言葉はなくとも 「今日は自宅へ帰らせてもらう、報告書は明日提出する」
ホリデーアクアタウンでの出店企画を終え、礼光様は大黒社長にそう告げた。杏氷様への報告もあるのだろう。
車の行き先を寮から自宅へ変更し帰路に向かう。普段から無駄話をされるタイプではないが、今日は一際物静かな空気を纏っている。
しかし、機嫌が悪いわけではなさそうだ。時折される、ここより遠い景色を眺めているような瞳。視線は窓の外に向けているが、見えているものは違う場所なのだろう。
同じ景色を見ることが叶わない寂しさはあるが、礼光様にとっては必要な時間だ。せめて快適な時間を届けるため、スムーズな運転を心掛けて進んだ。
「あれ?今日こっちだったんだ」
2645