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    帽子屋(とある星の語り部)

    うちよそは、穏やか雰囲気で。
    うちの空は、ほんのりビターな雰囲気で。

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    POIPOI 26

    巣づくりの季節と聞いて、不穏な空気を一つw
    初!柴郡の相方登場。

    巣作り日々や季節を繰り返す毎日。

    引きこもって研究に明け暮れる相方が、珍しく連日顔をだし近況報告やら研究報告を熱く語るのを、柴郡は適当に相槌を打ちながら聞いていた。
    柴郡以上に気まぐれで神出鬼没。趣味のエリア探索や調べ物に没頭している相方が、花鳥郷について熱く語っている。

    「私が思うに、このエリアって滅びゆく世界の精霊が『最後に生存の望み』を賭けた場所じゃないかって思うのよ所謂『方舟』のエリア版ね!だから星の子が未練を解放したことで、生前叶えられなかった願いの続きを、この場所で紡ごうとしているんじゃないかしら。この地の発展とはつまり――だと思うのよ!ね!チーは、どう思う?」
    「興味ない」
    「はぁぁぁぁぁ?!あんたね…それでも、記憶持ちの元精霊?私たちが死んだ後、世界が滅んだ真の原因や、今の社会のルーツに繋がるかも知れない過去の情報が手に入るかもしれないのよもう少し興味持ちなさいよ」

    頬を膨らませて柴郡の肩をバシバシと叩く相方の色葉(イロハ)は、同じ『記憶持ちの元精霊』である暴風域生まれ。一般精霊だった柴郡とは違い、彼女は『星の子を使う』特権階級の出身だったらしい。

    当時の彼女は(自称)『か弱い見習い』だったと、以前聞いた事がある。どこの見習いかは覚えていないらしいが、か弱い美少女だったと自画自賛していた。因みに、現在の彼女は暗黒竜に突撃されても高笑いで避けるほどの強者。…か弱いとは?

    精霊時代、本当は学者になりたかったと願っていた彼女は、現在『自らが星の子になったのも不満。滅んだ精霊が地上に留まり、未だに生態系の頂点に君臨している事も不満』な星の子嫌い+精霊至上主義否定派。排除主義のテロリストでないだけマシな、所属エリアを持たない自由を愛する存在である。

    なお精霊時代も今も、星の子を『研究材料』若くは『代えのきく歯車の一つ』ぐらいにしか思っていない。
    そんな彼女からの「興味を持て」との発言に、柴郡は呆れた視線を向ける。

    「今の社会や星の子に興味のないお前に、言われたくないね。だいたい花鳥郷は、俺が生きていた時代には『闇の進行が及ばない楽園』なんて噂程度の眉唾な存在だったんだぞそれが…死んだ筈の精霊が地上に滞在できて、星の子と一緒に生活まで出来る場所だなんて…」

    眉を寄せ嫌悪の表情を見せる柴郡に、今度は色葉が首を傾げる。

    「チーは別に、精霊否定派じゃないでしょ?生活してても気にしないと思っていたわ」
    「今はあくまで、『星の子』が生きている世界だ。亡霊が、勝手に歩き回って生活までする『ゴーストタウン』に興味は無いね」
    「精霊と星の子の共存を目指した理想郷とは思わないの」
    「何を持っての『共存』なんだこの場所が、『今の星の子』が自由に生きて発展するための理想郷になるなら考えを改めるさ」

    新エリアが解放されるたび、篭って探索や季節を満喫する柴郡。しかし、花鳥郷のクエスト開始から長居する事なく、用がなければ寄り付きもしない柴郡に、彼の弟子が不思議そうにしているのを偶然耳にした色葉は、ずっと不思議だった。
    『星の子』である事に執着心すらある柴郡だが、別に精霊を嫌悪しているわけでは無い。そんな彼だから、てっきり地上に滞在して生活する精霊の存在を好意的に見て、入り浸っていると思っていたのだ。だが、予想に反して彼は嫌悪している様にすら見える。

    「死んだ精霊が、地上で生活するのが嫌なわけ時々降りてきたり、ずっと地縛霊みたいに居座ってるのも沢山いるのに?」

    色葉が肩をすくめて訊ねると、柴郡は眉間に皺を寄せて唸る様に呟いた。

    「お前ね…俺ですら地縛霊とは流石に思ってないぞ。ただ……いつか地上に降りて未練を成就できるなら…未練から星の子になって地上に戻った俺たち(暴風域生まれ)の存在意義ってなんなんだろうな…生まれた時に肝心の未練の内容も忘れて、バケモノと迫害されて生きてきた俺たちって何なんだよ。俺たちと『あいつら(精霊)』の違いって何だよ」
    「他者を頼らず自力で戻った根性ある私たちと、ウジウジ待ってたら星の子に助けて貰えたラッキーな連中」
    「お前ね…言い方」
    「もしかして…羨ましいの星の子に助けられたウジウジ精霊のこと」

