春に唄う花たちよ 少しずつ、夜の気配が滲みだす頃。六車宅の縁側では二人きりの宴会が開かれていた。
口にした酒の柔らかな口当たりと軽やかな飲み口に、本当にいい酒を開けてくれたのだと檜佐木は知る。
「旨いっす」
「そうか」
同じ酒の注がれた盃を片手に、六車は何でもないふうに答えた。
昼間より少し冷える空気は、酒で温まる体には心地よく、時折吹く風は穏やかにふたりの髪を揺らした。
襖を開け放った部屋の灯りを光源に、縁側と庭の一部を照らした空間は、まるで世界から切り取ったかのように明るく、暗く、静かだ。
檜佐木がちらりと隣を窺う。庭へと体を向けて胡坐をかく六車は、前を見たままやはり静かに杯を傾けている。
それに倣い、檜佐木も目の前に広がる庭の風景へと目を向ける。
4038