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    お題「落書き」
    お付き合いしてそうなアルカヴェ、平和

    アルハイゼンとカーヴェはピクニックにきていた。同居人からの珍しく気の利いたお土産、水彩の色えんぴつのお礼にカーヴェがサンドイッチとスープを用意したのだ。今はそれを原っぱに広げてアルハイゼンは読書、カーヴェは川のほとりに咲く野草や花をスケッチしている。

    「うん、きれいな色だ」

    カーヴェは早速贈り物の色えんぴつを使って、たのしそうにしている。顔には出さないけれどそれを聞いてアルハイゼンもたのしそうだった。ちらりと横目でみると、カーヴェの絵は相変わらずきれいだ。写実的なのに、それだけじゃない。カーヴェにしかだせない魅力をもっているような気がする。直接伝えたことはなかったけれどアルハイゼンは彼の手から作られるものは好きだった。

    「あ、」

    ピリピリ……とスケッチブックをやぶく音がした。思わずカーヴェの方を向く。水彩のため次のページを使うには乾かす必要があるようだ。しかし不運にもピュウとそのページが風に攫われてしまう。「しまった」とカーヴェが立ち上がろうとすると同時に女性の悲鳴が聞こえた。流石にアルハイゼンは本を閉じ、そちらを見た。

    「ご、ごめんなさい大切なものを……!」
    「いやいや、今そこでさっと描いてたものだし」
    「でもこんな綺麗なものを……私……」

    どうやら運悪く風に舞ったその一枚がちょうど彼女の足元に落ち、踏んでしまったらしい。急いで拾い足跡を払ったようで少し紙にシワがついたくらいのようにみえる。「悪いのはこっちだし気にしないで」とカーヴェは笑っているが女性は真っ青になっている。

    「でも……、ってあ、もしかして」
    「?」
    「もしかして、あの妙論派のカーヴェさんですか?」
    「えっ」
    「え、まぁそうだけど……」
    「やっぱり!」

    女性の声があがる。隣の男性も驚いているようだ。

    「こんな綺麗なスケッチ、カーヴェさんだと思いました!私たち、妙論派でカーヴェさんの後輩になります。お会い出来て嬉しいです」
    「え、あ、そうなんだ。ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」
    「私たちカーヴェ先輩のファンで……あ!もし良かったらこちらの絵、買い取らせてくれませんか?」
    「え!や、いいよそんな……もし良かったらあげるよ」
    「え!いいんですか!」
    「……」
    「え!ずるい!僕もカーヴェ先輩のかいた絵、ほしいです!」
    「えぇ〜……」
    「それにあげるなんて、とんでもないです!」

    アルハイゼンはため息と共に読書へと戻った。しかし聞こえる話によると、彼ら一般人にカーヴェに建築を依頼できるほどのお金が流石にあるわけなく、それでも彼のつくった美しい作品がほしい人間はたくさんいると。「この絵は大事にして玄関に飾ります!」と可愛い後輩たちが盛り上がっている。結局今夜の晩酌代くらいな金額と引き換えにカーヴェの美しい絵はアルハイゼンの手の届く場所から離れていってしまった。

    「ふぅ、騒がしくして悪いね」
    「どうだ、そのモラで借金は返せそうか?」
    「今晩発生予定だったものくらいはね」

    「せっかくまったりしてたのにな〜」と唇を尖らすカーヴェ。言外に(二人で)と含まれているように感じたのでアルハイゼンの機嫌は少しだけ浮上した。「本業の人に悪いしそもそも売ろうとは思わないけど、まさか僕の絵に値段がつくなんてね」と笑うカーヴェ。「借金返済のためギャラリーでもひらいたらどうだ?」「君ってやつは!」なんていつもより穏やかなテンションで川辺のそよそよとした風をうけながら二人はピクニックを再開する。

    「あ、」
    「?」

    さらさらとカーヴェがスケッチブックにペンを走らせている。

    「アルハイゼン、これを買わないか?貴重な僕の作品で、お代は今夜のワインだ!」
    「……それはワインの価値はあるものなのか?」
    「さぁどうだろう」

    楽しそうに笑うカーヴェ。スケッチブックの背をこちらにむけて、なにを書いたかはアルハイゼンには見えない。

    (……気になる)

    「わかった、交渉成立だ」
    「やった!」

    そもそも今夜の晩酌代も自分の財布から出される予定だったのだ。(ツケかどうかはその時の状況次第だ)カーヴェの絵を見れるなら……悪い判断ではないだろうとアルハイゼンは思った。手を伸ばすとそこにスケッチブックが置かれる。

    「……」
    「どうだ、可愛いだろ?」
    「おい」

    あはは!とカーヴェが笑う。スケッチブックに描かれていたのは、あの鍵にもついている妙なキャラクターを緩い気の抜けた線で描いたものだった。フキダシから「ガオ!」と叫んでいる。

    「……流石カーヴェ画伯さまの作品だな、すごい迫力だ」
    「ふふ、ワインの価値はあるだろ?」
    「……そうだな、俺も玄関に飾るか……」
    「え!ばかやめろ、こんな落書き!」

    ぎゃあぎゃあだかガオガオだか先輩がうるさい。流石にこの落書きには値段はつかないだろう。けれどアルハイゼンにとって、この時間も含め価値のあるものであることは間違いはなかった。それは美とロマンを介さないアルハイゼンにも分かりきったことだった。
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