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    こまつ

    @shimamorota

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    こまつ

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    [概要]
    現パロ・おとぎ話のようなRP
    [備考]
    ・現代日本的な世界観
    ・いつも通り説明しがたくてすいません
    ・診断メーカー(ID878367)より、『RPのBL本は
    【題】通り雨
    【帯】正反対なのに妙に惹かれ合う不思議な関係
    【書き出し】そういえば今日の星座占いは最下位だった。
    です』
    ・『このお題で書いたRP絶対オリジナルになってしまう説』検証第三弾
    [更新履歴]
    23.10.24 全文

    #リゾプロ
    lipoprocessing

    LAUNDRYそういえば今日の星座占いは最下位だった。真白い照明に満遍なく照らされた小さなコインランドリーの奥のベンチで備品の生活情報誌をめくっていると、見開きの星占いのページに行き当たり、リゾットはそんなことを思い出した。ほとんどつけないテレビで今朝たまたま見たのだ。占いに興味はなかったが、同じく視界に入れたよしみで、自分の星座の月間運勢とやらにも目を通してみると、芳しいとは言いがたい内容の締めに『忘れ物や見落としなどのケアレスミスに注意!』と書かれていてはっとする。そうだった、こんなどうでもいい記事を読み込んでいる場合ではない。自分はどうしても得なくてはいけない大事な情報のために、この雑誌を手に取ったのだ。
    冒頭のページに戻り、目次からくまなく目を通していると、自動ドアが開く音がして人が入ってきた。
    男だった。どんな店であれ足を踏み入れた途端に客や店員の視線を一気に集めるタイプの若い男だった。生憎今は店内に一人しかおらず、リゾットはさして興味がないままそれを一手に引き受ける羽目になる。
    均整の取れたスマートな体躯に纏ったカジュアルなジャケットとパンツに必需品があまさず詰め込まれているのか、男は手ぶらだった。小さい頭の後ろで纏められた淡い金髪と白い肌のどちらもが、蛍光灯の下でひときわ発光している。どこか見覚えのあるような気もするが、美形というのは得てしてそういう印象を抱かせるものなのかもしれない。その手のことに明るくないので分からないが、もしかしたらモデルや俳優のたぐいだったりするのだろうか。わざわざこんな店を使うとも思えないが。
    男は先客の存在に目をとめつつも、ドア近くのマシンに近寄り、蓋を開き中を覗き込んだ。そして蓋を閉めるとすぐに横に移り、また蓋を開け覗き込む。そうして、使用中の一台を除くすべてのマシンの蓋を無言で開閉しながら広くはない店内をぐるりと一周したあと、明らかに店の奥に向けて溜息をつき「マジかよ」と呟いた。
    それが自分に向けられたものだとリゾットはすぐに気づいたが黙っていた。男は、リゾットの目の前で起動する洗濯機につかつかと歩み寄り、少し屈んで閉まった丸い蓋の奥をどこかわざとらしく凝視しはじめる。さすがに雑誌から目を上げ、小さい団子状に結われた髪が縦一列に幾つか並ぶ後頭部を眺めていると、「なぁ」と男が振り返った。目が碧い。
    「何か?」
    「これ。中、空だった?」
    「……ええ」
    「本当に?」
    「ええ」
    「絶対?」
    「ええ」
    なわけねーと思うんだけど、と男は質問した意味などないようなことを言い、双眸のコーンフラワーブルーに疑いの色を滲ませる。
    「忘れ物でも?」
    無礼で面倒臭くて話が分からなそうな奴だと思いながらリゾットは一応紳士的に尋ねてやる。
    「そこにあるのでは?」
    店の端に設置された忘れ物置き場を指すと、男は「見た見た、一応」とあしらうように言い、「けど、さっきの今だから」とリゾットが的外れな指摘をしたかのように呆れた声を出す。
    「ちなみに何を?」
    苛立ちを抑えて訊くと、男は眉根に皺を寄せて鼻を鳴らし「そりゃあプライバシーの侵害だ」と一蹴する。
    頭にきたが、食ってかかるのも馬鹿らしいので何も返さずにいると、「念のため全部確かめたけど、間違いねぇ」と男は腕を組み、唯一起動中の洗濯機を尖った顎先で指して言う。「どう考えてもここだ」
    男は片眉を上げ、ベンチの上のリゾットに、見下すような目線をくれる。
    「アンタもアンタで、こんなにあって、何でよりによってこれ使うわけ?」
    もはや言いがかりもいいところだったが、リゾットはもちろん謝罪をするつもりなどさらさらなければ、やり合う気も同様になかった。雑に逆撫でされ続けた神経はあっちこっちにささくれ立っていたが、そんなことよりも自分はいま、手の中にある雑誌を見て確かめなくてはいけないことがあるのだ。邪魔をしないでほしい。
    渦巻く怒りと焦りが相乗的に高まりゆくリゾットに、男は「あと何分?」と尋ねた。
    おおよその見当はついたが「さぁ」と切って捨てると、男はみずから洗濯機に向き直り、表示された所要時間を見て舌打ちをした挙げ句「まだそんなあんのかよ」と苦々しい顔をし、「また来るわ」と片手を挙げて出ていった。

