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    帽子屋(とある星の語り部)

    うちよそは、穏やか雰囲気で。
    うちの空は、ほんのりビターな雰囲気で。

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    POIPOI 26

    ゼラ×蓮水+柴郡

    可愛さ余って憎さ100倍「ゼラ、明日は暇だね?彩葉が休みだから私の手伝いをしないかい?何時に執務室で待っていたら良いかな?」

    「(聞きかた可笑しいでしょう‼︎何故、私が手伝うこと前提なんだ⁈⁈)」

    何故か自分の目の前に立ってニコニコと話を続ける蓮水の師匠【柴郡】。気付かれないよう、何度目かの溜息をつくゼラの姿があった。

    ことの発端は、ふた月ほど前。
    蓮水から師匠の『柴郡』と姉弟子の『彩葉』を紹介され挨拶した時、何故か自分にだけ当たりの強い柴郡に「やはり義父(※蓮水との関係は師弟)という存在とは相性が悪いのか…」と、何処か諦めにも似た感覚を覚えた。

    出会えば、やれ仕事中の蓮水を邪魔するなだの、君は暇なのかい?若いのに嘆かわしいだの上から目線で言われ、最初は大人しく聞き流していたゼラも堪忍袋の尾が切れた。

    「いくら蓮水の師であり雨林の導き手とはいえ、弟子の色恋に口を出すなんて…さすが初期代から生きる星の子は老婆心いや爺心が逞しくていらっしゃる。そんなに若者と関わりたいなら雀や雛の相手でもしてはいかがですか?」
    「………ふーん。若造が言ってくれるね」

    「まさか…この程度で『蓮水の最愛の恋星』を怒るほど狭い心は、お持ちではありませんよね?『心の広い蓮水』のお師匠さん?」
    「君は可愛くない子だね。導き手である私に向かって嫌味な言い回しをするなんて、なかなか度胸があるじゃないか…実に面倒な子だ」
    「ありがとうございます。賛辞と受け取りますよ」

    不運にも近くを通った星の子曰く、見えない火花が散っていたらしい。

    そんなやり取りはあったものの、ゼラとて幼い星の子ではない。出会えば、最低限の礼儀は守り棘のある会話を繰り広げていた。

    そんなある日、慌ただしく大量の書類を抱えた彩葉と会ったので運ぶのを手伝い、簡単な書類作業を手伝った。

    「ゼラちゃんて覚えが早いのね♪今日中に終わるかなって心配していたんだけど、説明したら直ぐに覚えて手伝ってくれたお陰で早く帰れそうよ♪ありがとうゼラちゃん♡」
    「お役に立てたのなら光栄です。御用の時は呼んでいただければ可能な限りお手伝いしますよ。」
    「うふふ///ゼラちゃん頼りになるわぁ♡」

    その時は彩葉だけしかおらず、穏やかな雰囲気の中で仕事を手伝い、お礼にと彩葉手作りの美味しいチーズケーキを土産に受け取った。

    家に帰ってから蓮水と食べている時、今日あった出来事を話すと蓮水が笑いながら冗談めかしたことを言い出した。

    「ゼラが有能だって知られちゃったから、彩葉姉さんや師匠からお呼びが増えるかもよ?」
    「何故です?手伝ったのは簡単な書類作業ですし、彩葉さんはともかく…あの柴郡さんが私に手伝いを頼むなんて…考えられませんよ」

    ゼラが苦い顔をして答えると、蓮水は意地悪く笑った。

    「ゼラ。俺たちの師匠はね?自他共に認める位、面倒くさがりの気分屋なんだよ。なのに、仕事は効率重視!使えるモノは何でも使う。例えそれが嫌いな相手でも目的の為なら笑顔で利用する!」
    「聞いてるだけだと碌でも無い師匠ですね…まして、私は嫌われているので利用される側て事ですか?…気分の悪い話だ」

