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    ※注意
    ・風赤のようなそうでないような
    ・風見に関してものすごくいろいろ捏造しています

    風見と赤井が喫煙所で会って距離がちょっと近づく話/



    ※注意
    ・風赤のようなそうでないような
    ・風見に関してものすごくいろいろ捏造しています(本誌を追いかけていないので最新情報に齟齬がある可能性もあります)
    ・合同捜査奴
    ・その他なんでも許せる人向け





     喫煙所の扉が開いて、静かに、しかし明確な気配をもって外から現れたその男を見た風見は、絵に描いたような男だな、と思った。
     小さく区切られた空間の中で、緩慢に、帯を成して空気清浄機に吸われていくだけだった白煙が、男が立ち入った瞬間にかき混ぜられてちりぢりになる。当たり前のことすら演出のように際立って、意識せずとも目に留まる。見惚れるというには少し違う、注意を引くといえばまだ聞こえがいいが、他者を警戒させるような冴え過ぎた存在感だった。
     男は迷う素振りもなく、入ってすぐ左のあたりに落ち着いた。彼らのオフィスがここ警視庁になってからそう長くもないというのに、適応が早いのか。もしくはこの短い期間で慣れる程に、ここに通い詰めているのかもしれない。会議の小休憩の度に姿を消す男の行方を、苛ついた様子の上司に幾度も尋ねられた末、「次の小休憩で捕まえておけ」と言い渡された経験からすると後者の可能性も多分にある。尚、風見にとっては結局あんなに目立つ男を見失った苦い記憶でもある。
     それくらいには職務上で接触があり、そろそろ見慣れ始めた姿であるにも関わらず、いまだ馴染みを覚えられないその気配にぼんやりと視線を向ける。風見とて、常日頃は分かりやすく人を眺めることなど無いが、喫煙所の薄く白んだ空気と相まってかどうにも人間を見ている気がせず、硝子越しの液晶か、展示品でも見ているようだった。――と、唐突にその展示品と目が合った。
     何か考える間すら与えられず、ずんずんと歩いて(といっても、その長い脚はたった数歩で喫煙所を踏破した)風見の目の前までやってきた男は、先ほどまで懐に突っ込んでいた手ぶらの左手をこちらに差しだして一言、
    「火を貸してくれないか」
     目が合ったどころか何か要求されている。呆然としている間に、耳を素通りして反対側から出ていきそうになった言葉を慌てて拾う。
    「火、ですか」
    「ああ、無いのを忘れていた」
     おうむ返しによってなんとか内容を嚙み砕く時間を得た風見は、素直にシャツの胸ポケットからライターを取り出して、じっと待っていた左手にそっと載せる。不思議と何かの罠かもしれないなどとは露とも思わず、むしろ、喫煙者ならあるよなあ、と、誰にでもあるような小さなミスがこの男に起こっていることに拍子抜けしたような心持だった。
     ありがとう、と手が引っ込んでいくのを目で追う。長い指の中で窮屈そうに収まるディスポーザブルライターに、この男にも似合わないものがあるんだな、と思う。
    「忘れることもあるんですね、赤井、捜査官も」
    「ん……あぁ、朝、落としたんだ」
     今朝の土砂降りを思い出して、あー、と気の抜けた相槌が出た。初夏によくある突発的な豪雨だったのだが、ずっと水たまりの中を歩いているような状態で風見も足元がそこそこの惨状になった。そういう時に起きるアクシデントは額面以上に精神に響くもので、気の毒に思う気持ちまで湧いてくる。
    「濡れても結構使えるものだと思っていました」
    「? まあ、湿気くらいであれば乾かせば使えるが、水没してはどうにもな」
     ヴィンテージのジッポを使っているイメージだったが、もしかしたら違うのかもしれない。そもそもイメージと言っても、会議や庁内で目にするか、良くて職務の上でやり取りをするくらいの相手だ。結局のところ現状、日本警察で他組織の窓口になっているのは降谷で、それ以外の人間は降谷を経由して動くのが常だ。その部下である風見が、他の組織の人間と行動を共にする時間はそう長くない。
     ようやく煙にありつけて落ち着いたのか、深く息を吐き出した後、ライターが差しだされる。受け取ると、そのまま風見の横に腰を落ち着かせたようだった。そこで初めて、僅かに自分の方が目線が高いことに気付いた。風見自身、自分の身長は高い方であると認識していたが、体格の差で――ぼかさずに言えば顔の小ささや腰の高さの話だ――赤井の方が高身長だと思い込んでいた。
     喫煙所で、知り合いの喫煙者が隣に立つことへの違和感など有る筈もなく、ごく自然に話題が続く。
    「靴や服は無事でしたか。自分の方はスラックスの裾まで色が変わりましたよ」
    「被害甚大だな。まあこちらも似たようなものだったが」
    「こういう時、庁舎に替えを置いておいて良かったと思います。帰れない時に備えてなので恨めしくもありますが」
    「それはいいな。これから日本だと雨季だろう?」
     思わず、冗談めかして「貸しましょうか?」と口から出そうになって、急に冷静になった。赤井に?スラックスを貸す? ここまで意識すらしなかった、自分と相手の適正な距離感を見失う。こんな些細な雑談すら初めてなのだ。
     風見が混乱している間に満足したらしい赤井が、備え付けの灰皿に吸い殻を落とすと風見を振り返る。数十センチの距離でグリーンアイズがはっきりと見えた。
    「助かった」
     君が居てくれて。
     その瞬間、思考がすべて止まった。自分がこの喫煙所に居合わせたのはただ単純に会議室から近かったというだけで、他にも同じ会議に出席していた人間が同じように休憩に来ている。たとえ風見が居なかったとしても、赤井は彼らから火を借りただろう。だから、大した意味を持った言葉でないことは分かっている。きっと他の誰かより、風見の方がすこしだけ、気軽に声をかけやすかったというだけだ。たかだかそれだけのことだというのに、それは何か大きな感情になって風見に衝撃を与えた。
     恐らく。嬉しかった。
     そのまま喫煙所から姿を消した男の残像を追って、扉を眺める。去り際の言葉に自分が何と返したのか、何の反応も出来なかったのかの記憶も曖昧だった。赤井は自分の言動が風見にどれだけの効果をもたらしたのか、考えもしないだろう。
    「……恐ろしい男だな」
     いつか聞いた言葉をなぞる。赤井が会議室に戻ったということは、どうせひと悶着ふた悶着の小競り合いが発生するだろう。いつの間にかフィルター間際まで火が迫っていた煙草を携帯灰皿にねじ込んで、予定外ではあるがもう一本を引っ張り出す。何故か、赤井と近いタイミングで戻ることに、妙な気恥しさを覚えていた。




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