ポリセクもどき・1日目「あーお腹いっぱい!替え玉もう一回すればよかったぁ!」
「桃真はほんとよく食うよな」
「今日は特別腹減ったもん」
「替え玉はいつもしてるじゃん」
「えー?はは、確かに」
月曜日の街を、桃真と青也は並んで歩いている。大学が終わった後、フットサルのサークルでひと汗かいてラーメン屋に飛びこんだ。じゃんけんで勝った青也のチョイスで、味噌ラーメン。それぞれチャーシューを3枚トッピングしたが、青也は自分の分の1枚を桃真のどんぶりに入れた。本当は2枚で充分だったし、桃真の驚いた顔と嬉しそうな笑顔が見られたのだから儲けだ。
青也のひとり暮らしをするアパートに近づくほど、人通りは少なくなっていく。大きな信号をひとつ入って、コンビニを通り過ぎたらどちらからともなく手を繋ぐ。大学で出逢って付き合いだしたふたりの、いつの間にか生まれたいつも通りだ。
「うち寄ってく?」
「んー、三分だけ寄ってく!」
「三分?」
「今週締め切りのレポートが終わりそうになくってさあ……ガチでやんないとヤバい」
繋いだ手がぶんぶんと振られ、桃真の焦りが窺える。指を絡めるように繋ぎ直した青也は、掠めるように桃真の頬にキスをひとつ。するとブレーキでもかかったかのように、桃真は立ち止まった。
一瞬で赤らむ頬が、チカチカと点滅する外灯の下でもよく分かる。少しでも落ち着けたらと思ってのキスだったが、キスひとつで恋人は照れる。かわいいな、と眺めていたら、今度は早足で歩き出した。
忙しい奴だ、そんなところも好きだけど。
「桃真?どうした?」
「青也の家に急いでる」
「なんで?」
「青也のせいでしょ」
早く早くと急かされて、アパートの鍵を開ける。扉を開くのが早いか、桃真に押しこまれるのが早いか。なだれこむように玄関に入ったら、閉まったばかりの扉に押しつけられた。早急なキスを拒む理由はない。唇と舌がすぐに同じ温度になって、吐息が混じり合う。堪らず茶色い髪に指を入れると、桃真の喉の奥がごくりと鳴った。
「これ三分で帰れる?」
「うう、帰りたくない。でもパソコン、今日家に忘れてきてる」
「ダメじゃん」
ぐすぐすと泣いたような声で、首元に口づけながらじゃれついてくる。桃真がかわいくてかわいくて、本当は青也だって一緒にいたい。背中を撫でてやると更に抱きつかれ、互いに張りつめたそこがぶつかった。
「なあ桃真、抜いてやろっか?」
「え!マジ!?してほしい!……けどそしたら、絶対最後までしたくなっちゃう」
「すればいいじゃん」
「三分過ぎちゃう」
「もう過ぎてる」
「うう……でも我慢する。レポートちゃんと出したいから」
「……ん。偉いな」
心の中で残念に思いながら、青也は桃真の髪を撫でる。桃真はいわゆる陽キャで、だがやるべきことはちゃんとやる。桃真のそういうところが青也は好きだ。触れ合うことはいつだって出来るのだから、今は背中を押してやりたい。
「じゃあまた明日だな」
「うん。でももうちょっとキスしていい? そしたらレポートもっと頑張れる」
「ん、いいよ」
手を繋いでまた始まったキスは、さっきよりスローでとびきり甘い。膨らんだそこが時折ぶつかると堪らなくて。
ああ、触れられたかったな。
口にはしない分、ただただ桃真の名前を呼んで。早くレポートが終わりますようにと、青也はこっそり願った。