幸せなら手を繋ごう「この触角には感覚があると言ったな」
“釘と金鎚”の拠点、大鎚であるムルソーの居室にて、グレゴールは顎の右側から生えた虫の触角を、鎧を脱いだムルソーの指先で弄ばれていた。
「んっ……その、そこは、その、そうです。そこのは特に敏感で……」
顔の皮膚に少し劣る程度には感じます……と小声で絞り出すグレゴール。眉はハの字に下がり、目はぎゅっと閉じられている。ムルソーの指から与えられる甘い感覚に耐えているのだろう。困ったような表情とは裏腹に、ムルソーの指を捕まえようと積極的に絡んでくる触角に対し、ムルソーは愛おしさを感じながら、さらに質問を続ける。
「ならば、他の部位から生えてくるものはどうだ。脇腹や背中からも生えてくることがあるだろう」
その問いを聞くと、グレゴールの表情が固くなる。彼は主に精神が昂った際に、体のあちこちから皮膚を突き破って虫の脚や翅が生えてくる異形化発作を起こすが、彼自身はこの発作を醜くて不快なものだと思っていた。ムルソーは何故か気に入っているようだが。
「何かに触っていることくらいは分かります。形や温度などがつぶさに分かるわけではありませんし、随意に動かすのも難しいのですが、触っているということ自体は」
接触に対する感度は概ね、その脚が生えている部分の皮膚より少し鈍い程度だと、グレゴールは記憶を手繰り寄せながら回答する。彼にとって異形の脚は存在するだけで忌み嫌われるべきものであり、感覚がどうという部分まで検討するものではなかったからだ。
「そうか……」
グレゴールの答えに納得しつつも、更に何か難しいことを考えている様子のムルソーが、吐息混じりに応答する。それと同時に、グレゴールの顎周りからそっと手を離そうとしたのだが、他ならぬグレゴールの触角がその手を強めに引き留めたので、ムルソーは思わず笑みを溢した。グレゴールは酷く赤面した。
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ある夜のことだった。
異端を浄化するために行軍した先で、可能な限りの殺戮を尽くした“釘と金鎚”の面々は、拠点に帰投する前に、部隊の人員確認をしていた。いくつかの小隊に分かれているらしい彼らを、各隊の先頭に立つ金鎚が数え、負傷状況を確認している。先頭に立っているのはほとんどが中鎚だが、たった一つ、大鎚のムルソーが直接統括しているらしい小隊も存在した。そこにはもちろん、虫の腕をしたグレゴールがいる。
「第一部隊……全員生存……。損傷、軽微につき特段の処置はしない。各自、甘美なる苦痛を感じながら帰投するように」
「はっ!」
「握る者に栄光あれ!」
朝霧のように地を這うムルソーのバリトンを聞き漏らすはずもなく、金鎚たちが鋭く返事をする。グレゴールも、ムルソーの目の前で元気に敬礼をしていた。
少しして、他の隊の人員確認も済み、ムルソーたちは拠点へと帰投することとなった。ある者は腹部の傷を押さえながら、ある者は足を引き摺りながら、時折血を溢しつつも歩みを進めていく。グレゴールは、ムルソーの広い背中を眺めながら追随していた。
この日の戦闘は終わったが、グレゴールの中ではまだ炎が消えずに燃えていた。戦闘行動で闘争心が刺激されたのか、はたまた口に含んだ異端の肉で生存欲求が促進されたのか、グレゴールの心身は昂っていた。特に今夜は、敵の攻撃を受け止めるムルソーの陰からグレゴールが飛び出して敵の不意を突く作戦が上手く行ったのもあり、グレゴールは普段よりも余計に高揚していた。愛おしい相手とまるで一心同体のような動きができて、彼の熱は収まるところを知らなかった。