    「プッwwwあはははwww師匠、ゼラのこと嫌ってないよ?むしろ…かなり気に入ってるwww」
    「冗談でしょ⁈会えば嫌味しか言ってこないし、確実に嫌われてますよ⁈」

    「あははwww師匠、お偉いさんだからさ。自分に物怖じしないで噛みついてくるゼラのこと、新鮮で可愛いみたいだよwww」
    「可愛い⁈笑えない冗談はやめてくださいよ蓮水…」

    げんなりとした表情で頭を抱えてしまったゼラを、蓮水は笑って見ていた。

    ----

    それから数日後。
    蓮水の予想は当たり、顔を合わせる度。嫌味はそのままに簡単な書類整理から重要度の低い案件書類の作成まで手伝わされることが増えた。

    「何故、雨林に来る度に手伝わされるんですか⁈私は蓮水に会いに来ているのに‼︎」
    「蓮水が仕事中だからだよ。待っている間、暇だろう?ほら、手が止まっているよ。まさか…その程度の処理も終わらないなんて言わないだろ?ゼラ」

    あれこれと悪態を吐きながらも手伝うのは、蓮水の師匠だから。そして、手伝った後は必ず「バイト代だよ」と言って多くはないが少なくもない量の蝋燭を渡してきたり、手伝う代わりに蓮水の休みが欲しいと言えば可能な限り融通してくれるからだった。

    ----

    「仕事量が多いなら補佐する星を増やせば良いでしょう…何で毎回、私に声をかけるんですか」

    結局、声を掛けられた翌日に訪れた柴郡の執務室。律儀に書類整理を手伝いながら、ずっと思っていたことを口にした。

    「だいたい。導き手ともあろう星の補佐が、彩葉さんだけというのが可笑しいんですよ。雨林所属の他の導き手も、他エリアの導き手にも複数の補佐がいるじゃないですか…」
    「…私は『暴風域生まれ』の『一応』雨林所属の導き手だからね」

    妙に含みのある答えにならない返事が返ってきた。書類から目を離さず、会話を続ける。

    「『一応』てなんですか?一応て!導き手は、指導者であり管理者でしょう?責任者なら相応の仕事量があるんですから、補佐を増やして分担するなりですね!」
    「はははははwww」

    突然、執務室に響いた笑い声にゼラが書類から顔を上げ、柴郡の方に顔を向けた。柴郡は、見た事がないほど冷めた目でゼラを見つめて笑っていた。

    「………ッ!」
    「ゼラは…本当に怖いもの知らずだな。暴風域生まれだと告げたのに、『一応』という言葉に反応して悪態を吐いてくる。実に面白いよ…暴風域生まれの星の子が恐ろしくはないのかい?」

    「……」
    「暴風域生まれが何と呼ばれているか『あの男』を父に持つ君が知らないはずはないだろう?」

    「…答える必要がありますか?」
    「ただの好奇心だよ。『バケモノ』と呼ばれる暴風域生まれに悪態をつく精神に、興味が湧いただけだ。」

    「単刀直入に言っても良いんですね?」
    「怒らないからどうぞ?」

    「早く仕事を終わらせて蓮水に会いにいかせろクソジジイ‼︎…以上です」

    「…は?」

    「言いましたよね?今日は蓮水とデートなんですよ。毎日忙しく働いている蓮水を労う為に、峡谷の有名リストランテを予約しているんです。遅れたら、キャンセル料払って頂きます」
    「ゼラ…他に言うことはないのかい?」

    口元を引くつかせながら、柴郡が尋ねる。ゼラは書類を持ち上げ、柴郡のデスクへ勢いよく置いた。机と書類がぶつかった音が大きく響く。

    「終わりましたので、蓮水とのデートに行かせて頂きます。何か問題がありますか?」
    「そう言う事ではなくて…。はぁ…蓮水に明日、休みだと伝えておくれ」
    「ありがとうございます。では、失礼します。」

