ネガティブ男の日常話未来に望みなどあるのだろうか。
今日も先行きばかりを憂い、その見通しの劣悪さに辟易しながらも。
生きるため、今日も働き、死んだような顔で帰宅する。
「実際こんな世の中じゃ、お前みたいなのがたくさんいても仕方ないよな」
「いつも通り失礼なやつだな」
絵に描いたような楽天家な友人は、今日も俺を小馬鹿にしてくる。
「考えたって仕方ないことばっかり考えてるからだよ」
小さな液晶の中から聞こえてくる声は、けらけらという表現に値するような笑いと共に自身の耳へと届く。
「愚痴なら後で聞くから、はよ風呂と飯くってゲームやんぞ」
「今日もやんのかよ。疲れてんだけど」
「勝ってる側に拒否権はない!」
一人だったらやらないであろうゲームまで、こいつはわざわざ俺に合わせてやろうとしてくれる。
ある程度ゲームが好きな俺にとってはどう見繕っても釣り合わない実力差があるというのに、一度だけ俺から提案したゲームを毎回誘ってくるのは一体何故なのか。
「はよしろって」
「わかってるよ、30分まて」
「15分」
「無理いうな」
そんな疑問も、話していくうちに忘れていく。
不思議なことに、こいつといると嫌なことや辛いことを考えるよりも一緒に楽しむことを優先させられる。
良くも悪くも、振り回されてしまうのだ。
好き勝手に生きているこいつは、昔からずっと、何かに付けて俺に絡んでくる。
「出来んだろー優等生くんなら」
「その呼び方やめろっつってんだろ」
だから俺は多分、こいつのことが好きではない。
今だって電話越しで馬鹿にしてくるこいつに、普段会社で出すようなことはないような強い語調で言い返している。
むしろ嫌いだと言ってしまってもいいかもしれない。
「たく」
そしてふと、洗面台の鏡が目に入る。
そこには当たり前に自分が写っていた。
「……負けてなんざやらんからな」
そこに映る自分の顔は、電車の窓に映る自分の顔より。
あまり認めたくないことではあったが。
良い顔だと、思ってしまったから。
「ちゃんと毎日あったかい風呂に入れるのって、良い、な」
不安ばかりの世の中で。
ネガティブ男は、ほんの小さな幸せを見つけながら。
どうにかこうにか、生きている。