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    碧(あお)

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    碧(あお)

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    【「スモバ2」参加作品2】
    「スモバ2」参加作品1『恋心まであと五年』から遡ること1か月前。熱を出したバーボンと、見守るライ&スコッチ。

    何も知らない君へ(『恋心まであと五年』前日譚)「今戻った。スコッチ、バーボンの様子はどうだ?」
    「また熱が上がったみたい」
     眉をひそめながら告げたが、ライは無表情だった。否、俺にはわかる。感情が動かないように見えて、彼はちゃんとゼロを心配している。
    「で、店はあった?」
    「駄目だ、この天候で全部閉まってやがる」
    「そうか……期待はできなかったけどやっぱりか」
     飲料水は、ゼロに与える程度なら持ち歩いている分で何とでもなる。問題は解熱剤だった。三人とも殺しても死なないと言われるほど頑丈な質で、体調を崩すことなどないだろうと高をくくっていたのが裏目に出た。唇を噛みしめた俺の横で、ゼロの苦しそうな寝息が聞こえる。俺とライは顔を見合わせて途方に暮れた。



     三人で組織の任務に訪れた極寒の地。猛吹雪の中を強行軍で進んだ結果、他の任務直後で三徹目だったゼロが倒れた。たまたま見つけた今にも壊れそうなホテルに駆け込んでとりあえず休ませたものの、夜が更けるにつれてどんどん熱が上がっていく。
     携帯の電波も入らないような辺境の地の安ホテルだから、もちろんお湯は出ないし暖房もほとんど効かない。苦しそうに寝返りを打つゼロに、見守る以外何もしてやれないことが歯がゆかった。
     ……と、ゼロの目蓋が少しだけ上がる。
    「ん……せんせ、い?」
    「先生じゃないよ。スコッチと、ライだ」
     ゼロはごく稀に、夢うつつの時に“先生”を呼ぶ。いつもなら先生のふりをすることもあるが、ライが背後にいる今、俺は諭すようにゆっくりと訂正した。身バレするような余計なことをそれ以上言わないように、「スコッチとライ」を殊更に強調して。
     背後のライに特に変化はない。「先生」は聞かれてしまったが、それだけの情報で何がわかるものでもないだろう。
    「ヒ……スコ、ッチ」
     ゼロが苦しそうな息の下から再び呼んだ。
    「ここにいるよ。どうした、バーボン」
    「……さむ、い」
    「うん、寒いよな。ごめんな」
     ゼロには、俺とライが着ていたコート、ゼロ自身のコート、その他ありったけの着替えやホテルの薄いブランケットなど、考え得るかぎりの防寒措置をしている。それでもこの寒さは、体調不良を抱えていない俺たちでも厳しいものだった。熱の高いゼロにとっては尚更だ。
    「仕方ない」
     呟いたライは部屋の隅に置いてあるボストンバッグに近寄ると、中からボトルを取り出した。酒の瓶のように見えるが、ラベルの文字は俺には読めない言語だ。
    「それ何?」
    「ウオッカだ。昨日、道端の賭けポーカーで勝って手に入れた」
    「……大丈夫なの?」
     俺の不安にライは軽く首を傾げると、ボトルを呷って確かめる。
    「まあ、安酒だが飲めなくはない」
    「味じゃなくて……まあ、ライが大丈夫と判断できるなら」
     彼は信用できる。悪の組織で出会った男に対して危険な考えではあるが、俺はずっとそう思っていた。
    「こいつは酒は大丈夫か?」
    「ああ、飲めるよ。めちゃくちゃ強いというわけじゃないけど、人並みかな」
    「ほう……飲める年齢なのか」
    「……たぶん」
     これはゼロには黙っておこう。それでなくとも童顔を気にしているんだ、よりによってライに言われたと知ったら烈火のごとく怒るだろう。
    「どけ」
    「え、ちょっと」