    ゼラはケープを翻し、靴音を響かせ執務室のドアに向かう。扉を開く前に、肩越しに柴郡を見た。

    「柴郡さん」
    「何かなゼラ」

    「『柴郡さん』は、敵に回せば厄介な相手ですが話が出来ない相手ではありません…噂に聞く『星狂いのバケモノ』も、話してみれば存外愛嬌があるのかも知れませんね。」
    「なんだって?」

    「弟子に恋星が出来たくらいで拗ねて、相手を虐めてくるなんて、愛嬌がありますよ。そんな相手を怖がる必要がありますか?」
    「…ゼラは本当に可愛くない子だね。蓮水は趣味が悪い」

    「ははは。最高の賛辞に感謝します。では、今度こそ失礼します」

    扉を開け外に一歩踏み出した時、柴郡が声を掛ける。

    「…私の弟子を悲しませる事があれば、容赦しないよ。坊や」
    「ご心配なく糞爺」

    静かに扉が閉まった。

    ----

    柴郡の執務室を出て、ゼラは振り返る事なく蓮水との待ち合わせ場所に向かった。先に待ち合わせ場所で待っていた蓮水が、大きく手を振り駆け寄ってきた。

    「ゼラ!待ち合わせの時間より早く終わったから、先に来てたんだけど…て、どうしたの⁈冷や汗凄いし、顔色悪いよ⁈具合悪いなら、今日のデートは延期する?」
    「大丈夫ですよ、蓮水。間に合わないかもと心配で急いで来たら、先に蓮水がいて驚いただけです。待たせてしまって、すみません。大丈夫ですから、行きましょう」
    「でも…」

    心配した蓮水が言い淀むが、ゼラは心配ないと微笑み蓮水の腰に手を回しエスコートし始める。

    「さっきまで柴郡さんの手伝いをしていたんですよ」
    「師匠の手伝い?師匠、またゼラに手伝わせたんだ…もぅ!あんまりコキ使わないでって言ったのに!」

    蓮水が、脱力したように謝ってくる。ゼラは笑顔を返した。

    「たいした量でもないし平気ですよ。バイト代も貰ったので丁度良い暇つぶしになりました」
    「嫌味言ってきたんじゃないの?仕方ない師匠なんだから…」

    肩を落とす蓮水だが目に軽蔑の色は見えず、むしろ過保護な親に呆れているような様子だった。

    「弟子が心配なんでしょう。」
    「彩葉姉さんや蓮兎には、ここまで過保護じゃないのにさ。レア君の事は可愛がってるのに、何で俺とゼラの時だけ厳しくなるかなぁ。」

    頬を膨らませて可愛らしく怒る蓮水の様子を見て、ゼラも不思議に思う。

    「蓮兎は兎も角、彩葉さんが相手を連れてくれば似たような反応をすると思いますよ?唯一の補佐に任命する位なんでしょう?」
    「唯一の補佐て?」

    「補佐は、彩葉さんだけですよね?他の星の子に執務室で会った事ありませんよ。いつも彩葉さんが、忙しそうにしていましたよ?」
    「…補佐は他にもいるよ。師匠は導き手なんだから、補佐する星が一つじゃ体が幾つあっても足りないよ」

    「そうなんですか?でも…」
    「師匠、暴風域生まれでしょ?どんなに丁寧に接しても距離を置かれやすいみたいでさ。同じ執務室で仕事したがらない奴とか、無駄に怯える奴が多くて…。仕事にならないからって、彩葉姉さん以外の補佐は別に部屋を分けているんだよ。」

    「彩葉さんは?」
    「弟子の俺たちは普通に出入りするし話しかけるからね。姉さんが忙しく出入りするのは、2つの部屋を行き来して中継ぎ役をしてるからなんだよ。師匠は、そんな事しなくていい!てよく言ってたけど、彩葉姉さんが居ないと仕事が滞るしさ。やむ無くて感じで、最近は諦めてるみたい」