緋色のマントと鉄色の鎧に彩られたムルソーを見上げながら、グレゴールは歩く。小柄で、装甲靴も履いていないグレゴールは、身長が低いため、隊列の先頭、ムルソーのすぐ後ろが定位置だった。
(ムルソー殿、いや、大鎚殿……)
愛おしい雄の気を惹きたい、呼び止めたいという気持ちを、ぐっと堪える。詰め所に帰るまでが作戦行動で、今は仕事中なのだから。しかし、発散されることのない熱は彼の中に渦を巻いて留まる。まるでお伽話の竜が吐く炎のように、熱い熱い想いが今にも身体から這い出してきそうだと、グレゴールは感じた。
東の空が黒から青に変わる頃、ムルソーたちは拠点に辿り着いた。ムルソーが解散の号令をかけると、ほとんどの金鎚たちが寝床に向かう。一部の金鎚たちは教典の読み合わせ会を自主的に開くため移動し、またごく一部の金鎚は“教育”のために引き摺られていく。
ガチャガチャと金鎚たちの鎧が音を立てる中、ムルソーがグレゴールを振り返った。グレゴールはパッと顔を輝かせて、ムルソーに駆け寄る。
「お、大鎚殿!」
「もう“ムルソー”で良い。当人の愛しき伴侶、グレゴール」
周囲の金鎚のことを気にしてムルソーのことを“大鎚”と呼んだグレゴールだったが、当のムルソーはすっかり気を緩めており、甘く囁きながらグレゴールの頭にそっと手を乗せた。籠手の隙間にグレゴールの髪が絡む。
それを感じた途端、グレゴールの中で何かが爆ぜた。
「ムルソーどのぉ、ぉ、ぁ、ぁぁぁあああああ!!!」
腰に激痛が走り、次いで布が破れる音がする。異形化発作だ。長い虫の脚がグレゴールの腰の皮膚を突き破り、支給の制服すらも貫通して伸びる。次の瞬間には、三本の触肢がグレゴールの頭上で引き攣れたように揺れていた。
「あっ、あぁ……ムルソー殿、ダメです、見ないでください。見ないで、醜いですから」
「何を言う」
グレゴールは恥じらい、触肢を抑えようとするが、ムルソーは寧ろその触肢に手を伸ばす。優しく、愛おしむように、そっと指先で掴んだ。
「……痛むか?」
「あっ、え……?」
するすると、まるで長髪を手で梳くときのように、ムルソーはグレゴールの触肢を撫でる。その根元、新鮮な血液を流していた傷は少し痛んだが、持ち前の再生力で既に治ってしまったのか、ムルソーに触れられているという刺激の方が勝ったのか、痛みはすぐに鈍くなっていく。
「ええと……大丈夫、です。引っ張られる感じは分かるんですけど」
「やはり感覚はあるのだな。ならばちょうどいい」
グレゴールの顔色が悪くないことに安堵したムルソーは、更に二本の触肢をその手に集めると、指の間に挟むようにして握る。それはまるで、人間の手と手を結ぶ恋人繋ぎのように……。
「今や仕事も終わり、貴殿と当人はひと組のつがいである。ならば、つがいらしく手を繋いで行こう」
ムルソーの言葉を聞いたグレゴールは、少しの間、理解が追いつかなかったのかポカンとしていたが、徐々に何を言われたのか分かったようで、感極まったように唇を震わせはじめる。
「自分が……ムルソー殿と、手を……?」
「何を驚くことがある。これは正真正銘、純粋なる貴殿の“手”なれば、」
ムルソーは握り込んだ触肢をゆらゆらと揺らした。
「今の状況は、“手を繋いでいる”というものに他ならない」
ムルソーの表情は仮面で遮られていて見えなかったが、きっと微笑んでいたことだろう。声色は暖かかった。
手を繋げたらどんなにいいだろうと思っていたのだ。グレゴールの“腕”は鋭い鎌のついた虫の腕だったから。そして、まさか手を繋げるとは思っていなかったのだ。身体から生える触肢は醜いゴミで、手などではないと思っていたから。しかし、ムルソーはグレゴールの身体に次々と新しい意味を与え、価値を塗り替えていく。それは言葉の上だけで、本質的には何も変わっていないのだとしても、グレゴールがここに、彼のそばにいたいと思うには十分だった。
