おいしいものには逆らえませんので イデア先輩と外デート。一体誰がこのパワーフレーズを信じてくれるだろう。少なくとも当事者である私は疑ってかかっている。現在進行形なのにね。でも言葉のつながりとしてあまりにもパンチが効きすぎてるからね。仕方ないね。
「あ、これ美味しい」
「ほ、本当ですか!? よ、よかったあ……」
心臓ごと跳ね上がった私を見てちょっと引いてるイデア先輩は何とも言えない顔でハンバーガーにぱくついた。意外と大きなおくちをしていてきゅんと胸が甘く疼く。覗いた独特な鋭い歯列も含めてあまりにも好きとしか言えない。
「こういうお店、てっきり人でごった返してるもんだとばかり思ってたけど……意外といないんだね」
「あ、予約限定なんですよ。一日十組までなんですって」
「そういうこと……納得。ま、拙者としてはありがたいですけど」
心底どうでもよさそうな顔をしてもそもそハンバーガーを食するイデア先輩があまりにも良すぎて眩暈がしてきた。本当にこれは現実なのだろうか。解像度が異様に高い白昼夢なのでは。いや、ある意味超絶低解像なのかもしれない。私の願望を反映させすぎているので。
「……食べないの?」
「えっ!? あ、た、食べます! 食べますともっ」
怪訝な目を向けられて慌てて運ばれて少し経つサンドイッチにかぶり付く。レタスの瑞々しさとトマトの甘やかな酸味に混ざってカリカリのベーコンが舌に乗った。えっなにこれおいしい。これまで食べてきたBLTサンドの中でダントツ一位に躍り出てきた。さすが予約戦争が起こるだけのことがある有名店。なにこれおいしすぎるんですけど。
夢中になって貪っていたら吹き出す声が聞こえてぴたりと止まる。静かに血の気が引いた。やばい、デートなのに餓えた獣みたいな貪り方しちゃったんだが。
「ふひっ……ひひっ。必死すぎワロタ。食い意地張りすぎ。誰も盗らないんだからゆっくり食べればいいじゃん」
半分ほど食べたハンバーガーを皿の上に置いてイデア先輩が笑っている。それはもうにやにやと意地悪く。かっと頬に熱が上る。己の食い意地をこれほど恨んだことはない。でも美味しいんだよなあ!