     ライは俺を押しのけてベッドに座ると、再びウオッカのボトルを呷った。そのままゼロに覆い被さり、顔を近づけて、その口元に……
    「あららら」
     これこそゼロには絶対に言えないな。ライに口移しで酒を飲まされた、なんて。
     仕方ないのはわかる。体を温めるためには、今の状況でそれが最善だろう。俺でも同じことをする。
     ……むしろ俺がやった方がまだよかったのでは? でもライは俺にやれとも言わず、自ら進んで処置をした。普段、あんなに犬猿の仲なのに。
    「味はともかく、効果はまずまずのようだな。少し頬に赤みが差してきた」
    「あ、ほんとだ」
     これで、少しでも寒さが和らぐといいんだけど。
    「しかしこれだけでは足りんだろう」
     ライは言うが早いか上着を脱ぎ始める。唖然とした俺の前で身に着けた物を次々に脱ぎ捨てると、あっという間に上半身裸になった。
     すごい体だ。見事に鍛えられた筋肉は適度に引き締まっており、あちこちに見られる傷痕や銃痕は過去の戦歴を想像させる。俺もゼロも、接近戦ではとても適わないだろう。
     ……いや待て、ライの体を批評している場合ではなかった。なぜなら彼は、ブランケットと衣服の山からゼロを掘り出して、その服も剥ぎ取り始めたからだ。
    「ちょっと、何を」
     俺の質問を無視してゼロを上半身裸に剥き終わると、ライはその体を見下ろして感心したように呟いた。
    「ほう、頭と口先ばかりのお坊ちゃんかと思ったが、それなりに戦闘経験もあるようだな」
     その優しげな見た目からおとなしそうだと舐められがちだが、ゼロは実はかなり喧嘩っ早い。組織に入ってからは情報屋という立場を考慮して猫をかぶっているが、相手が戦闘モードに入った時は迷わず買って出るという気の強さがある。大きな怪我をすることはあまりないが、擦り傷や切り傷などは日常茶飯事だ。
     今ライが撫でている右脇腹の傷痕は、子供の頃つまらないことで取っ組み合いの大喧嘩をした時に俺がつけたものだ。俺の左腕にもその時ゼロがつけた傷が残っており、親友の証しだ、と二人で笑ったこともある。
     待て、……撫でている? しかも優しく? 何で?
     俺の無言の疑問に気づいたライは、ふん、と息を吐いて手を止めた。何か言いたそうに口を開いて、でも結局何も言わなかった。再びため息をつくとゼロの隣に滑り込み、衣服の山を自分たちに掛けて横たわる。
     うん、意図はわかる。素肌で温めるのが一番効果的だ。……わかるけど、何か、……大丈夫か?
     ライは俺の胡乱な視線を華麗に無視して、意識のないゼロを懐に抱き込みながら言う。
    「スコッチも寝ておいた方がいいぞ。明日の朝、天候が回復したらすぐに発つ」
    「え、バーボン動けるかな」
    「駄目なら俺が背負う。隣町に大きな病院があるそうだ、さっきフロントの爺さんに聞いた」
    「……そうか、わかった」
     ありがとう。
     心の中だけで礼を言う。あまりにバーボンに肩入れしていると、“組織でたまたま一緒に組んだ男”としては不自然になると思ったからだが、まあ、ライには組織以前からの友人であることは間違いなくバレてはいると思う。わかっていて、お互いに気づかないふりをしている。
     そんなライだから、きっと大丈夫だろう。意識のない、体調も崩しているゼロに何かするとは考えにくい。俺も隣にいるんだし、何かあればすぐにわかるだろうと思いながらすぐ横の寝台に潜り込む。
     そして、大事な親友を無防備な状態で悪の組織の一員に委ねているという今の状態を不安に思うこともなく、俺は朝までぐっすりと眠った。



     目が覚めると、昨夜の悪天候が嘘のように晴れ渡っている。寒さはあまり変わらないが、日が照っているというそれだけで安心できるなあ、と、カーテンなんてシャレたものはない窓から差し込む光を浴びながら起き上がった。隣の寝台に目をやると、ゼロがひとりで眠っている。もしかして、と思って窓から外を見たら、ライが街灯に寄りかかって煙草を吸っていた。雪がかなり積もっているし相当寒いはずだが、病人の前で吸いたくなかったのだろう。……やっぱり、ライのそういうところが、……