「ムルソー殿と、自分が、手を繋げる日が来るなんて……!」
グレゴールの瞳が潤んで揺れる。腰からは次々と翅や触肢が飛び出していたが、もはや痛みすら感じない。ムルソーはというと、触肢が飛び出すたびにそれを捕まえ、自らの手に収めていっていた。
「もっと早く繋いでやればよかったか。寂しい思いをさせてしまったな。さぁ、共に行こう」
そうしてムルソーとグレゴールは、手に手を取り合って寝室へと向かって行ったのだった。随意に動くはずもない触肢が、確かに握り返してきたような感触を、ムルソーはその手で味わっていた。
なお、その様子を目撃した他の金鎚たちは、「あんまりやっていると、また握る者に叱られますよ」と半ば心配し半ば呆れていた。
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それからというもの、グレゴールは触肢が生えるたびに、ムルソーと“手”を繋ぐようになった。タイミングとしては仕事の後が圧倒的に多かったが、居室での交歓中に飛び出してくることもある。初めはその度に恥ずかしがっていたグレゴールだったが、やがて自分から進んで生えた触肢をムルソーに見せにいくようになっていった。ムルソーはその触肢を握ったり、指を絡めたり、まるでワルツを踊るときのように捕まえたり。稀に握ったままパペットのように弄んでくることもあり、そうなるとグレゴールは少々困ったが、愛おしい人と手を繋ぐ喜びが勝るので拒みはしなかった。
自分の意思では動かせず、たまに勝手に動いたり痙攣したりするその触肢が、先端の爪でムルソーを傷つけることもないではなかったし、その度にグレゴールは泣いて謝っていた。しかし、ムルソーがその痛みすら受け入れ、グレゴールをあやすように触肢を撫でるものだから、今度はその優しさが嬉しくて、彼はまた泣いてしまいそうになるのだった。そういった経験を重ねていくうちに、グレゴールの触肢が変に動くこと自体が減っていくようだった。
だからグレゴールは、すっかり慣れてしまっていたのだった。自分の身体から異形の腕が生えることや、その触肢を制御できているわけではないということに。
ある晩のことだった。
その日もグレゴールは浄化のために作戦に参加していたが、珍しいことに、傍にいたのは大鎚のムルソーではなかった。彼のいる小隊を率いていたのは、中鎚のドンキホーテだった。
ドンキホーテはグレゴール以上に小柄ながらも、靴の重ね履きで体格をカバーしており、自分の背丈以上もあろうかという金鎚を巧みに操る。また、一度も“教育”を受けたことがないという実績や、休憩時間も熱心に教理を読み返す直向きさは、信仰者としても尊敬すべきものだった(グレゴールはそもそも書物を上手く持てないので、ドンキホーテが教理を読み上げるのを隣で聞いていた)。戦闘面でも信仰面でも学ぶところが多く、グレゴールは今夜の機会に満足していた。
しかしながら、仕事が終わってしまうと、会いたいのはやはり恋人であるムルソーだ。今晩のムルソーは、グレゴールとは別の方向へと行軍しているらしいと聞く。
拠点に帰れば会えるだろうか。そんな思いを膨らませながら、暗い夜道を規則正しい歩調で進んでいくグレゴール。今日の戦績はどうだったろうか。いや、大鎚たるムルソーがいるなら勝利は確実だろうが、一体どれだけの異端を浄化できたのだろうか。自分も頑張ったが、それよりも多いことだろう。怪我はしていないだろうか。苦痛は受け止めるべきものだとはいえ、無駄な出血はしてほしくない。異端につけられた傷ならば尚更だ。できれば、自分が彼の全身を確かめたい。お互いの傷を確かめ合って、安心して床に就けたら心地いいだろう。そうでなくても、早く顔が見たい。声を聞きたい。触れてほしい。会いたいな……。
