虚無に戯れ 虚空を見つめている。いつも通りぬるっと部屋に上がり込んできたかと思えばカーペットの上で膝を抱えるなりぼんやりと。何かあるのかなって思ってそっちをチラっと見てみたけどまあ何もないよね。何もない天井があるだけだよね。逆に怖いんだよな。いっそゴーストとかいて欲しかった。嘘、何人たりとも立ち入って欲しくないです。普通にびっくりするし。不法侵入を許容する人間とかそうそういないと思うんですよ。
君に視線を移す。どこまでも虚無としか形容しようがない顔をしている。目が虚ろっていうか死んでるっていうか。生きてる人間でここまでやばやばな目をすること、ある? いや現実すぐそこにありえてるんだけどさ。
何かしてくるわけでもないし本当にただ虚無ってるだけだから実害は皆無なんだけど、それはそれとして気はなるよね。なぜ他人の部屋で虚無っているのか。自分の部屋でやっていればいいだろうに。拙者、仮にも先輩なんですけど。
「……ねえ。さっきから何もないとこ見てるけどなんかあるの? 無言で佇まれるのシンプルに恐怖なんですが……」
声を掛ければ緩慢に君の顔だけがこっちを向いた。目は相変わらず死んでいる。他が微動だにしないのあまりにも怖いんですけど。これなんてホラー?
思わず体をびくつかせれど、君は特にリアクションもなくただただじっとこちらを見つめている。だから怖いんだってば!
「………………」
「え? なんて?」
小さく口が開閉して何かボソボソ呟いたけど、距離もちょっとあったし声が小さいしで全然聞き取れなかった。人に何か伝えるならもっとハキハキ喋ってくれませんかね。もしくはチャットでメッセ送ってほしい。
じ、と虚無顔をぶら下げたまま君がのそりと立ち上がる。何をする気だと身構えたらベッドの上にのそのそと上がり。ぼすんと横になった。いやそこ拙者のベッド。
そこから何をするでもなく、しん……と反応がなくなった。虚空を見つめるかベッドの沈むかの違いだけしかないってこと? つまり拙者の部屋に入り浸るのは継続ってことですかそうですか。
「え、何? 寝るの?」
しばしの沈黙の後、布団に半分埋まった頭がこくりと縦に揺れた。マジでなんなのこの後輩、自由すぎか?