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    BTdfMWPl3wrRhju

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    中途半端で終わってます……

    騎士8×ラミア2 鬱蒼とした森に迷い込んだガクはため息をついた。まさか警備中に馬が暴走するとは。何をキッカケに、いつもは大人しい愛馬が正気を失ったのかも思い出せない。いきなり森に駆けだす彼女が人を傷つけないようにするのに精一杯で、進行方向を変更するなんて高等技術は使えなかった。まあ、そんな彼女に振り落とされて今こんなとこにいるわけだが。途方に暮れてガクは空を見上げた。灰色の重たい雲が充満している空が一層、鬱々とした雰囲気を冗長させる。眉間にしわを寄せながらガシャガシャと鎧の音をさせ森を歩く。長い草が脚にまとわりつく。あまり人が入らないのだろう。子どもに「化け物が出る」と脅している城下の大人の言葉を思い出す。化け物が本当か嘘かなんて分からないが、こんなところに子どもが入ってしまえば確かに迷って帰って来れないだろう。
    「ジャンヌ、出て来い。さっさと帰るぞ!」
     スッと息を吸い、先ほどからしているように愛馬の名前を叫ぶ。大きな音は彼女を脅かしてしまうかもしれないが、こうするより他はない。もしかしたらアイツ、自分だけで厩舎まで戻ったんじゃないだろうか。少々気まぐれな彼女ならあり得る話だ。じめじめとした森を歩き疲れたところでその可能性に気づく。あーとガクから声が漏れた。立ち止まって頭を抱えればポツリと何かが項に落ちた。ゾワリと背筋が冷え、慌てて上を見上げる。先刻よりも重たそうな雲が視界に映った。まずい。雲の限界を超えたらしい。見上げた顔にも雨粒が何滴か落ちた。
    「まじか……」
     落胆した声に答える声はない。ぱたぱたと木々の葉に落ちる雨音が耳に入る。とりあえず、雨宿りが最優先だ。アイツがまだここにいたとしても、自分でどうにかするだろう。周りの木々では心許ないとガクは走り出した。深い緑に色づいていく木々を尻目に駆ける。雨は少しづつ強くなり、肩のマントを重くしていった。しばらく走ればぽっかりとあいた洞窟を見つけた。これ幸いとガクは中に入る。
    「あー……まだマシか……?」
     じめじめとした洞窟の中は苔がいたるところに繁茂しており、森と同様あまり人が寄り付かないことがうかがえた。スンと鼻で息をすれば雨の香りが鼻をくすぐる。当分止みそうにない。今日何度目かのため息をつき、ガクは洞窟の内部に目を向ける。奥は暗いが、なんとなくまだ続いているように感じる。鎧の下に持っているマッチでも擦ればほんの少しくらい探検できるだろう。身体はくたびれているがここにぼんやりと座っているよりも歩いた方が落ち着きそうだ。もしかしたら今後盗賊のアジトにでもなるかもしれないなんて言い訳をしながら、ガクは懐からマッチを取り出し火をつけた。オレンジの火が灯り、苔むした壁を照らす。小さな火は暗い洞窟の中では充分すぎるくらい明るかった。ゆっくりと歩いて行けば、自分の影が洞窟の壁に浮かび上がった。もふもふとした苔を避けながら歩く。マッチを擦りながら好奇心のままに歩けば突き当りにあたった。思ったよりも短かった洞窟に拍子抜けしているとガクの視界の端で大きな何かが動いた。
    「誰だっ」
     咄嗟にそちらに身体の正面を向ければ、絶望をありありと顔に浮かべた青年が体を起こしたところだった。彼の顔だけでなく彼の身なりに視線を落としたガクは声を出せなかった。本来、脚があるべき場所には人魚のように尾が直接ついている。その尾は魚のそれではなく、蛇のもつ尾であった。ラミアだ。母たちが子どもたちを脅すときに使う、子を攫って食うとされている化け物。その尾はマッチの光を受け、ぬらぬらとテカっており、丁度真ん中のあたりが赤く血で染まっていた。ギロリとこちらを睨むその天鵞絨色の瞳の奥には怯えが混じっていた。その様子が伝え聞いた怪物のそれとは違うような、少なくとも人を食べてしまうような雰囲気をガクは感じなかった。マッチの炎が消える。天井の何処かに穴があいているのかささやかな外の光が二人を浮かび上がらせる。
    「……お前、その怪我大丈夫なのか」
     しばらく雨音が洞窟に反響したのち、ようやくガクは口を開いた。睨みあいの末かけられた言葉にしてはなんとも間抜けに言葉は響く。その言葉が零れたにもかかわらず、目の前のラミアは口を開かない。その光る三白眼を逸らした瞬間殺されるとでも思っているのだろうか。それともただ、言葉が通じないだけなのだろうか。ガクがゆっくりと同じように床にしゃがめば、びくりと怯えたように壁に退く。警戒されているのは一目瞭然だ。ただ、血がとめどなく流れるその傷が気になってしまって。