愛しい相手のことを考えていれば、弱々しい六等星の星空も、煌びやかに輝くシャンデリアと変わらない。ますます心が逸る中、拠点まであと少しの距離が非常にじれったく感じられた。そしてそれが、グレゴールの中に抑えきれない渦を育てていたのだ。
「おや、あれは大鎚のムルソー殿でありますな」
目の前を歩くドンキホーテがそう言ったので、グレゴールは肩を跳ねさせた。隊列から少し身を乗り出して、前方の様子を伺うと、松明でぼんやりと照らされた拠点入り口のあたりに数名の人影が見える。そのうち一人は非常に大柄で、遠目に見てもムルソーであることが分かった。グレゴールは慌てて、伸ばした首を引っ込める。
もう少しだ。もう少しで会える。しかし、他の金鎚の目の前で、ムルソー殿に恥をかかせるわけにはいかない。粗相はしてはならない。耐えなくては。もう少しだけ、我慢……。しかし、一体ムルソー殿と皆様は何をしているのだろう? 何か難しい話をしているのだろうか。
隊列に戻ったグレゴールの頭の中も、相変わらずムルソーに支配されていた。そしてそれを外に出さないように堪えれば堪えるほど、渦巻く欲望は熱く深くなるのであって。
「では、本日の業務はここまでとする。皆の者、握る者と共にある喜びを噛み締めながら眠るように」
「はい、握る者に栄光あれ!」
グレゴールは、自分たちを取り仕切っていた金鎚がそう宣言するのを聞くや否や(もちろん返事はした)、グレゴールはムルソーに向かって駆け出した。
(まだ他の金鎚の方とお話されているでしょうか……でもせめて、仮面の下の表情を窺えるくらいには近く、見える距離に)
少し離れた場所で解散の号令を受けたグレゴールは拠点の外壁をぐるりと回るようにして、ムルソーを探して走っていた。
考えてみれば、おかしかったのである。いくらムルソーを心底慕っているからといっても、厳しい環境での従軍経験もあるいい年した大人のグレゴールが、まるで初恋の最中にいる少年少女のように浮き足立っているのは。それはまるで繁殖期の獣、あるいは飢えて餌に殺到する虫の群れのようだった。彼の中にある虫の因子が、戦闘で流した血や口にした異端の肉に反応して、彼の中の衝動を沸き立たせたのだろう。たまたま今夜。
ほどなくして、彼はムルソーと他の金鎚たちが会話している近くまで辿り着いた。ちょうど建物の角に隠れられるような位置関係なので、邪魔をしないように待つことができるだろう。あぁ、早くお話が終わらないかなぁ……と、彼が思ったときだった。
ぞくり。
グレゴールは、腹の底で何かが蠢くのを感じた。それは熱く熱く渦を巻き、彼の身体を這い上がっていく。
「あ、だめ……!」
それが異形化発作だと理解した彼は、自分の身体を抱きしめるようにして抑え込もうとするが、そんなことをしても収まるようなものではないということは、彼自身が一番よく分かっていた。間もなく、彼の皮膚がぶちぶちと音を立てて裂け、肩や腕から短い触角が勢いよく飛び出す。そしてそれらは、グレゴールをつんのめらせる勢いで伸びていこうとする。
「わっ!?」
厳しい環境を生き抜き、今なお現役の戦闘員として活躍するグレゴールの、鍛え上げられているはずの肉体が、こともあろうか触角たちの勢いに負けて倒れ伏してしまった。その勢いで突然視界に入ってきたグレゴールに、ムルソーたちが気付く。
「おや」
「あなたは……」
「……グレゴール?」
