猫は、可愛い。「にゃあ」
見慣れた顔の人間の口から発せられた音に、ラボの中には数秒沈黙が流れた。
おそらくその音を発するのなら、と思われた生き物の方は、逆に無反応だった。ガストの腕の中で、憮然とした顔のまま大人しくしている。
「は……? 何の冗談だ……?」
「いや……。俺も……そうならいいなって……。思うんだけどよ……」
地の底を這うような低い声のマリオンに、形だけは笑った表情のまま死んだ目のガストが呟く。
「……そうですか。大変興味深い」
微笑んで手を伸ばしてくるヴィクターに身の危険を感じたのか、ガストの腕から逃げようと身動ぎした途端に、その生き物からも声が出た。
にゃあ。こちらも同じ音だ。
ただし先程の見知った人間の声ではない。正しく、見た目通りの動物の声だった。
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