     ゼロの寝息は昨夜よりかなり楽になっていた。聞いているのが辛いほど苦しそうだった息が、安らかで規則正しい普通の呼吸に戻っている。
     隣の寝台に歩み寄り、明るい朝日の下でゼロの様子を窺った。顔には赤みが差し、表情の険しさも消えている。ブランケットをめくってみると衣服を身に着けていた。ライが起きる時、寒くないようにわざわざ着せてあげたのか。ブランケットを掛け直して額に手を当ててみる。昨夜の燃えるようだった熱さは影を潜めていた。まだ微熱はありそうだが、この分ならいずれ下がるに違いない。
     よかった。ゼロは元々とても丈夫だから回復も早い。昨夜の不調は、寝不足だったところに無茶な移動と寒さが重なったための一時的なものだったのだろう。
     俺がホッとしていると、扉が開いてライが戻ってきた。手に紙袋を抱えている。
    「ろくなものがなかったが、とりあえずパンと水を買ってきた。食ったら隣町に向かうぞ」
    「うん、ありがとう」
    「ん……」
     俺たちの声で目が覚めたのか、ゼロが小さく呻いて身じろぐ。
    「あ、バーボン。気分はどう?」
     声をかけると、ゼロはゆっくり目蓋を上げた。昨夜の熱っぽいぼんやりした目ではなく、しっかりした意志の強い、いつものゼロの瞳だ。
    「スコッチ……、うん、だいぶマシ」
    「そうか、それはよかった。頭痛はする?」
    「少し。でも大丈夫」
     はっきりと受け答えするゼロは、十分に回復しているようだ。ブランケットと衣服の山から抜け出そうともがくゼロに手を貸して起き上がらせる。背中に薄い枕を当てて寄りかからせた。ありがとう、と小さく礼を言ったゼロの視線が、俺の後ろのライに止まる。
    「あの、足を引っ張ってご迷惑をおかけしました。今後はこのようなことがないようにしますから」
     俺に対する声音とは打って変わった事務的な口調で告げる。慣れているライは気にした様子はなく、軽く肩をすくめた。
    「何でもいいからとっとと動けるようになれ」
    「言われなくとも治しますよ。……ところで、僕、かなり酷かったですよね? よく一晩で回復したな。何か魔法の薬でも使ったんですか?」
     ゼロの当然の疑問に、俺はライと顔を見合わせた。
    「君は何も知らなくていい」
     さすがのライもゼロの気持ちを慮ったのか、一言で切り捨てる。ゼロの眉間にしわが寄った。
    「どうしてですか。スコッチ、どういうこと?」
    「えっ……」
     さすがにゼロにそのまま伝えるのは躊躇する。警察学校では皆で風呂に入ったりしたし、男同士の裸の付き合いなんて普段ならどうということもない。普段なら。
     ただ、相手がライだと……何となくだけど、話が変わってくる気がする。何とかごまかさないと。
    「ライが裸で添い寝したなんて言えるわけない」
    「今言ってるけど!?」
     ……しまった。声に出てた。
    「えっ、えっ!? 裸!?」
     大きな瞳がこぼれ落ちそうなほど目を見開いているゼロに、ライがこめかみを押さえながらため息を吐く。
    「こうなって面倒だろうと思ったから言わなかったんだ……お互い裸だったなんて知ったら騒ぐだろうから」
    「おっ、お互いって言いました!?」
    「素肌で直接温める方が効率的だ、知らんのか」
    「し、……知って、ます、……けど、」
    「男同士なんだから大したことないだろう」
    「そっ、そっ、そうですけどっ」
     あまりに動揺したゼロを可哀想に思ったのか、あるいは更にからかおうと思ったのか。
    「キスだってどうでもいいだろ?」
     ライが要らんことを言う。
    「……はあ!?」
     途端に青ざめたゼロの表情を見て、俺は慌てて訂正した。
    「違う違う、ライが口移しでウオッカ飲ませただけだよ……体を温めるために」
    「そ、そ、それだって、」
    「ライもからかわずにちゃんと説明して。寒さ対策の一環だったって」
     軽く睨んでみせると、ライは軽く息を吐いて肩をすくめた。興奮して毛の逆立った猫になっているゼロを見下ろして、わざとらしくため息をつく。
    「自分で飲めたのか? 意識もなかったのに」
    「そ、それにしたって!」
    「ピーピーピーピーうるせえな、雛鳥じゃあるまいし。初めてじゃないだろ」
     あ、……それ言っちゃう?
    「ちっ、ちっ、違います、けどっ!」
     慌てふためくゼロの反応でライも察してしまったようだ。そう、……全くの初めてだということを。軽く目を見開いたライが再び要らんことを言う。
    「バーボン……まさか本当に雛だったのか?」
    「……っ! ライのバーカ! バーカっ!」
     くちばしの黄色い若造と言われたも同然の台詞に、いかにも子供っぽい罵倒を返す。そういうとこだよ、ゼロ。
     ゼロは恥ずかしさからか、怒りからか、ブランケットに潜り込んで丸くなった。
    「ガキだな、やっぱり」
     ライが面白がって丸まった蓑虫を突っつく。
    「うるさい、おっさんのくせに!」
    「恐らくだが、君と大して変わらんぞ。まあ、君が本当に酒を飲める年齢だったとしての話だが」
    「どういう意味ですか! 僕はちゃんと成人して、」
    「大人はそんなに喚いたりしない」
    「喚いてません!」
     段々とただのじゃれ合いになってきた二人を微笑ましく思いながら、俺は窓際に寄って傍観体勢に入った。あれほど元気に喧嘩できるなら、ゼロはもう大丈夫だろう。
    「他に何したんですか!? 洗いざらい吐け!」
    「全部言った。他にも何かしてほしかったのか?」