    もう来るな、と願っていたが、数分もしないうちに男は戻ってきた。
    実際には洗濯が終わる頃に来るのだろうと予測してはいたので、少し予想外ではあった。とは言え、雑誌から上げた顔に表れるほどの驚きではない。
    右手にペットボトルのお茶を二本持った男は、一本をリゾットに差し出し、左手に提げた白い小さなポリ袋をそのまま押し付けた。
    「どーぞ。差し入れ」
    袋の口を開くと、舟型の発泡スチロールトレーが入っていて、載せられただけの蓋の隙間から中を覗くと、漏れ出す湯気の中に球形ものが隙間なく並んで見えた。
    「たこ焼き。そこの公園の自販機行ったら、横に屋台出てたから」
    「それは……お気遣いをどうも」
    「この時間腹減るだろ」男はリゾットのすこし横に腰を下ろした。「いい歳してこんな時間に一人でこんなとこ来るヤツなんて、孤独で金もなくてろくなもん食ってなさそうだし」と失礼極まりないことを言ってから自分にも当てはまると思ったのか、「アンタ、そんなガタイしてるわりに、なんかあんま元気じゃなさそうだしな」と余計なことを追加する。
    「オレは2個でいい」と妙にきっぱり言うので、食うのか、と思ったが、リゾットは先程よりはいささか好感を持って、受け取った「ろくなもん」を二人の間にそっと置いた。
    「じゃあ、良ければ先に。こっちは後で、ありがたく」
    「は? 何で? 腹減ってねーの?」
    「……そういうわけでは」
    「じゃ、今食えよ」みずから買ってきておいて、男は勝手なことを言う。
    「夜中だから? 食事制限でもしてんのか? 確かに、ストイックな感じするもんなぁ。あ、もしかしてボクサーか何か?」
    カラダでけーし、格闘とかそっち系? どうりでなんか見覚えあると思ったわ、と男はひとしきりいい加減なことを言い連ねたうえで「こんくらいどうってことねぇって!」と尚更無責任な言葉を添えてリゾットの背を軽く叩いた。
    「……熱いものが、」リゾットは仕方なく言う。「余り得意では、ない」
    その返答に一旦口を閉ざした男が、リゾットの顔を覗き込んで呟く。
    「マジかよ」
    碧い瞳に好奇の光を漲らせながら、入店してはじめに口にした時とはまるで違う響きで同じ言葉を吐く男を、リゾットは黙って見つめ返す。
    「猫舌ってやつ?」
    「そこまでじゃあ」
    「よし、んじゃ食おうぜ」男は袋からトレイを出して蓋を開けた。外ならばこの季節、夜気を白く色づかせたであろう食欲のそそる匂いがもわっと漂う。
    爪楊枝の刺さった一個を、男は「ほれ」とリゾットの口元にまで運んでくる。
    「遠慮すんなって」
    「だから後で頂く」
    「そういうの許さねぇんだよオレは。頂いてから『頂きました』って言いな」
    「意味がわからん、何なんだアンタ」
    リゾットの腿に躊躇なく手を置き更に身を寄せると、次は防御させまいとその手でリゾットの右手首を掴み、「ほら、あーん」と強引に迫ってくる男から顔を背けていると、ドアが開き、女性が一人入ってきた。
    男二人の先客と、その二人が異様に近距離で絡んでいたのを見て、女性はドアにもっとも近いマシンに近寄り手をかけたが、思い直したようにそのまま出ていった。
    申し訳ない、という気持ちと、居た堪れない、という気持ちと、割と好みだった、という気持ちに苛まれ、リゾットは男を軽く睨めつけた。
    「ちょっといい女だったな」と軽く言った男はたこ焼きを自らの口に入れ、あふ、とペットボトルの蓋を開けた。

