻滅するだろうよ」

    「おまえに幻滅などするものか。それに、吾は、杉谷に距離を取られ続ける方が、余程辛い」

     顎をくっと持ち上げ、無理やり視線を合わせた。琥珀の瞳が一瞬大きく開かれ、すぐさま眩しいものでも見たかのように眇められた。

    「教えてくれ、杉谷」

     鼻先が触れそうになるほど間近で覗き込めば、瞼をぎゅっと閉じて瞳が隠された。首巻を縋るように掴まれている。このまま口付けてしまおうか、などと湧き出る衝動を必死に抑えた。

    「わ、わかった。わかったから……離して、くれ」

     言われた通りに顎を支えていた指を離せば、顔は重力に従って下を向く。ぎゅうと掴まれた首巻はそのままだ。

    「……おまえに、抱かれる、夢を見た」

     やがてぽつりと、彼は呟いた。肩が震えて、髪が揺れた。

    「だいじな、友であるおまえに……こんな感情抱くべきじゃないって、俺だってわかってるさ」

     紡ぐ声は弱々しく、掠れて消えそうだ。

    「だから、一日、時間をくれ。ちゃんと、いつもの俺に戻るから」

     頼む、と絞り出して、とうとう彼はプトレマイオスの首巻に顔を埋めた。
     ああ、たとえ彼の頼みであっても、そう言われてしまえば何もせず離してやる訳にはいかず。彼の肩を抱き、耳元に顔を寄せた。

    「……杉谷よ。吾は、引き返すつもりはない」

    「……え」

    「同じなんだ。おまえを、抱く夢を見た」

     ようやく顔を上げた、まんまるに開かれた彼の目を見つめながら、語りかける。

    「かけがえのない友であるおまえを、だ。……幻滅したか?」

    「……いいや」

    「夢の中で、おまえは吾に抱かれて、嫌悪したか」

    「……ッ、いいや、」

    「であれば杉谷」

     するりと手を伸ばし、片方のてのひらを取った。指を絡めて握る。逆の手は薄紅に染まった頬をなぞり、薄い顎に軽く添えた。

    「確かめてみないか。善き友であった我らが、果たして何になるのかを」

     少し距離を詰めた。瞳が潤んで、揺れて、けれども逸らされることなくこちらを捉えている。指がぎゅうと握り返されて、――ああ、もう、返答を待つ余裕も、我慢すらも必要ない。

    「……っ、ん……」

     そのやわらかく、少しかさついた唇を奪った。一瞬だけ触れて、離れる。彼の固く瞑った瞼の端から一粒、涙が零れて落ちた。

    「……嫌か?」

    「嫌じゃ、ない……から、もっと……っ」

     拒まれぬのをいいことに、何度も何度も口付けた。我らの関係にどのような名が付くのか。そんなことは些事に過ぎない。彼が吾を求め、吾も彼を求めた。
     ……それだけで、今は十分だった。
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