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    hpel_hina

    @hpel_hina

    きもいさんとか木乃伊ひなたとかって名前の人です。
    Twitterの本垢凍結中で前のポイピクも入れないのでひとまずこっちで…。

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    hpel_hina

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    北Webオンリー用の展示です!
    レンアキのつもりだったけどただの猫になったアキラくんと北の皆様のほのぼのです!最後にだけメンターリーダーいる。
    めっちゃ長くなってきたからひとまずここまでで!!

    #レンアキ
    #エリオ腐R
    elioRotR.

    猫は、可愛い。「にゃあ」

     見慣れた顔の人間の口から発せられた音に、ラボの中には数秒沈黙が流れた。
     おそらくその音を発するのなら、と思われた生き物の方は、逆に無反応だった。ガストの腕の中で、憮然とした顔のまま大人しくしている。
    「は……? 何の冗談だ……?」
    「いや……。俺も……そうならいいなって……。思うんだけどよ……」
     地の底を這うような低い声のマリオンに、形だけは笑った表情のまま死んだ目のガストが呟く。
    「……そうですか。大変興味深い」
     微笑んで手を伸ばしてくるヴィクターに身の危険を感じたのか、ガストの腕から逃げようと身動ぎした途端に、その生き物からも声が出た。
     にゃあ。こちらも同じ音だ。
     ただし先程の見知った人間の声ではない。正しく、見た目通りの動物の声だった。
    「…………説明しろ」
    「イデ……ッ、いでででで……っ!! ちょ、ちゃんと説明するから!! アイアンクローはやめろって……!!」
     ギリギリ……と骨が軋む音が聞こえそうな力でこめかみを鷲掴みにしてくる指に、悲痛な叫び声が上がる。
     鞭で打たないだけましで、腕の中の動物に配慮したのだろうとひそかにマリオンの成長に頷くヴィクターを他所に、ガストの悲鳴はしばらく続いていた。


     今日ガストは休みだった。同じく休みがかぶっていたアキラと、弟分たちと、皆で出掛けていたらしい。
     サウスセクターに新しくできたというアミューズメント複合施設で、ボウリングやダーツ、バスケと健全に遊んできた帰り道。途中にあったカフェでテイクアウトしたホットドッグやベーグルサンドを公園かどこかで食べようかと言っていた矢先、突如街中にサブスタンスが出現した。
     そこまでの被害をもたらすようなものではなかったため、ガストとアキラの連携で程なく鎮圧し、小さな結晶と化した。
     回収しようとアキラが手を伸ばした時だ。どこからともなく一匹の猫が走ってきた。アキラの指が触れる寸前に、サブスタンスを咥えて走り去って行ってしまったのだ。
     慌てて二人で猫を追いかけ、行き止まりに追い込んだ。ガストがわざと威嚇し、逃げようと向かった先へと回り込んでいたアキラが猫を無事に捕まえた。
     抱き上げて、サブスタンスを飲み込んでいないかと猫の顔を覗き込んだ、その瞬間。
     かなりの眩しさで突然アキラと猫が光に包まれた。
     時間にして二秒もなかったはずだ。辺りの明るさが戻ると、そこには不思議そうな顔で座り込むアキラと、抱き上げられていたはずだが呆然と地面に立っている猫がいたのだった。

