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    suzume0406

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    suzume0406

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    豪華客船と怪盗団の自陣営出会いの話です。ギャンブラーとスーパーモデルのお話。

    #TRPG
    #豪華客船と怪盗団

     七星ツキは困っていた。
     彼の目の前には、ルーレットがある。あのカジノによくある、大きなホイールと黒と赤のチップを置く場所が表示されているマットがついてあるやつだ。そのルーレットの前に座るツキの手には、先ほどまで夥しい量のチップがあった。金額は、良く分からないがおそらくとても高額だったのだろう。
     それも先ほどまでの話である。ツキは、先ほど持っているチップを一つの数字に全てベットし、負けた。結果、手にしていた莫大な金は失われ、今やツキは一文無しだ。常人であれば発狂してもおかしくない状況だが、ツキは何も感じていなかった。いや、困っていはいたが。
     (まずい……。楽しくてまたやっちゃったかも……)
     ツキはギャンブラーなのだが、金よりもギャンブルという行為そのものを愛していた。熱中しきると、帰りの交通費なんて吹っ飛んでしまうくらいには、ギャンブルに目がないのである。あの、持っているもの全てを賭ける時に感じる血が沸き立つ感覚が、追い詰められたときに感じる己の心臓の音を聞くことがツキはいっとう好きなのだ。
     着古したジーパンのポケットをまさぐる。何もない。一縷の希望をかけて、胸ポケットを漁る。指先に固い感覚があった。ひょいっとそれを引き出してみると、果たして、それはカジノのチップだった。
     一番レートの低い、白いチップを摘まみ上げる。さきほど持っていた大量のチップが、偶然ポケットに入り込んでいたのだろう。
     「やった~!ツイてるなあ」
     チップをぎゅっと握りしめ、ツキはにっこりと笑った。
     しかし、チップは一枚しかない。これでルーレットに挑戦するのは無謀だし、何より楽しい時間が一瞬で終わってしまう確率大だ。それではつまらない。
     キョロキョロと辺りを見まわしたツキは、あるテーブルを発見した。
     「あっ、テキサスポーカー。いいな、あれにしよう」
     六人の客がテーブルを囲んでいる。ツキが近づくと、一人の男性が振り返った。
     その男性は、驚くほど端正な顔をしていた。スッと通った鼻すじに、形のいい眉と、華やかな目元。
     ツキと目が合うと、その男性はニコッと笑った。
     「やあ、君さっきルーレットしていた人だよね」
     その声に他の客もツキの方を見る。
     何名かは、先ほどまでルーレットの周りでゲームを眺めていた人間だったが、もちろんツキには分からない。基本的にギャンブル以外には興味の無い人間なのだ。
     「僕が代わるよ。君たちもいいよね?」
     そう言って男は、先ほどまで窮屈そうに机の下に納めていた足を動かし、立ち上がった。
     「ありがと。でもいいの?楽しくなってきたところだったでしょ?」
     「ああ、いいさ。それより君の勝負を見た方が楽しそうだ」
     そう言って、男は机に積んであったチップを一枚摘まみ上げ、ツキに差し出した。そのままぽとりと落とされたチップを、反射的に受け取る。その色は、黒色だ。
     「あの、これ……」
     「僕は君に賭けるよ。さっき大負けしてたでしょ?使いなよ」
     そう言って悪戯っぽく笑う男に、ツキは面くらった。
     「さっき大負けしてた奴になんで賭けようと思ったの?」
     ツキは今まで、調子がいいとき、つまり勝ち続けているときにやってくる人や、自分に『投資』と称して金を貸そうとする人間はよく見ていた。しかし、大負けした後も揶揄する以外の目的で話しかけてくる人間は、さらに言えば金を貸そうとする人間は見たことが無かった。
     なので、目の前の美しく笑う男がかなり怪しく思えたのだ。いったい何の目的で僕にお金を貸そうとしているのだろう?
     「そうだねえ。君の勝負が美しかったからかな」
     男は当然のようにそう答え、ツキは目をぱちくりさせた。
     「美しい?」
     「ああ、そうさ。まず、賭け方。君、一回に全てのチップを賭けていただろう?あれは美しい」
     にこにこと答える男に、ツキは嬉しくなった。頭がおかしい、狂っているとはよく言われるが、こんなふうに賭け方を手放しで褒められたのは初めてなのだ。嬉しくもなる。
     「そっか。ありがとう」
     「あと、負けた後だ。君、笑っていただろう」
     そうだ。あの大負けの後、ツキは笑っていた。あんまりにも勝負が楽しかったので、思わずこぼれた笑みだったが……。
     「えっ、見られてたの?恥ずかしいなぁ……」
     「恥じる必要はないさ!あの笑顔はかなり美しかったよ!」
     そう言って、男は手を差し出す。握り返した手は、すべすべとしていた。
     「さて、皆さんお待ちかねみたいだ。僕はそろそろ黙るとするよ」
     そう言って、男はツキの後ろに立つ。その動きにつられるように、ツキはテーブルについた。
     すると、待ちかねたように男が口を開いた。その表情は、ツキになじみ深いものだった。勝負と熱気に酔った、自分が勝てると信じている顔だ。先ほどツキの大負けの様子を見ている分、浮かべた笑いに侮りが多く含まれている。
     「お話は終わりましたか?そろそろ勝負を再開しても?」
     「ああ、ごめんね。じゃあ早くやろう。ディーラーボタンは誰が?」
     ツキが尋ねると、男は薄ら笑いを浮かべながら答える。
     「貴方にあげますよ。皆さんも構いませんよね?」
     そう男がテーブルに問うと、席についている全員がいいと口々に答える。その中でも、若く美しい女性の声が高く通った。
