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    カハラストシーンSSの続きです。主にカハとエコのやりとり。
    当初カハフシでチューシーンあったのですが削りました…。また違う機会にあるので、今回は…。

     #2 echo
     
     
     僕は何もない空間を必死で駆けていた。
     最後、一目フシに……、会いたかった。
     本当は会わないで去ることが正しいのだと、それは分かっている。
     恐らくフシは酒屋にいるだろう。あの場所に意識を集中する。次第に椅子にもたれかかるフシの姿が遠くに浮かび上がった。その隣には……、何故か懐かしい姿のボンが佇んでいた。
    「ボン……? あなたも——」
     それに驚き声を発すると、ボンは僕の姿を見て目を見開き叫んだ。
    「カハク⁉︎ やはりお前が⁉︎ 待て、フシ! まだだっ……! カハク! そのまま——」
     ボンは慌てふためきフシの名を呼んだが、それも虚しく消えていった。
     ボンが僕と同じく霊体としてここにいたとなれば、彼もまた同じくフシのために命を投げ打ったのだろう。
     彼もまた、フシの為ならば命の惜しくない人間なんだ。
     
     惨憺たる有様だった酒屋は、以前と同じように整えられていた。その空間の真ん中には無垢なままの少年の姿があった。まるで何も起こらなかったかのように。
     フシは眠っているようだった。無防備な、小さな子供の様な寝顔……。
     レンリルに向かう途中、三人で過ごした時のフシ。この酒屋で作業に疲れ眠っていた時のフシ。僕はいつもフシの寝顔を眺めていた。せめて幸せな夢を見て欲しいと願いながら。
     いつもと変わらない寝顔だ……。
     ふと足元を見ると、同じ様に眠っているマーチの姿があった。
     彼女は生き返ったはずではないのか? 何故ここに……。
     考えて分かるはずもなかった。
     マーチがフシを救おうと必死に叫んでいた姿が思い出される。僕は彼女のお陰で自分を取り戻すことができたんだ。
    「ありがとう……。マーチさん」
     彼女の前に膝をついて死を悼む。過去の我々一族が犯した過ちについてもまた、決して許される事ではないが、どうか許して欲しいと心中で懇願していた。
     僕の背中をトントンと叩くものがあった。驚いて振り向くと悲しそうに微笑むエコの姿があった。
    「エコさん⁉︎」
     エコはいつもと変わらず明るく微笑んでいた。しかしエコは……、生きていない……? 瞬間無いはずの心臓が潰れる程痛んだ。
    「あなたが、あなたが亡くなるなんて……。間に合わなかったんだ、僕のせいだ……! あなたが死ぬ必要なんてなかったのに、ごめん、ごめんね……」
     僕はエコを抱き締め大袈裟に涙を流した。エコは微笑みながら優しく僕を押し戻し、ぼくの手に自分の手を合わせた。すると、エコの思い描くイメージが頭の中に伝わってくる。そうか、今なら望めばエコの言いたいことがわかるのだ。
     フシと仲間達は食卓を囲んでいる。皆朗らかに笑い合い、美味しそうに食事をしていた。フシはボンの姿で……。
    『おれの夢はね、みんなの夢を叶えることだよ……、おれは皆を平和な世界に連れて行きたいんだ——』
    「これは……」
     眼を開けると、エコはニコニコとして僕の服の裾を引っ張った。僕に待てというのだろうか。
    「エコさん、あなたは待つのですね。フシの作る平和の世が来るまで」
     エコは嬉しそうに大きく縦に首を振る。そして今度は僕のマントの裾を引っ張る。
     僕は、ここで待てば、またフシに会えるのだろうか……?
     ボンが言いかけていたことも、それに関することなのだろうか。淡い期待が浮かんだが、すぐ様消えていった。
     三人の不死身の戦士達が、繰り返し死んでは生き返る様を思い出していた。人は、そうあるべきではない……。そして、僕は僕の魂と共に行かねばならない。
     それに、恐らく僕は歓迎されないだろう。無理もない。再びフシを傷つけないとも限らない。自信がなかった。僕が生き返ったら左手はどうなるのだろう……。確証がなかった。
     そう思った時、本当にこれでお別れなんだという実感が込み上げて、たまらなく寂しくなった。自決したことに後悔を感じる程に。
    「フシ……、僕はもう……」
     フシの頬に触れようと右手を差し出す。確かに触れているように見えるのに感覚はなかった。すぐ隣にいるようで、僕とフシの間には途方もない隔たりがあるんだ。
     もう、フシを抱きしめることは出来ないんだな……。
     ここに来てそんなことを思うなんて、馬鹿げている。しかしそう思わずにいられなかった。僕は死してなお、性懲りも無くフシに恋している。
     あのキャンプの夜のことが脳裏に浮かんだ。抱き寄せたフシの舞い散る黒髪は、月明かりで艶やかに輝いていた。思えばあの頃から僕は、フシを傷つけてばかりだった。
     そして、「あの瞬間」。
     琥珀色の透き通る瞳の中に、恍惚とした僕の姿が映されている。僕はフシを抱き締めたかった、もっとずっと近くに感じたくて。ただ癒してあげたくて、痛みから救い出してあげたくて……。
     だが、そうはならなかった。フシはフシの形が無くなるまで、僕のことを見つめ続けていた。
     一つ、また一つ。涙が零れ落ちる。
    「一緒にいたかった、ずっとあなたと……。僕を許してください。あなたを傷つけてしまった……。あなたを守るという約束を果たせなかった。ごめんなさい……。ごめんなさい……、フシ……」
     フシの足元に疼くまりとめどなく涙を流した。しかし、僕の涙でフシが濡れることは決してなかった。水滴はゆっくりと空間を漂い、やがて空気に溶けて無くなった。
     エコはそっと僕に寄り添った。生身の人間のような感覚はないが、暖かい心地だけは伝わってくるような気がした。
     そうだ、こうして僕のせいで悲しい思いをする人がいるのだから、僕が泣いてばかりはいられない……。
     決断の時だ。
    「エコさん、僕は行かなくては」
     エコは驚いた顔で僕を見上げた。何度も強くマントの裾を引っ張り、腕を掴んで揺さぶる。
    「カハ!」
     突然エコが僕の名を呼んだ。思いがけないことに驚きもしたが、同時に嬉しさが込み上げた。彼女にしたらそれは、最上級の努力だと知っているから。
    「僕の名前覚えてくれたんだね。ありがとう。でも、ここにはいられない。ごめんね……」
     エコの頭を撫で強く握りしめた拳を優しく解いた。それでもエコは必死にマントを掴み涙を滲ませ何かを訴えている。
    「僕がここに来たことは……、フシには内緒だよ」
    頭を撫でながら小さくエコに伝えると、エコは顔を歪め悲しそうに微笑む。
    再び黒い不吉な気配が迫り来るのを感じた。僕の場所を嗅ぎつけたようだ。エコの拳を制して立ち上がり、フシと離れた場所に立ち尽くした。
    「さぁ、黒の方、約束の時です」
     僕の声掛けに音もなく黒尽くめの男が現れる。彼は僕の前に立つと額に手をかざし心に語りかけた。
    『では、目を閉じ、なりたいものを想像しなさい……。迎えが来る前にお前のファイを解き放とう……』
     僕は無言で目を閉じる。やがて意識が拡散し曖昧になる。緩む思考の端に、己の存在が小さく輝く欠片に変わっていく感覚があった。
     僕のフシへの最後の想いが薄く眼を開かせた。涙でぼんやり滲んで、もうよくは見えない。手を伸ばし駆け寄ってくるエコの姿。その向こうにフシの座る椅子の輪郭が見えた気がした。
    「フシ、さようなら……、わすれ——」
     