    「……では、本当にアキラとこの猫の中身が入れ替わっていると?」

     話を聞いていたヴィクターが、ふむ、と診察台に座るアキラの……アキラの見た目をした人間と、椅子にちょこんと座っている猫とを交互に眺める。
    「ああ。ホットドッグに反応するのは猫の方だし、アキラの見た目の方は急に逃げるわ挙動不審だわ言葉は話さねぇわでここまで連れてくるのも大変だったんだって……」
     顔中が引っかき傷だらけのガストがぐったりしたように説明している間も、中身が猫という話のアキラは診察台に置かれたガストのバトルスーツのフードについたフワフワなファーの部分にご執心の様子で、丸めた指で遊んでいる。
    「にわかには信じられないが……。まぁ、サブスタンスが関わっているなら可能性はなくはないだろう」
     唇に指を当てながらその様子を眺めているマリオンにも、ガストの渇いた笑いが漏れてしまう。
     よもや二人、もとい、一人と一匹を連れて帰ってきた際、片腕に猫を抱いて片手でアキラの首の後ろを掴んでいたガストを見た瞬間「元いた場所へ戻してこい」と動物を拾ってきた子どもに対しての母親のような台詞を吐いた男とは思えない。まともだ。
     入れ替わった直後、猫の方はまだしばらく呆然としていたが、アキラの方がガストを無視してそのまま走って行くのを見て、ニャーニャー必死に鳴きながらガストに何かを訴えてきた時には何かと思った。
     埒が明かないと思ったのかアキラを追いかけていく猫の後を追うと、少し離れた場所から様子を窺っていたロイとチャックも来てくれたので、まず猫を捕まえた。が、しきりにアキラへ向かって鳴き続けている上に、アキラはアキラでまったくこちらに振り向かずに路地裏の方へそのまま走って行く。何か嫌な予感がして、三人がかりで何とか次にアキラを確保したのだ。
     引き合わせてみると猫はアキラに対してやたらに威嚇し続けているし、アキラはアキラでやけにポヤポヤしてそんな猫を見ていた。もしやと思ったガストが先程の状況を説明すると、同様に何かを察したのかロイがサブスタンスに対峙する前にアキラから預かったホットドッグを無言で差し出した。
     ここまでで何となくの予想はついたが、ホットドッグに反応したのは猫の方で、アキラの方は不思議そうな顔をするだけだった。むしろホットドッグには微塵も興味はなさそうだったのに、近くで覗き込んでいたガストのバトルスーツのフードのファーを見るなり、目を輝かせて腕を伸ばしてきたのだという。
     それでも人間の言葉を理解しているか分からないフリーダムな動きをする175cmの男をここまで連れてくるのはかなりの労力だったようで、ガストの顔の引っかき傷は確実に猫の爪の痕ではなく、人間の指のサイズである。
     ……痴情のもつれか。
     しばらくサウスセクターと、そこから噂の広まったノースセクターの住人たちの中では、ノースのイケメンルーキーが女からの引っかき傷を顔につけて歩いていたと囁かれることになる。主に女性たちの中で。
    「……アキラ」
    「ニャーッ!」
    「返事をするあたり、本人か。言葉は理解できるようだな」
     フードのファーを引っ掻いているアキラに向けて声を掛ける。横の椅子から返事があって、マリオンの顔がそちら側を見た。
     声を掛けた相手が違うことにご立腹のようで、猫が不機嫌そうに返事をした形だ。苦笑しながら宥めるようにガストが柔らかい毛で覆われた小さい頭を撫でる。
     しばらく大人しく撫でられていた猫は、自然と頭から喉元を撫でていく指にゴロゴロと音を鳴らした。
    「人間の言葉は理解できるようですし、本人……いえ、本猫がアキラと主張しています。自我は残っているようですが、反応は猫の方に寄っていそうですね。では、習性は猫のままでしょうか。少し実験してみましょう」
    「えっ!? ドクター、いやいや、これ、ただの猫だぞ!? 酷いことはしないよな!?」
    「ン“ニ“ャ”ア“ア”ア“ーッ!!」
    「リアクションは紛うことなく本人だな」
     喉を鳴らしたことにより、楽しそうに提案されてしまう声に、ぎょっとするガストとその手の横で毛を逆立てて拒否する猫。観察するまでもなく、騒々しさがアキラそのものだと呆れたようにマリオンが小さく息を吐くと。

    「みんな、ごめんね〜。おまたせ〜〜」

     のんびりした声と共に、ラボのドアが開いた。
    「レンくんに猫用のおもちゃを持ってきてもらったよ〜」
    「ナノ〜♪」
     ニコニコと柔和な笑みでノヴァが入ってくる。買い物にでも行っていたのか、手にはかなり中身が入っていそうな紙袋を持っている。
     そのノヴァの足元にはジャクリーン。そしてノヴァの後ろにはレンの姿があった。
    「博士、用意が良いな!?」
    「私が二人に連絡しておきました」
    「レンちゃまが迷子にならないように、パパとお迎えに行ってきたノ〜」
    「俺は一人でも大丈夫だった……」
     ラボに居ないと思っていたら……と思いつつタイミングと物の準備が良すぎて驚いているガストに、何てことないようにヴィクターが答える。
     今日はレンも休みだったはずだ。おそらく部屋にいたところを、ジャクリーンと買い物帰りのノヴァが迎えに行ってくれたのだろう。レンの言葉が信用できないということは、この場にいる人間ならば全員分かっているのでスルーである。
     レン本人も返答がないことには興味がないようで、妙にそわそわしながら室内に入ってきた。
    「猫が……いると聞いたんだが……」
     そう呟き、椅子の上にいる猫に目を遣って動きが止まる。表情はほぼ変わらないのに、瑠璃色の瞳が揺れて輝きが増す。
    「…………猫……」
     聞こえるか聞こえないかという声で、一歩近付いた時だった。