    色葉が目を細めて柴郡を揶揄う。柴郡は「不公平だと思っただけだ」と睨み返し、色葉から目を背けた。色葉は呆れた様に肩をすくめると、「自力で頑張ってきた私たちと比べるなんて、馬鹿らしい考えね」と鼻で笑った。

    柴郡としては、季節や日々や短期間に『星の子』に助けを求めたり、礼として不定期に滞在するのは何とも思わない。星の子の『発展』には必要な事だと思っている。

    だが、自由に地上で生活を営む場所が出来るのは別だった。『死んだ』のなら、願いが成就したのなら、天で眠りにつくなり新しく生まれ変わるなりすれば良い。
    何故、失った過去をやり直す様に地上で暮らすのだ。大精霊や一部の精霊の様に、星の子を導く訳でもなく『生きているかの様な日常』を営む精霊たちの姿を見た時、柴郡は血の気が引く思いがした。

    「そんなんで、次の季節大丈夫なの?チーは、どんな季節も日々も疎かにしない『優等生』でしょ」

    またも揶揄う様に笑い、色葉が柴郡の顔を両手で包み込む。まるで恋人同士の様な仕草で柴郡を押し倒すと、柴郡はニヤリと口の端を上げ、色葉の唇ギリギリまで顔を寄せた。

    「お前に心配されなくても『いつも通り』楽しむだけだ」
    「親切な相方が心配してあげてるのに、嫌な男ね」

    色葉も鼻で笑い返し、柴郡の首に腕を回す。

    「まぁ、いいわ。次の季節は私も参加するから、アドパス頂戴ね♡」
    「偶には自分で買おうとか思わないのか?毎回俺が買ってるよな」
    「時々は交換してるでしょ?良いじゃない♡可愛い相方に貢げるなんて幸せ者よ?高給取りの『導き手』様♡」
    「俺が買う方が多いよな!?てか、会話に『♡』が見えるのやめてくれ…気分が悪くなる」

    げっそりとした表情で顔を逸らす柴郡に、首に腕を回したままの色葉はクスッと笑い、顔を寄せると「嫌な男ね」と囁き頬にキスをした。

    「嫌な男で悪かったな。そろそろ離れてくれないか?流石に重い――ッ!痛い!」

    色葉は失礼な物言いの柴郡の鳩尾に膝を入れ、眉を寄せて睨み付ける。

    「鳩尾に膝を乗せるなよ!痛いだろ!ヒビでも入ったらどうするんだ!」
    「失礼な男には、いい気味だわ」

    プイッと視線を逸らし、色葉が柴郡の胸の核に耳を寄せる。時折する彼女の癖だ。こうなると彼女は暫く動かない。柴郡は一つ溜息を吐くと、彼女の背を軽く叩きながら、もう片方の手で頭を撫でる。時折、彼女の短い髪を梳く。そうしていると、小さな声で色葉が呟いた。

    「私は精霊も星の子も好きじゃないわ」
    「知ってる」

    柴郡が空を見上げながら答える。
    色葉が続ける。

    「チーの言う『亡霊』が、星の子に教える『暮らし』。『巣づくりの季節』なんて、皮肉が効いているわ。『家』じゃないのよ?『巣』よ?」

    色葉が皮肉めいた表情で、クスクスと笑う。

    「良いじゃないか。『住処』だの『拠点』だのより、ずっと可愛らしいだろ。俺は好きだけどな『巣』」

    柴郡が答えると、色葉が更に笑いだす。
    言葉の表現からくる意味を理解出来るのは、精霊と記憶持ちの暴風域生まれぐらいのもの。

    「私なら『私たちを何だと思っているの!』って怒るわ。文化を持たない光の生物や闇の生物と違う。考える知性と社会性を持った知的生命体が何故『巣』なのよ!ってね」
    「お前が捻くれた受取方をしているだけだろ。発展途上の世界なんだから、単純に可愛いとか空を駆ける星の子だから『巣』の方が表現が合うんだろう。もしくは…」

    柴郡が、丘向こうにある暴風域へ続く扉に視線を向ける。

    「「帰巣本能」」

    同時に呟いた言葉に、1人は苦虫を潰した様な表情。1人は愉快で仕方ないという笑い声を上げる。

    「ほらね、皮肉だわ。まるで私たち暴風域生まれの為の季節みたい。昔を思い出して懐かしめっての?中途半端な記憶持ちに対する嫌味?それとも―「色葉」ッ!……何よ?」
    「単純に便利な暮らしができる様になるとか、楽に楽しめよ。お前は季節や日々の意味を、深読みしすぎだ。疲れるだけだ」
    「…チーだって考察したり調べるじゃない」
    「俺は、お前ほど皮肉に取ったりしません。楽しんでるだけだ」