     彼の最後の言葉は掠れて空に消えた。エコが駆け寄ったとき、既にカハクの姿は跡形もなく消え去っていた。
     
     
     
    *******

     
     
     ……? 
     なんだ……?
     遠い遠い記憶の断片がふいに蘇った気もしたが、分からずに消えてなくなった……。
     ここ最近はそういった瞬間が増えているように思う。
     記憶障害……? そんな訳ないか。
     行きつけの書店を後にし、そそくさと家路を辿る。先日取り寄せを頼んでいた本が手に入った。フシに関する書物はかなりの数読んだが、まだまだ読み足りない。特に今日手に入れた本はレア中のレア……。
     ——ドン!
     通りがかりの人にぶつかってヨロヨロとよろめいた。手近にあったガードレールに手を着いて転ばぬように踏ん張る。
    「あ、ごめんなさいっ!」
     ぶつかった瞬間長い黒髪がふわりとなびいて何故かドキリとした。咄嗟に目をやると彼女は僕に謝りながらも、既に走り去ろうとしている。去りゆく背中を何となく見つめた。
    「ちょっとフシ〜! プラネタリウムそっちじゃないよ! も〜! 勝手に先行かないでよ〜!」
     さらに大きく、一拍の心音が鳴り響いた。
     聞き間違いかな……、まさか……。
     フシ……?
     いやでも、まさか。おそらく僕のフシオタクの度が過ぎて、なんでもそういう風に聞こえるのだろう。そう思ったら笑いが込み上げた。これはまずい。なんでも程々にしないと、幻聴まで聴こえるようになったなら。
    「あ、雪」
     先ほどぶつかってからガードレールにもたれたままだった。何気なく空を仰ぐ。曇り空の遥か上空からチラチラと粉雪が落ちてくる。今日はここ最近で一番の寒さになるらしい。
    「フシ……」
     意味もなく呟いて、その響きに浸った。たまらなく心地が良い。その二文字は、今までになく甘美に僕の心を支配してくれた。フゥと柔らかく温たい溜息が漏れた。
     もしも、奇跡が起きて会えたなら……。
     そう想像するだけで心が満たされる。最早これは、恋なのではないかと思える程。
     自分の溜息が目の前を白く煙らせる。
     何気なく先ほどの彼女が走り去った方へ目をやる。
     もやの向こう側に、雪のように白い少年の駆けて行く姿が見えた。

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    DONE『あなたのために、できること』#1

    レンリル編を題材にしたカハフシ小説です。カハフシエコの日常や、レンリル戦を控えたカハとフシの心情などを妄想してます。
    チュー程度はあり。
    以前に上げた作品を加筆修正しています。
    さして必要もないあとがきは消しました笑

    全部で3章。加筆修正でき次第上げていきます、
    相変わらずレンリルの朝の日差しは眩しかった。
     薄目のまま天井を見つめる。寝室の飾り窓から注ぎ込んだ光は目の前を仄白くけぶらせた。
     淡いモヤの中でチラチラと輝く塵。それをただ意味もなく眺めていた。
     まだ頭がハッキリしないから、とりあえずその場でうーん、と伸びをしてみる。ふっと緩めたら、朝陽で温められた空気が身体に吸い込まれた。
     ソニア国の気候はヤノメに比べて温暖。湿気は少なく晴れの日が圧倒的に多い。肌に感じる空気はカラリと乾いて申し分のない朝なのに、心は反対に陰鬱だった。
     既に隣にフシの姿はなく、起き上がり辺りを見回すと台所の椅子でぼんやりしているのが見える。
     朝の透き通る光に溶け込み、クタリと柔らかく椅子にもたれる姿は言いようもなく綺麗で、その横顔を眺めれば鬱陶しい気分も軽くなる気がした。
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