     「いいですけど。それっぽっちでいつまでもつかしらね」
     女性は形のいい眉をひそめて、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
     「さあ?僕にも分かりません」
     そんな女性の態度を歯牙にもかけず、ツキはのんびりと言葉を返しながら、手早くカードを切る。そして二枚ずつ配り終え、さっさと手札に目をやった。
     女性はそんな態度を取られ慣れていない(彼女はそこそこ有名なアイドルであったので)ため、ますます不機嫌になり、ツキを睨みつけた。
     「まあまあ。ユリアさん、落ち着いて」
     その場を取りなすように、先ほどツキを小ばかにしていた男が口を開く。
     「どうせチップもあれだけしか持っていないんです。すぐにいなくなりますよ」
     そう言いながら、ツキの前に置かれた黒と白のチップを顎でさした。その言葉に気分をよくした女性は頷き、配られたカードに目を通す。カードを見ながら、彼女はツキの後ろに立つ男にチラチラと熱っぽい視線を送っていた。どうやら彼女が不機嫌な理由の大半は、ツキがあの整った顔の男性と交代してしまったからだったようだ。
     そんなことには全く気付かず、ツキはニコニコと手札を眺める。彼の頭にあるのは、ギャンブルをすることに対する高揚感のみだ。
     あらかじめ決められたチップを場に出し、時計回りにそれぞれ口を開いていく。さすがにまだカードが二枚しか配られていないからか、皆コールを選んで行く。そうしてツキの手番になった。
     「レイズで」
     当然のように、ツキは黒いチップを突き出す。その行動に、テーブルを囲んでいた人間たちからは失笑が漏れた。ポーカーの役は五枚で完成する。手札の二枚と、これから引く山札から役を作り、その強さで戦うのだ。すなわち、今の段階でレイズするのはあまり賢い選択とは言えなかった。
     少なくとも、手持ちチップがわずかなツキにとっては。
     「どうやらすぐに退場することになりそうですな、ユリアさん」
     コールで、最後にそう付け足し、男は黒いチップをテーブルの上に置いた。
     その男の言葉には何の反応も示さず、ツキは全てのチップを一か所に集める。そして、山札からカードを一枚捨て、滑らかな手つきで場に三枚、表にして並べた。
     表になったカードは、ダイヤの3とクラブの3、そしてスペードのクイーンだ。そのカードをみて、ため息を吐く者、勝機を感じ頬を紅潮させる者と、反応は実に様々だ。ただ、ツキだけは、目元が髪の毛で隠れているのもあるかと思うが、無反応だった。
     「あらあら。どうやらいまいちなカードだったみたいね」
     ツキの反応に気を良くしたのか、ユリアが上機嫌で口を開く。その視線はちらちらとツキの近くに立つ整った顔の男性に向けられている。
     どうやら、彼女が不機嫌な理由の大半はあの男性がテーブルから離れたことにあるようだった。
     「うーん、まあまあですね」
     そんな彼女の様子に一切気づかず、ツキはのんびりと答えた。そこには、いい手を引けていない、負けるかもしれないという焦りは一切ない。
     そんな様子に、ユリアは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。
     めいめい次の手を口に出す。ほとんどの人間がチェックを選択する中、一人の男がベットを宣言し、黒のチップを場に出した。その表情は自信ありげだ。
     瞬間、場の視線がツキに集まる。もうツキの手元には白いチップが一枚しか残っていない。すなわち、この状態で彼がゲームに参加し続けるためには、
     「オールインでお願いします」
     そう、全てを賭けるしかない。
     そして、もう一枚カードが開く。それは、スペードの10だ。カードを見てフォールドするものが三名。最初に開いた三枚のカードを見て、いまいちな反応をしていた者たちだ。
     その他三名、ツキ、ユリア、先ほどベットした男、はチェックを選択し、いよいよ残り一枚のカードが開く。
     ゆったりとした手つきでツキが開いたカードは、スペードのジャックだった。別段リアクションもせず、ツキは開いたカードを綺麗に整えて場に並べた。
     この後開くカードはもうない。手札の二枚と、今まで開いた五枚のカードでできた役で勝負するしかないのだ。各々チェックを宣言し、ベットした男から順に、伏せられている己の二枚のカードを公開し、役の強さを競い合う。
     自信満々の男が出してきた役は、3のフォーカードだ。これはかなり強い役である。事実、この役に勝てるのは3以上の数字のフォーカードか、ストレートフラッシュ、もしくはロイヤルストレートフラッシュしかない。
     ユリアは男の役を見て大きくため息をついた。そして投げやりに、己の手札を見せる。スペードのフラッシュだ。この役も弱いわけではないが、いかんせん男のフォーカードが強すぎた。
     「さあ、貴方が最後ですよ」
     にやにやと勝利を確信した笑みを浮かべ、男がツキに促す。
     ツキは、今までの落ち着きぶりが嘘のような笑みを口元に浮かべた。それは子供のような笑顔で、心底この勝負を楽しんでいる表情だった。
     「はい!どうぞ!」
     そんな声と共に開かれたツキのカード、それはスペードのエースとキングだった。つまりツキの役は、
     「はっ……?ロイヤルストレートフラッシュ……?」
     呆然と、自信満々だった男がつぶやく。ユリアも唖然として、カードとツキを交互に見比べている。
     そんな二人を意に介さず、ツキが口を開く。
     「はい、僕の勝ち!も一回やろうよ!」
     そう無邪気に告げながら、テーブルの上の自分の取り分のチップを寄せる。そんなツキの態度に馬鹿にされたと感じたのだろう。言葉を失っていた二人も、すでにフォールドしていた五人もぎろりとツキを睨む。
     そしてそのまま次の勝負が始まる。
     そんなツキの様子を、興味深そうに美しい男が眺めていた。
     