    「なあ、その怪我とりあえず、止血させてくれよ」
     目を見て話せば伝わらないだろうか。敵意はないのだと手のひらを広げた。ガシャリと鎧の音が鳴った。音に怯えた様子を見せる彼に気づき、ガクは身に着けているものをゆっくりと外す。手の、肩の、胸の鎧をとり、腰にはいていた剣も地面に置いた。その様子にラミアは目を見開く。何と言うのかは知らないが、あの腰につけていたものは人間が他を攻撃するもののはずだ。それをいとも容易くこの男は外してしまった。
    「……馬鹿じゃねえの」
    「お前、喋れたのか」
     騎士から発された言葉にムッとする。喋れないフリを続けるつもりだったが、それにしてもこちらを馬鹿にし過ぎではなかろうか。こちとら若い男を誘惑して血やら肉を啜る種族なのだ。言葉の一つや二つくらい使える。
    「なあ、あんたその怪我大丈夫なのか」
    「大丈夫に見えんなら、あんたの眼、結構節穴だと思うけど」
    「じゃあ、止血させてくれるか? とりあえず血を止めないと」
     わざと煽るように言うがあまり嫌味とかそういうたぐいは通じない男なのだろうか。そろりと尾を騎士の方へ向けようとする。脳裏をよぎる記憶。さっと尾を自分の方に引き寄せる。変わった男だろうが何だろうが関係ない。こいつは“人間”なのだ。男はその様子を見て、苦笑いをした。そして自分に背を向けたかと思うと、ビリビリと何かを破く音がした。男の手元を見れば、それは先ほどまで男の背中を彩っていた緋色の布。それをもう半分にちぎり、綺麗な布をこちらに見せる。
    「これでお前の傷を縛りたい、いいか?」
    「いらねえよ。ほっときゃ治るんだ」
    「それまで、そこに岩とかなんだとか直接当たっちゃ痛いだろ。気休めにでも巻いとけよ」
     グッと男が近寄ってくる。あまりの敵意の無さにこちらが拍子抜けしてしまった。その間に懐に入られ宣言通り、布が巻かれる。少し擦れるのが痛いような気もするが、確かに男の言ったようにほっておくよりはマシかもしれない。だが、礼は言わない。男が勝手にやったことに感謝なんてしてやるものか。
    「ちょっとはマシだろ」
     言うと男はニッと笑った。眩しい笑顔にどぎまぎする。そんな表情を向けられたことが無かったから。
    「じゃあ、俺行くな」
     男は立ち上がり、鎧を付けだした。
    「帰るならやめた方がいいぞ」
     ぽろりと口から言葉が零れる。少し手当の真似事をしてくれたほんの少しの礼かもしれない。
    「雨は夜にかけて強くなる。明日の朝までずっと豪雨だ」
    「マジか。俺の馬大丈夫かな」
    「さあ、でも人間のあんたよりはマシなんじゃないか」
    「それもそうか。なんだったらアイツ俺より先に帰ってそうだしな」
    「賢いんだな」
    「ああ。少しお転婆で……文字通りじゃじゃ馬だけどな」
    「騎士の馬には向いてなさそうだな」
    「そりゃ手懐けるまでには時間はかかったが……根気よく話してれば、こっちの意図をくんでくれるさ」
    「はあ……元々話が通じるやつの話も聞かない騎士がいるってーのにいいご主人様なことだ」
     ラミアは天井を見上げながらそう言った。その諦めた声の響きに歯痒さをガクは感じた。きっとコイツは騎士に傷つけられたんだろう。異形だというその一点だけで。自分もそれを責められる立場ではない。きっと自分も森の中で出会っていたら討伐対象だと思っていただろうから。
    「なあ」
    「なに」
    「俺、今日は帰る。アイツが心配だから」
    「……あっそ」
    「でも、またきっと来る」
    「なんで」
     ラミアが警戒心を顕わにしてガクを見る。何のためにと眼光鋭く睨んだ。
    「お前と仲良くなりたいから」
    「は?」
    「じゃあ、もう行くな」
    「えっちょ」

    「なんなんだアイツ」
     置いて行かれたラミアは呆然と出口を見た。緋色の布をさする。嵐のような男だった。おまけにとてつもない美形。また来るなんて餌にされる可能性があるとはまったく考えていない。でも……とラミアは緋色の布が巻かれた尻尾を引き寄せた。次に来るときはまだ生かしてやってもいいかも。
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