    色葉は唇を噛み締め、柴郡の胸に顔を埋める。柴郡と違って、色葉は過去の『全て』を取り戻したがっている。

    精霊に戻りたい訳ではない。
    だが、生まれ変わった時に無くした『何か』を求めている哀れな狂った暴風域生まれの『星の子』。
    星の子であることを受け入れられない、星の子である。

    「自分ばっかり『今』を受け入れちゃってさ…元精霊のくせに」
    「関係ないだろ。今の俺は『星の子』なの。星の子として、今を楽しんで生きて何が悪い?」
    「悪くないけど、『何かを求めない』暴風域生まれは狡いわ。生まれてきた意味を見失うなんて、狡いわ」

    柴郡とて『何かを求めて狂う』運命の暴風域生まれだ。

    「…欲しいものが見つかったからかもな」
    「はっ?聞いてないんですけど?!何それ?!」

    驚愕の表情で顔を上げた色葉にニヤリと笑い、柴郡は求めてやまない至高の存在を思い浮かべる。

    「ちょっと!教えなさいよ!どういう意味よ!」
    「五月蝿いな。好きな相手が出来たんだよ。だから―「えっ?また星の子を好きになったの?恋愛なんて絶対勘違いだって。悪趣味だよ」―お前、失礼すぎだろ」

    引いた表情で体を離し、星の子との恋愛など悪趣味だ!ありえない!と考えている色葉に、相手が王族だと伝えたら、どんな反応をするのか興味が湧いた。

    「なあ色葉」
    「何よ悪趣味チー」
    「マジで怒るぞ。まぁいい…お前『王族』って知ってる?」
    「まさか虹の国のを言ってる?王族なんて名乗っても、所詮は星の子でしょ」

    呆れた様な色葉の返しに、小さな違和感を覚えた。
    柴郡は、彼に出会うまで『この世界の王族』に関する記憶が無かった。

    「他にも王族がいるかのような口振りだな?」
    「あー、チーは一般市民だったから記憶に薄いのかもね。正式な王族は、ちゃんといらっしゃったのよ。流石に生きてはいないはずよ?」
    「生きてはいない?」
    「当たり前でしょ?精霊も滅んでいるのに、王族だけ生き残ってどうするのよ?」

    さも当たり前とばかりに、色葉は言い切る。

    「世界の安定とか安心して暮らせる様にとか…精霊を空に返す為……とか。やるべきことはあるだろう?」
    「言いたくないけど、全部『星の子』がやってるじゃない。だいたい、地上に精霊帰ってきてるし。王族がいたとしても、何するのよ?世継ぎだって産まれようもないのに」
    「…世継ぎって?」

    以前、彼も似た様な単語を発したことがあった。
    色葉は呆れた様に告げる。

    「世継ぎってのは、王の血をひく『血』の繋がりを持つ存在よ。ほら、丁度よく走ってるじゃない」

    色葉が、子どもの精霊を追いかける母精霊を指差す。

    「父(男)と母(女)で夫婦になって、母が子を産む。一般的な精霊の繁殖方法だったでしょ?覚えてないの?王族も一緒よ。確か王子がいたような気がするけど…女がいないなら子は増えないわ。男しかいないなら繁殖は無理だし、民である生きた精霊もいないのに王だけいるのも不自然――って!ちょっと、どうしたの?!顔色悪いわよ!?」

    色葉の言葉を聞きながら、柴郡は頭の中が真っ白になっていた。
    柴郡は『男性体』の星の子である。

    だが、女性体の星の子に体を変える事は出来なくはない。だが、星の子は『天から星降る様に生まれる』存在だ。例外はあるだろうが、他者の体を介して生まれる存在ではない。
    自分が彼の側に居ても良いのか?又は、彼と同じ存在が奇跡的に存在するなら…自分は離れなければならないのではないか?何故なら―自分は実を宿せない。

    ――『巣づくり』――
    一般的に繁殖のための家づくり

    思いもかけず気付いた現実と、古い言葉の意味。
    新たな季節が始まれば、いつもの様に彼に語って季節を楽しむつもりでいた。だが、いつもの様に楽しめるだろうか?語れるだろうか?

    急に落ち込んで黙ってしまった柴郡を心配した色葉が、何度も声をかける。不安を抱えながら、新たな季節が始まろうとしていた。
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