                    *
                                       
     「いやあ、お疲れ様!見事だったね~」
     男がぱちぱちと拍手すると、ツキは照れたように頭を掻いた。
     「あはは、ありがとう。運が良かっただけだよ。あ、はいこれ」
     そう言いながら、増えに増えたチップのほとんどを男に渡す。
     「おや、僕が渡したのは一枚だけだよ?」
     「いや、君のおかげで楽しい勝負が出来たからね。さすがに帰りの交通費はもらいたいけど、あとは君に上げるよ」
     (『楽しい』勝負ねえ……)
     男がちらりとテーブルに目をやると、そこには絶望の表情でうなだれる五人が座っている。彼らの前には、一切チップは残っていない。目の前で楽しそうに笑う、人物に根こそぎ持っていかれたからだ。
     あのロイヤルストレートフラッシュの後、ツキは全ての勝負をオールインでかけ続け、そして勝ち続けていった。それはもう、狂気的といってもいい戦い方だった。
     そして、対戦相手たちが彼のおかしさに気づいた時にはもう手おくれになっていた。
     ツキの言葉に、ユリアが反応する。
     「上げる……?だったら、私に少し返してくれないかしら……?」
     「駄目だよ」
     ツキが冷たい声で告げた。
     「君は賭けた。僕も賭けた。そして君は、僕に負けた」
     そこまで言い切ったあと、あ、と声を上げる。
     「じゃあこれ、一枚だけ上げるね」
     そう言って、黒いチップを女の前に置く。そのチップを見て、ユリアはワアッと泣き出してしまった。先ほどまでとの落差を考えると当然である。
     「あれ……?なんで泣いてるんだろ。あれでもう一回は遊べるのにな」
     その言葉に、男は背筋が寒くなった。目の前の人間は、どうやらそう本気で思っているらしい。背筋は寒くなったが、その純粋な賭けに対する姿勢に、美しさも感じた。
     目の前の人物をもっと知りたい、話してみたいという思いから、男は口を開く。
     「……さあ、どうしてだろうね?ところで君、名前はなんていうんだい?」
     「あ、僕は七星ツキだよ。君は?」
     「僕は、綾瀬ハクト」
     よろしくとハクトが手を差し出すと、ツキはおずおずと握り返した。
     「握手って、初めてするかも……」
     「おや、記念すべき初握手を僕と出来るなんて、幸運だね!」
     その自信満々な様子にツキはきょとんとしたが、勢いに押され、そうだねと同意した。あんなに自信たっぷりなのだ、おそらくそうなのだろう。
     「おや、分かってるじゃないか君!」
     「わわっ!」
     その態度に気を良くしたハクトは、握ったツキの腕をブンブンと上下に振る。
     「どうだろう、色々話してみたいし、食事にでも行かないかい?」
     「はい、僕でよければ……」
     ツキも、自分に何の疑いもなく賭けてくれたハクトともっと話したいと思っていたので、誘いに乗った。
     そうして、楽し気に二人の男はカジノから去っていた。後には、持ち金をすべて失った五人のみが残されていた。
                                       
     
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