    《ゼラは…本当に怖いもの知らずだな。暴風域生まれだと告げたのに・・・実に面白いよ…暴風域生まれの星の子が恐ろしくはないのかい?》

    ふと、執務室で言われた言葉が脳裏を過った。

    「だからさ。ゼラみたいに口喧嘩したり、執務室まで来て手伝ってくれるの、かなり嬉しいんだよ。コキ使うのは、どうかと思うけどさ。だから…ねぇ、ゼラ…?」
    「何ですか?蓮水」

    「師匠のこと悪く思わないでね?悪気はないはずなんだけど、変に意地っ張りと言うか…」

    気を遣いながら話す蓮水の言葉に、ゼラは笑い出す。

    「長生きの割に子どもっぽい星ですね。私は大人なので気にしませんよ。精々、蓮水と過ごす時間の為に利用させて頂きます」

    そう言って笑うゼラを蓮水は「どっちもどっちだよ」と呆れたように笑い返し、ゼラは蓮水に翌日が休みになったことを伝え、デートを楽しむことにした。

    (執務室で柴郡さんに感じた形容し難い違和感…『暴風域生まれは星狂いのバケモノ』か…あながち間違っていないのかもしれないな)

    ----

    数日後。

    「ゼラ。この間は助かったよ。ありがとう。で、明後日は暇だね?同じ時間で手伝いを頼むよ!それじゃあ、私は君と違って忙しいから!」

    ゼラが神殿前のエリアで火集めをしていると、突然背後から肩を叩き早口で伝えると、柴郡は颯爽と神殿に向かって飛んでいってしまった。

    「は?私、返事してませんよ⁉︎ちょっと!柴郡さん⁉︎…こんの糞爺‼︎‼︎」

    背後で響くゼラの悪態を聞きながら、ご機嫌で執務室に戻る柴郡だった。

    ---

    「随分とご機嫌ですね、師匠?」
    「ただいま。お嬢さん」

    機嫌良く執務室に戻ってきた柴郡に、彩葉が声をかける。

    「明後日、ゼラに手伝いを頼んで来たよ。」
    「また、ゼラちゃんに声掛けたんですか?ちゃんと了承を得たんですか?」

    「了承?おいでと声を掛けたんだから来るだろう?得る必要があるのかい?」
    「師匠?ゼラちゃんの予定もあるんですからね?」

    「確認してから声を掛けているから大丈夫だ。難しいなら断るなり、無視するなりして来ないだろう」
    「そんなことやってるから、ゼラちゃんに苦い顔されるんですよ?当日の約束の時間が近づくとゼラちゃんが来てくれるかソワソワして、不安そうに扉を何度も見てるの知ってますからね。」

    「何のことか分からないな」
    「もう…遠回しに怖くないって言われて嬉しいのは分かりますけど、虐めて嫌われては元も子もないですからね?気に入ってるんでしょ?ゼラちゃんのこと。」

    「…お嬢さんは、私の保護者かい?言われなくても引き際くらい考えている。あの可愛げのない坊やが、私に悪態をついてくるから仕方なく相手をしてあげているだけだよ。私は可愛くない子でも導いてあげる、優しい導き手だからね。」
    「よく言うわね」

    鼻歌を歌いながらゼラが来た時の為に買って来たであろう茶菓子(高級菓子)を、棚に片付けている柴郡を呆れたように彩葉は見ていた。

    執務室の隣の部屋には、バイト代と称して買ってきたゼラに似合いそうな服が入った袋と、言い訳用の蓮水の服が入った袋が準備してある。

    「(蓮水ちゃん用に買った服のおまけ〜とか言って、ゼラちゃんに服をプレゼントする気なんでしょうね。素直に渡せばいいのに…)」

    物怖じせず柴郡に話しかけるゼラを、柴郡が気に入っていることは弟子たちの間では公然の事実だった。

    可愛がりたいのに、今の様な気安い口喧嘩が出来なくなるのが嫌で、態とゼラを揶揄って遊んでいる自らの師匠を弟子たちは呆れて見ているのだった。
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