【デイテス】thick clouds of sweet smoke 人の記憶には『プルースト効果』と呼ばれる現象がある。それは対象の匂いを嗅ぐことで懐かしい記憶や当時の感情が蘇るといった現象のことだが、傍から見て記憶障害と思われたデイビットのような記憶媒体でも例外ではなく、『原始的な感覚』として、至極当たり前に存在した。
そんな細やかな“匂い”から取り出されたのは、幼い頃に見た父の記憶だ。遠方の調査から帰ってきた父は火に燻されたような、白っぽい色のにおいがして、駆け寄ってきた少年が抱きつこうとすると、すぐさま鼻の奥を刺激する。
──「ああ、ごめん。すぐに着替えるからね」
涙が出るほどクシャミした少年は当時、それがなんなのかわからなかったが、食卓に出る肉を焼いた香りとはまた違って、不思議と『善いものだ』と感じた。
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