    洗いが終わり、乾燥機にかけるために出した洗濯物を男は逐一確認してきた。
    こんなどこの馬の骨とも知れぬ人間に、何故下着から何からひとつ残らず見られないといけないのかとの思いを「別にいーだろ」の一言で流した男は、いちいち腕を伸ばして衣類を広げてサイズやデザインや使用感に意見を述べるなど、『プライバシー』という概念を一瞬でもちらつかせたことが嘘のような行為にまで及んだが、綿密なチェックを受けたものの中に男の探しているものはないようだった。
    空になった洗濯槽に顔を突っ込み、「おっかしーなァ」などとやっている男は、終いには「ちょっと鞄とポケットの中身、出してくれねぇ?」とまで言い出す。
    「いい加減にしねぇか」あらぬ嫌疑をかけられ、ついきつい口調になった。「せめてモノが何なのか言え」
    自身に関してはプライバシーだ何だと言いながら、こちらに対しては一方的に無遠慮に暴き立てようとする男にリゾットは言う。
    「出してから『それだ』なんて言われても困る」
    あれ程好き勝手振る舞っておいて、今更その程度の剣幕に押されたわけでもあるまいが、男は、
    「そりゃ、まぁ……うん、そうだな」
    とやや勢いを弱めて納得した。
    それきり男はしばらくの間黙り込み、首を傾げた。
    「……何だったっけ」
    二の句が継げないリゾットに、男はすこし気まずげに告げる。
    「いや、なんつーか……クセ、みてーなもんで」
    語るところによると、男は数年前にひどい事故に遭い、それを機に記憶を失くした。といっても、完全に抜け落ちているのは事故に遭う前の五年程度のもので、それより以前のものはところどころあやふやだがおおむね残っており、幼い頃のものははっきりしているらしい。だが、大切なものをどこかに忘れてきているような気分が常に抜けず、ふとした時にそれが何かは分からないまま闇雲に探さなくてはいけないような気になるのだという。
    リゾットは今度こそ本当に心底驚いた。顔にもはっきり出ていたかも知れない。なぜならリゾットもまた、男と全く同じ頃同じように大きな事故に遭い、それまでの数年間の記憶だけをごっそり失っていたからだった。前触れもなく、半ば強迫観念のように、忘れてしまっている大切な何かを早急に見つけ出さなくてはいけないという気になるのも同じだった。
    あまりの衝撃に、どこから伝えたものか、と戸惑った矢先、男は踵を返し、
    「あー、じゃあ、そういうわけで、迷惑かけたな」
    と途端にしおらしいことを言って、そそくさと出ていった。「ちゃんとあっためて食えよ」

    乾燥機の音だけが響く店内で取り残されたような気分になりつつ、リゾットはふたたび雑誌を読みはじめた。取りこぼしがないよう、カラフルな誌面の隅から隅までを熟読するが、そういえば自分は一体何を求めてこれほど熱心に読んでいるのだったかと思い返し、思い出せず、またいつものやつか、とページを閉じラックに戻した。
    乾燥が終わり、仕上がったものを取り出す。取り出したシャツの裾に、うっすらとだが大きな染みがついていた。ピンポイントで付着したインクなどの色染みと違い、一角まるまるを微妙に濃く変色させた油染みのようなその存在に、今はじめて気がついた。
    洗濯物を持参の袋に、まだ温かくて重みのあるトレーと未開封のペットボトルをポリ袋の中に入れる。結局、八個入りのたこ焼きは、男が食べた一つを除き手つかずのままだった。