    「っ、……ッ!?」

     突如影が横切り、反射的に斜め後ろへ飛んで間合いを取る。
     タワー内だからと油断していた。臨戦態勢で見れば、さらにこちらへ向かってくる姿におもわず舌打ちした。
    「アキラ! どういうつもりだ!!」
     飛び掛かってきていたのはアキラだ。睨んでいるかのような無表情で、こちらへ腕を伸ばしてくる。
     レンの速度についてこれるのはアキラならば当然だろうが、ラボの中でこんなに戦闘状態になっているのはどういうことなのか。いつものアキラの様子とも違うようで、訳が分からない。
     だが微妙に視線は合わない。手に持った猫用の玩具が邪魔だと、投げ捨てた直後。
    「…………は……?」
     こちらへ向かってきていたはずのアキラが、レンの横へと飛んだ。
     空中でレンの投げた猫用の玩具を一度拳で弾き、軌道が変わった玩具に向けてさらに飛び掛かる。
    「…………? 何、……だ……?」
    「あ〜……。あれな……、中身は猫なんだよ……。本物のアキラは、こっち……」
     床に落ちた玩具に対し威嚇して攻撃し続けているアキラに混乱していれば、躊躇いがちなガストの声がして振り返った。
     いつの間にか猫がいた椅子の後ろ側まで来てしまったが、その位置にいるレンにも見えやすくしようとしているのか、ガストが猫を持ち上げていた。
    「……………………、……何を言っている……」
    「オマエの気持ちも分かる」
     前足の付け根を持っているので、体が縦に随分伸びている。椅子の背もたれで体は途中までしか見えないとはいえ、どこをどう見ても猫でしかない。何とか言葉を絞り出すと冷静なマリオンの声が同意してくれた。
     中身は猫……? ともう一度、音が続いている方へも顔を向ける。
     レンが持ってきた猫用の玩具は、よくしなる細長い棒の先にちょうどネズミくらいの大きさのフワフワした毛のついたものだ。
     床に四つん這いになったアキラは頭の方を低くした態勢で、誰かが持っている訳でもないので動くはずのない玩具の様子を数秒窺い、飛び掛かって自分が浮かせた玩具を攻撃する、という動きを繰り返しているようだ。
     見てはいけないものを見てしまった。そんな気持ちになり顔の向きを戻す。
     ガストに持ち上げられている猫は、成猫にしては若干小柄で、まだ仔猫だろうか。ぶすくれたような顔でレンを見ている。
     中身がアキラと聞いても、見た目はただの猫だ。可愛いことには変わりない。
     ……悔しいが、可愛い。渦巻く複雑な感情に反比例し、顔面の筋肉がひくつく。これ以上ない程に眉間に皺が寄っていくのを見て、猫……中身はアキラ、は飛び上がってガストの手から逃れると診察台の下へと走って行ってしまった。
    「チッ……」
    「……レン。顔」
    「アキラ〜! 怖くねぇから出てこいって〜っ!!」
     街で猫に逃げられた時以上にショックを受けている気がしてさらに舌打ちすれば、必要最小限の文字数でマリオンに注意される。その間にガストは床に膝をつき診察台の下を覗き込んでいる。
     しばらく出てきそうにない猫……アキラ……ややこしい……。はガストに任せることにして、問題はデカい図体でイタすぎる行動をしている男、中身は猫。である。
     まだ床に伏せている状態のアキラの元へと歩いていく。すぐ横に片膝をつくとレンに気付いたようで翡翠色の瞳が見上げてくる。
     じっと見つめてくる瞳を、目を逸らさずに見つめ返す。
     中身が猫とは聞いたが、実際こうして見上げてくるアキラの顔も、元々の顔立ちのおかげで人間の顔だが猫のように見えないこともない。やがて一度ゆっくり目を細めたので、その頭に手を伸ばした。
     躊躇いがちに、撫でる。見た目よりも柔らかい髪は昔と変わらないようで、ふと懐かしい気持ちになる。この髪に触れるのはどれくらいぶりだろうか。
     頭を撫でてくる腕をしばらく見上げていた翡翠色の瞳が、嬉しそうに瞼に隠れる。そのうち自分からレンの手に頭や頬を擦り付けてくるようになった。
    「レン、すげぇ……」
    「……中身は、猫……だからな……」
     ゴロゴロと喉を鳴らしそうな程にレンに撫でられるのを喜んでいる姿を見て、ガストが言うのもどこか気恥ずかしい。
     あくまでこれは猫だから、と自分に言い聞かせる。
     しかし、レンに対してこんなに素直にいうことを聞いてくれるアキラもなかなか見られない光景ではある。
     いつもこれくらい素直ならば、もう少し可愛げがあるのに……と口許が微かに緩みかけた頃だ。