     楽しそうなゼロ。ブランケットに潜っていて顔は見えないが、精いっぱい不機嫌を気取っているが、俺にはわかる。あの声は、ライとの応酬を楽しんでいる。そしてライの方も……わずかにだが普段より声が浮ついているようにも聞こえた。実は案外ゼロのことを気に入っているのだ。
    「そんなわけないでしょう!? その『全部』ですら咀嚼できてないのに!」

     むきになるゼロに、ふと笑ってしまった。だけどゼロ、君が知らないことはそれで全部じゃない。君は気づいていない、恐らく君自身は認めたくない真実。
     ライと一緒の任務が多くなった頃から、君は確かに変わった。自分では変わったとは思ってないだろうし、変わる原因も理由もないと思っている。……でも。

     ゼロ、君は、……ライに恋している。君は恋愛ごとに関して本当に何も知らないから、自分の心の内がわからないのだろう。
     ライは悪の組織の一員だけど、俺はNOCだと確信している。俺たちのように警察の人間であることは間違いない。悪ぶっているがその心根は正義側のものだ。真っさらなゼロは、その心根に幾度となく触れるうちに惹かれていったんだと思う。

     今もブランケットの中からきゃんきゃんと子犬のように吠えるゼロと、苦笑しつつも律義に返答しているライを眺めながら、俺はいずれ来るかもしれない未来に思いを馳せた。
     ゼロ、いつか君は自分の気持ちに気づくだろう。それは明日かもしれないし、来月かもしれないし、五年後かもしれない。その時、俺はちゃんと相談に乗るから。愚痴でも惚気でも何でも聞くから。大切な親友を嫁に出すようでちょっと淋しいけど、でも、結婚するならバージンロードは隣で歩くよ。大事な君をライに託すんだ、その役目は絶対に俺がやらなきゃならない。


     だから二人で、いや、ライも入れて三人で。
     必ず組織を生き抜いて、みんなで一緒に帰ろうな。






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    碧(あお)

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    「スモバ2」参加作品1『恋心まであと五年』から遡ること1か月前。熱を出したバーボンと、見守るライ&スコッチ。
    何も知らない君へ(『恋心まであと五年』前日譚)「今戻った。スコッチ、バーボンの様子はどうだ?」
    「また熱が上がったみたい」
     眉をひそめながら告げたが、ライは無表情だった。否、俺にはわかる。感情が動かないように見えて、彼はちゃんとゼロを心配している。
    「で、店はあった?」
    「駄目だ、この天候で全部閉まってやがる」
    「そうか……期待はできなかったけどやっぱりか」
     飲料水は、ゼロに与える程度なら持ち歩いている分で何とでもなる。問題は解熱剤だった。三人とも殺しても死なないと言われるほど頑丈な質で、体調を崩すことなどないだろうと高をくくっていたのが裏目に出た。唇を噛みしめた俺の横で、ゼロの苦しそうな寝息が聞こえる。俺とライは顔を見合わせて途方に暮れた。



     三人で組織の任務に訪れた極寒の地。猛吹雪の中を強行軍で進んだ結果、他の任務直後で三徹目だったゼロが倒れた。たまたま見つけた今にも壊れそうなホテルに駆け込んでとりあえず休ませたものの、夜が更けるにつれてどんどん熱が上がっていく。
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