グレゴールの頬が、火がついたかのように熱くなった。“釘と金鎚”のための話し合いがなされているところに、私利私欲のために割り込むなど、粗相にも程がある。ムルソーの邪魔にならないよう、せめて何でもないと取り繕ってこの場を去らなくては。そう考えたグレゴールだったのだが。
「グレゴール。帰ってきていたのか」
彼を抱き起こそうとしたのか、目前まで歩み寄って屈んだムルソーの顔(仮面で覆われていても、グレゴールにとっては見慣れた愛しい顔である)を間近で見てしまった瞬間。愛しい雄を捕まえて離したくないという欲望が、彼の皮膚から這い出した。
「あ、あ、あぁぁぁあぁぁぁあああ!!!」
グレゴールの肩から、背から、腰から、何本もの触肢がムルソーに向かって伸びる。先程から生えていた短い触角さえもその長さを増して、ムルソーに向かって殺到した。
「ぐっ……!?」
「あぁ……こんな……いけないのに……」
触肢の先端の爪がムルソーの鎧にぶつかり、ガツガツと硬質な音を立てた。一部は鎧の隙間に入り込み、彼の身体から真っ赤な血を迸らせる。グレゴールは恥ずかしいやら申し訳ないやらでパニックになってしまい、それが更に彼の虫化を促進させるせいで、触肢だけでなく翅まで生えてきていた。喉の内部では発音器官が発生し、うまく声が出せなくなる。しかし、ムルソーは仮面が外れないように押さえながらも、喉の奥で笑いながら、もはや身動きすらまともにできないグレゴールを抱き上げた。
「……!」
「……ふふ。グレゴール、慌てているな。だが、安心するように。こちらの会話は既にほとんど結論が出ており、現時点で中止しても問題ないものと言える。……中鎚たちよ、そうだな?」
自分のせいで大切な話し合いを中断させてしまったのではと心配するグレゴールの意図が伝わったのか、言葉になっていない声を汲み取ってムルソーが答える。そして中鎚たちを振り返れば、彼らは勢いよく首を縦に振った。実際、話し合いはムルソーの言う通りほとんど結論に達しており、今夜はここで終わらせても問題なかったのだが、大鎚の言葉から言い知れぬ圧力を感じた中鎚たちは大慌てで頷いたのだ。
「よろしい……では、先程伝えた通りの方法で、分隊を再編するように。当人はこのままグレゴールと部屋に戻る」
「は、はい! おやすみなさいませ!」
「いや、握る者に栄光あれ!」
「握る者に栄光あれ」
厳かな声で答えたムルソーは、しかしグレゴールを抱えたまま歩き始める。このまま他の金鎚たちも休む拠点に戻るのだろうか。もう自分で歩けるので降ろしてほしい。そのような意味を込めて、グレゴールはもぞもぞと身じろぎした。
「……、どうした。抱え方が気に食わないか。それとも、どこか痛むのか」
触肢や翅が皮膚を突き破った痛みがないではなかったが、それよりも重要なことがあるため首を振るグレゴール。その反応を見たムルソーは少し考えるようなそぶりを見せると、グレゴールの顔を覗き込むようにして尋ねた。
「もしや……降ろしてほしいと言うのか」
グレゴールは頷き、彼の喉から「り、り、」という音が漏れた。ムルソーはグレゴールの意図を確認すると、しかし再び喉の奥で笑う。
「しかしグレゴールよ。当人が貴殿を抱き抱えざるを得なくしているのは、他ならぬ貴殿なれば」
そこで初めてグレゴールは、腕や背中から生えた触肢が、ムルソーの身体に絡みつき、まるで彼が自分のものであると宣言するような有様になっていることに気が付いたのであった。
グレゴールは酷く赤面したが、弁明の言葉も何も紡ぐことは叶わず、ただ喉が鈴のような音を立てるばかりであった。
なお、後日二人は「部屋に戻ってからやりなさい」というありがたいお言葉を、握る者より賜ったのであった。