    「ニャ───────ッッッ!!」

     アキラの姿の猫が、撫でられ続けたまま身体を起こしてレンの胸元に擦り寄ってくると、突然けたたましい鳴き声が響いた。
     声に振り向こうとした時にはアキラの顔に目がけ猫が飛び掛かってきていた。攻撃されたアキラ、何度も言うが中身は猫、も、一気に臨戦態勢になって対峙する。
    「シャ──ッ!!」
    「ニャアァァッッ!!」
     鳴き声と激しい攻防が続く。
     猫vsヒーロー。こんな光景があるだろうか。本能のままに、猫にガチギレで戦う人間。なかなか頭が痛い光景である。
    「文字通り、キャットファイトだな……」
    「ははっ。モテモテだな、レン」
    「うるさい、黙れ……」
     ラボの中だというのに繰り広げられる攻防に、マリオンですら頭痛がするのか指でこめかみを押さえている。
     茶化すガストが鬱陶しいがよく見れば手に引っかき傷が増えているので、どうやら猫アキラにやられたらしい。ひょっとしてこちらに来ようとするのを止めようとでもしたのだろうか。
     どちらかというと攻撃をし続けているのは猫のアキラの方で、ノヴァが、ラボが壊れちゃうよ〜とわたわたしているのが不憫でならない。
     その間にヴィクターはサブスタンスの数値や、猫とアキラそれぞれの戦闘力を計測していた。自由か。知っていた。
    「アキラ、いい加減にしろ……! その体は猫の体だ」
     止めようとしたレンの言葉は逆効果だったようで、余計に猫のアキラが暴れ始める。
     アキラの体で猫がレンに懐くのが嫌なのか、レンが見た目はアキラなのに中身が猫だからと優しくするのが気に食わないのか。
     やきもちなんじゃねぇの……? と微笑ましく眺めていたガストだったが、周りを見ることもしないであろう中身は猫のアキラにぶつかられた上に踏み台にまでされて、ふんだりけったりである。
     結局壮絶なキャットファイトは、二人、もとい一人と一匹の間にブチ切れしたマリオンがガストを投げ込み、