    荷物をまとめて店の外に出る。少し肌寒い。側にある公園の脇に自動販売機の明かりが見えたが、屋台の影はなかった。周りには高い建物がないせいか、黒い空に散らばった大小の光が幾つも見える。あのうちの幾つかは、自分も名を知る何座かだったりするのだろうか。星座。『忘れ物や見落としなどのケアレスミスに注意!』。洗濯中に得た忠告を役立ることはできず、シャツの染みは見過ごしてしまった。あれほど入念に一着一着確かめていた人間ですら言及しなかったくらいだ、しっかり見ていたところで気づけなかったかもしれない。
    あの男は本当に何も忘れていなかったのだろうか、とふと思う。
    見つからなかったからといって、忘れていなかったとは言い切れない。見落としていただけではないのか。あともう少し探せば、もしかしたら、見つかったのではないだろうか。
    何だか急激に喉の渇きを覚え、ポリ袋に手を突っ込み、開けたペットボトルを一気に半分ちかく空にした。
    本当に、何も探していなかったのだろうか。思い出せなかったからといって、探していなかったとは言い切れない。男のことが無性に気にかかる。不注意なところがありそうだった。忘れ物置き場もちゃんと見たのか疑わしい。引き止めて、もう一度一緒に探してやるべきではなかったか。『忘れ物や見落としなどのケアレスミスに注意!』――今度こそ忠告に従い、すべてのマシンをあらためて端からきっちりと。死角や盲点というのは意外に多い。最低二度は見直す必要がある。「全部確かめた」と言っていたが、しっかり見たのは当たりをつけたマシンだけで、それ以外のものは蓋を開け閉めしただけの適当な調べ方をしているような気がする。指摘するが早く口答えのオンパレードだろうが、そもそもは自分のためで――頭の中で説教を垂れながら、何故さっきそれをしなかったのだろうとつのる焦燥に鼓動が加速し、気づけば残ったお茶の殆どを飲んでしまっている。
    本当に、本当に何も探していなかったのだろうか。ほんの今しがたのはなしだというのに、遠い日に見た夢のできごとのように、思い出せば思い出すほど男のことがなぜだか異様なまでに懐かしくなる。姿かたちがではない。あの短い時間と狭い空間のなかで、リゾットの心に瞬間的に現れては消えたもの――理不尽に難癖をつけ続けられた時の如何ともし難い乱れた感情や、一風変わったまとめ髪をぼんやり観察している時の感心や、熱いものが苦手だと聞きみるみる輝き出す碧い瞳を見つめ返した時の得も言われぬ感慨が、たとえば子供時代に帰宅をうながす五時の放送を聞いた時のさびしさや、そうして帰路につき辿り着いた家の少し手前でカレーの匂いが鼻先を掠めた時のうれしさや、明るい玄関に飛び込んだ時のやすらぎなんかに似た、自分を支え、揺らし、形づくる不変的で絶対的で不可欠なものとして、暴力的なまでに強く激しく胸を締めつけてくる。
    喉がからからに渇き、残った水分を一滴残らず飲み干し、空になったボトルを右手首にかけたポリ袋に上の空で放り込む。袋がかさりと揺れ、蓋のずれたトレイから立ち上った微かな温もりが、剥き出しの手首をふわりと撫でる。

    駆け出してからリゾットは思う。あれだ。




    (了)


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    こまつ

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    現パロ?パラレル? 21歳のRと、Pの出会い
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    ・現代日本的な世界観
    ・診断メーカー(ID878367)より、『RPのBL本は
    【題】通り雨
    【帯】正反対なのに妙に惹かれ合う不思議な関係
    【書き出し】そういえば今日の星座占いは最下位だった。
    です』
    ・『このお題で書いたRP絶対オリジナルになってしまう説』検証第二弾
    [更新履歴]
    23.10.22 ☆まで
    deliveryそういえば今日の星座占いは最下位だった。そんなトピックの期限も残り一時間を切った。時刻だけを素早く確認して消灯したスマホを黒いパーカーのポケットに仕舞い、リゾットは闇に呑まれた公園のベンチの上から、十数メートル先のマンションの明るく切り取られた玄関口を引き続きじっと見つめる。

    ここ数年で急速に開発が進んだ駅前の一帯は、真新しい美容室やチェーンの飲食店の新店舗、モデルハウスのような住宅と、良く言えば比してレトロで味がある外観の理髪店や中華料理屋や民家などが混在していた。
    新しく整備された片側一車線の広い市道と、一方通行ですら難儀する狭く古い道が交差する角にぽつんとある猫の額ほどの公園は、明らかに後者のグループだった。曲がり角に立ち並ぶ二本の銀色のポールの合間から中に入れば、日当たりの悪い敷地中央には、過度に湿った重い砂をたたえた砂場と錆びた滑り台が一つ。出入り口の側に唯一立つ街灯は時計付きだが、文字盤の上の針は静止している。敷地際、離して置かれた二基の朽ちかけたベンチからの眺めといえば、手前から、件の砂場と滑り台、見過ごしそうな手洗い場、手入れのされていない植え込みとポールと街灯、その向こうに歩道、広い車道、広い歩道、そのまた向こうに三棟並びそびえる高層マンションの低層階、そこで行き止まる。
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