季節外れの桜に酔う/@latinalainen大典太光世は寡黙な刀である。
しかし言葉にせずとも表情には出やすい。
そして今の彼は、とても上機嫌であるらしい。
こころなしうきうきとした彼の様子に、乱藤四郎は思わず声をかけた。
「大典太さん、何かいい事でもあった?」
「む……、そんなに表に出ていたか?」
「うん!とーっても顔に出てるから気になっちゃって」
乱からそう言われ、大典太は少し考えた様子で答える。
「実は……探し物が見つかったんでな、浮かれていたらしい」
そうか……そんなに……と、顎に手をやり表情を引き締める。
「浮かれ過ぎて、事を仕損じてしまうのも不味いな」
すまない教えてくれてありがとうと、乱に告げて大典太は自室に向かう。
「……顔を引き締めても、花びら舞わせてたら意味ないかも?」
大典太が歩いた後には、ひらひらと桜が舞っていた。
そして、その日の夜。
本丸中が静けさに包まれた頃、主の自室を訪れる大きな影があった。
「……主、起きているか?」
突然の来訪者に、寝支度をしていた審神者は手を止め返事をした。
「そうか、良かった。……もし、良ければ一緒に飲まないか?いい酒があるんだが」
いい酒と聞いて、審神者は即答した。
――月の明るい夜。
二人は縁側で、たわいの無い話をしながら飲んでいた。
一升瓶にはラベルが無かったが、美味い酒だった。ツマミにはちょっと手の込んだ一品と、あとは気軽に食べられる乾き物。
それだけでも気分はあがる。
それに加え、大典太がぽつりぽつりと話す遠征中の出来事が面白くて審神者はついつい飲みすぎていた。
ああ、良い月にいい酒。これで季節外れだけども花があればと審神者が思っていた時だった。
ひら、ひらひら。
一瞬盃の月が歪み、ひとひらの花びらが浮かんだ。
おやっと、その美しさに見とれていると、更に花びらが降ってくる。
ほろ酔いの状態で出処を探すと、優しい笑みを浮かべた大典太と目が合った。
そんな彼に魅入られ、動けなくなった審神者。
「……ああ、酒に花か。すまない新しいものと取り替えるか」
そっと盃を受け取ろうとした彼に、ハッと我を取り戻した審神者はそれを拒んだ。
これもまた風流でしょう?
そう言って盃を呷った。
自分の身の内から出たものを、花びらとはいえ飲み干すのは如何なものだろうか。
心の内で衝撃が走る大典太を余所に、審神者は手酌で酒を注ぐ。
こんな夜もたまにはいいな。審神者はふふっと笑う。
――季節外れの桜に酔う――
――場外――
乱「何であそこで主さんの動きが止まった時にちゅうしないの!」
前田「大典太さんなので……」
乱「ことをし損じてるよ!もうっ!」
厚「いやまぁ、酒飲み連中に見つからなかっただけでも成功じゃないか?」
乱「せっかくのいい雰囲気なのに!」
前田「大典太さんなので」