    「オマエたち! 言うことを聞かないなら捨てるぞ!!」

     と、拾ってきた猫と子どもに対する母親の脅し文句的な切り札を出すまで続いたという……。


       *  *


     失礼する、とノースの居住スペースに来客があったのは夕飯が終わりしばらくした頃だった。
     新たに増えた引っかき傷を自分で治療していたガストが出迎えると、我らが第13期メンターリーダー様が表情筋を一切動かさないような顔で立っていた。
    「アキラを引き取りにきたのだが」
     お父さん仕事終わったんですね。と、つい子どもを預かっていた保育士のような気持ちになり室内に招き入れると、「は?」と何故か不機嫌全開のマリオンが仁王立ちしている。
    「今日はノースで預かると言っただろう」
    「アキラはサウスのルーキーだ。サウスで面倒を見るのは当然だろう」
     今までお仕事してたんですか〜おつかれさまです〜。という会話を期待していた訳ではないけれど、ここまで唐突に一触即発の空気になると思っていなかったので動揺するしかない。
     ええと……とガストが言葉に迷っている間にも、奥へと進もうとするブラッドの行く手をマリオンが塞ぐ。
    「今日はサウスは、オマエしかいないはずだ」
    「何故知っている?」
    「馬鹿にするな。研修の日程くらい把握している。オスカーとウィルは今日は泊まりがけの研修だろう。ウチは来週だからな」
     喋りながら無表情で進もうとする男と行かせない男とで、これはこれで何の攻防だ。見た目だけなら何かのスポーツのフェイントの練習に見えなくもない。
    「夕食は」
    「もう食べたに決まっている。安心しろ、猫にはきちんと猫用を、中身は猫とはいえアキラにはきちんと人間用のエサを食べさせた」
     二人とも何やってんだ? というツッコミも、いくら猫だからってエサって言い方は誤解を招きそうだろというツッコミも、すべて飲み込んでおく。
     今この二人の間に入るのは危ない。まだ命は惜しい。
     何とかしてくれよとヴィクターに振り向くが、今日の分のデータのまとめも一段落ついたようでブラッドのことは言えないくらいに珍しく早く帰ってきているので、今はゆったりとエスプレッソを飲んでいた。
    「一人でも問題ない」
    「ある。猫の世話をナメているのか? 今回は特に、世話が必要なヤツが二匹分なんだぞ?」
     少しずつ室内に進んできていた二人が、ソファーが見える位置まで来ていた。
     ブラッドの視線の先を、マリオンも見つめる。
     ソファーに座って本を読むレンの膝に頭を乗せ、丸まったアキラが眠っている。レンを挟んで反対側には、ぶすくれた顔の猫が背中だけレンに触れるように座っていた。
     騒々しさにレンが本から目を上げる。ブラッドに気付いて、どこか気まずそうに目線を逸した。
    「……しかし、他のセクターに迷惑をかける訳にもいかない。アキラだけでも連れて帰ろう」
    「そのアキラは、どっちの話をしている?」
     一つ息を吐いたブラッドが言えば、間髪入れずにマリオンが問う。
     意外とマリオンも面倒見が良いからな、と思っているとふと視線を感じ、ヴィクターと目が合う。目許が微かに緩んだのが分かった。
     どうやらヴィクターも同じように思っているらしい。こちらは援護射撃だけで良いかとひそかに目線だけで伝えると小さく頷かれた。
     言い合う二人の声で、アキラの姿の猫も目を覚ましてしまったようだ。初めて見る人間をキョトンとした顔で見上げている。
     どちらのアキラかと問われたブラッドは僅かに考え、「ではこうしよう」と静かに呟く。

    「こちらに来たい方を、連れて帰ろう」

     ふ、と。一人と一匹を見つめ、普段の鉄面皮が嘘のように、女性ファンが黄色い声を上げるようなイケメン顔で微笑んだ。
     そしてレンの両側にいる猫の姿のアキラと、アキラの姿の猫に手を伸ばし……。
     


     両方が両方とも一瞬毛を逆立てた直後。

     それぞれ左右に分かれ、すごい勢いで走って逃げ、物陰に隠れられたのだった……。



    「………………。……何故寄ってこない?」
    「オマエ……絶対に動物に嫌われるタイプだろ……」
    「…………」
     憮然とした顔で純粋に疑問符を浮かべるブラッドに、低い声で目を据わらせるマリオンと、目の前で繰り広げられた光景に言葉もないレンである。
     イタい情景なのか、天然なのか判断に困る。しかし本人が大真面目な顔で不思議そうにしているので、おそらくは。いや、きっと天然の部類だ。ここに今、アキラからの見たまま的確なツッコミがないことが大変辛い。
     ツッコミきれねぇ……と自分の不甲斐なさを感じているガストなど構うことなく、物陰に隠れきれていない大きい体のアキラの方へ歩を進め、余計に逃げられている。アキラの姿の猫は、逃げ場を探してか、まったく寄ってこなかったヴィクターの後ろにすら隠れている始末だ。
     逃げられ続けるその背中に、子どもやペットが懐いてくれない父親の哀愁を感じたのはガストだけではなかったらしい。
     観葉植物の陰から様子を窺っている猫のアキラも、どこか申し訳なさそうな顔に見える。
     アキラ、とマリオンとレンも何とも言えない顔で猫の方を呼ぶ。言葉が理解できることの弊害がこんなところで現れるとは。仕方ないといった体で、おそるおそる観葉植物の陰から猫が出てきた。
    「……まぁ、今日はウチで預かるが、せっかくだ。中身がアキラとはいえ、猫の姿が可愛いのは当たり前だからな。トクベツに撫でさせてやらないこともない」
    「そうか。すまない」
     今日預かるって、そこは折れねぇんだな。というツッコミはついに口に出ていた。一瞬マリオンの鋭い眼光がこちらを見たが即座に視線をずらす。何で上から目線? という言葉が漏れなかっただけセーフだろう。
     乗り気ではなさそうに足元までポテポテと寄ってきた猫のアキラを、腰を落としたマリオンが抱き上げる。
     ちなみにキャットファイトの終盤から夕飯を食べ終わるまで、猫アキラは頭部だけを残し鞭でぐるぐる巻きにされていた。やたら大人しいのはそのせいもあるだろう。人間の姿だろうと猫の姿だろうとマリオンには逆らってはいけないという教訓だ。
     マリオンに抱っこされた状態でじっとブラッドを見てくる猫は、アキラと同じく翡翠色の瞳をしている。
     猫が他の人間に構われていると気付いたからなのか、ヴィクターの後ろに隠れていたアキラの姿をした猫が顔を出した。
     素早くソファーに戻ってくると、邪魔者がいなくなったとレンのすぐ隣に乗ってきた。レンの肩口に顔を擦り付けてくるのを、ブラッドから目を逸した猫のアキラが視界の端に捉えた時だった。

