逆行レターに献杯 ごくごく普通の、ありふれた白い封筒。コンビニで売ってそうな、ごくごく普通のそれ。百均の方がもっと色々なデザインを取り扱っているのではないか。
訝しみながら宛先の文字列を追いつつ裏返して差出人を見る。ちょっとあり得ない寄りのあり得ない人の名前で目頭を押さえた。
「……冗談で言ってたのに」
郵便受けに入っている手紙を手に矯めつ眇めつ眺めた上で差出人の名前を再度見る。イデア・シュラウド。間違いはなさそうだし、私の都合のいい妄想でもなさそうだ。
さっさと家に引っ込んで手紙の封を切る。ふわふわする心のままに中の便箋を取り出した。これまたシンプルな白い便箋だった。イデア先輩が選ぶにしては随分と大人しいとは思うけれど、あの人まず手紙なんて書かないだろうしな。色々考えた末、無難なチョイスに落ち着いたと見た。その様子がありありと浮かんで笑みが溢れる。
ぺらり。折り畳まれたそれを開く。スラング満載の、イデア先輩らしい文章だった。手紙を書いてくれた経緯なんて書いてくれてないけど、用件だけはキッチリ記載されている。逆に言えばそれ以外はない。つくづく雑談が苦手な人だと再び笑みが溢れる。手紙なんて一番煩わしいと思うだろうに。
文字を指でなぞる。読みやすいブロック体のそれ。普段がタイピングの人だから下手に崩し文字を使うより楽なのかもしれない。
目を細める。棚から便箋と封筒を取り出す。なんとなく綺麗だからと買ったまま引き出しに押し込んでいたガラスペンを引っ張り出した。
今のこの時分で文通だなんて、と笑ってしまうけれど、これは電子の海を経由することなく紙媒体で届いてほしいのだ。