    「……っ、くしゅッ!」

     撫でるまで、あと数センチ。というところまで手を伸ばしていたブラッドが、いきなりくしゃみをした。
    「…………」
    「……」
     咄嗟に顔を横へ向けたため、唾などはかからなかったものの、ジト目でマリオンと猫のアキラもそんなブラッドを見上げている。
    「…………オマエ。もしかして……猫アレルギーか……?」
    「いや、言われたことはない。だがまぁ、触る前にいつも逃げられていたから、あまり近寄ったことはないな」
    「一度きちんと検査した方が良いのでは?」
     ジト目のままのマリオンが半開きの口のまま聞いてみると、返ってくるのはそんな言葉だ。無駄に泣きそうになるガストである。ヴィクターからも冷静な提案がなされるのがさらに涙を誘う。
    「…………、……くしゅっ! はっ……、くしゅッ」
    「ニャアアアッ!? ニャーッ!!」
    「やめろっ! 何でまだ撫でようとするんだ!? もう諦めろオマエ!!」
     なのに、何故か諦めるという姿勢を見せない男は再度猫アキラを撫でようと小さい頭に手を置いた瞬間にさらにくしゃみを連発していて、マリオンが慌てて身体を捻り肩と腕で猫をガードする。
     言葉は喋れないのに、確実にあの鳴き声はツッコミだろう。猫ですらもツッコんでしまう状況。声を聞くだけでも辛い。
     メンターリーダー様の天然と暴走っぷり、やべぇ……。オスカーかキースあたりにでも止めて欲しい、この暴走列車を……。
     そう心の中で祈っていたガストの前を、通り過ぎる影があった。

    「…………大丈夫だ。アキラは俺が、……俺たちが、面倒を見る」

     マリオンとの間に割り込み、レンがブラッドを止めながら見上げて言う。
     おもわずはっとした顔で見守るノースの三人である。……特にガストが。表情筋の乏しい二人の睨み合いは、時間にすればおそらく数十秒だろうか。体感でいえば数分にも感じた沈黙の後、一つ息を吐いてからブラッドがようやく一歩下がってくれた。
    「…………そうか」
     妙に清々しい顔に見えるブラッドは、相変わらず大層なイケメンだ。けれど、ひそかに鼻が赤くなっているように見える。本気で一度ちゃんと検査をして欲しい。
    「では、今日は任せる」
    「ああ」 
    「最初からそう言っているだろう」
     指令を言い渡すように告げるブラッドに、レンも真剣な眼差しで答える。横からボソッと言うマリオンの声は二人とも聞こえていなさそうだ。
     それにしても、猫のことになると、いや、アキラのことになると。こんなにも堂々と言い切ることができるとは。
     これは、成長なのか。
     それとも別の感情なのか。
     親のような気持ちでレンの言動に涙が出そうになっていると。

    「……本当に、きちんと面倒を見られるんだろうな」
    「ああ」
    「そんなことを言って、そのうち散歩も餌やりも任せるんじゃないのか」
    「絶対にそんなことはない」

     淡々と続けられる表情筋の乏しい二人の会話に、やはり我慢の限界になったガストは。
     ローテーブルの天板を両手のひらで叩いてツッコんでしまうのだった。



    「猫や犬拾ってきた時の親子の会話みたいな、そういう茶番劇はもういいんだよ……っっっ!!!!!!!!!!!!!」

     




    ━━━━━━━━━━━


    全然終わらんのでひとまずここで締めます!!

    こんなとこまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました!!




    北Webオンリー、楽しかったです!!

    皆様、おつかれさまでした!!
    ありがとうございました〜〜!!\(^o^)/





     
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    hpel_hina

    PASTノースWebオンリー用の展示が間に合うかビミョーなので、昔のワンドロのレンアキをそっと貼っておきます。
    めっちゃ短いです。
    むしろTwitterの本垢が凍結中で、前のポイピクに自分では入れないことも判明したのでひとまず避難用の垢でテスト投稿というか…。
    凍るならレンくんに凍らされたかったです😇😇😇💢
    甘い言葉、とは?「……チョコ」
    「…………無理だ」
    「クッキー?」
    「見たくもない」
    「うう〜ん……。あっ、ゼリーは!?」
    「吐き気がする」
    「お前ら、何やってんだ?」
     トレーニングから戻り、珍しくノースのルーキー部屋に、というかレンの元に来客があったのか声が聞こえてくると、そっとドアを開けて覗いてみればレンのベッドには青い頭と赤い頭が並んでいた。
     ベッドの端に座り猫の表紙の本を手に目線を落としているレンと、そんなレンの顔を覗き込むようにして隣に座っているアキラ。この従兄弟同士がこんなに至近距離で話しているのもあまり見た事がなく、珍しい光景にガストはおもわず部屋に足を踏み入れる前に戸口から声を掛けていた。
     気付いたアキラは笑って「邪魔してるぜ〜」と手を振ってくる。が、その隣でこちらを見てくるレンの目は据わっている。どうやら邪魔をしてしまったのはこちららしい。
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    凍るならレンくんに凍らされたかったです😇😇😇💢
    甘い言葉、とは?「……チョコ」
    「…………無理だ」
    「クッキー?」
    「見たくもない」
    「うう〜ん……。あっ、ゼリーは!?」
    「吐き気がする」
    「お前ら、何やってんだ?」
     トレーニングから戻り、珍しくノースのルーキー部屋に、というかレンの元に来客があったのか声が聞こえてくると、そっとドアを開けて覗いてみればレンのベッドには青い頭と赤い頭が並んでいた。
     ベッドの端に座り猫の表紙の本を手に目線を落としているレンと、そんなレンの顔を覗き込むようにして隣に座っているアキラ。この従兄弟同士がこんなに至近距離で話しているのもあまり見た事がなく、珍しい光景にガストはおもわず部屋に足を踏み入れる前に戸口から声を掛けていた。
     気付いたアキラは笑って「邪魔してるぜ〜」と手を振ってくる。が、その隣でこちらを見てくるレンの目は据わっている。どうやら邪魔をしてしまったのはこちららしい。
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    やりたい放題のファンタジーパロです。何でも許せる方向け。
    ラ リュミエール 息をひそめ、自らの気配を殺す。
     カーテンは閉め切り、電気を消していても、フェイスの目には部屋の中の様子がよく見えた。窓から射し込むランタンの灯りは、リビングの床に二人分の影を伸ばしては縮めていく。尖りきって壁にまで届きそうな三角の影は全部で四つ。フェイスの猫のようにぴんと立てた耳と、隣で膝を抱え背を丸めるディノの、フェイスのものより大きくてふさふさの毛が目立つ耳。そのシルエットがひくひくと落ち着きなく動くのを、フェイスは身動きもせずただじっと見つめていた。
     十月三十一日。外から子供たちの興奮した話し声や高い笑い声が聞こえる。きっと彼らは魔物や悪霊の姿を模して、通りの玄関の扉を順番に叩いては大人に菓子を要求している最中だろう。それではなぜ、そんな通りに面した部屋に住む自分たちはこうして身を隠すような真似をしているのか。フェイスはともかく、ディノは普段から街の人間と仲が良い。喜んで道行く子供たち皆に菓子を配りそうなものだが――明白な理由である三角形の影が、フェイスの見る前でまた一回ひくりと動いた。
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