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    m__oji_

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    先生から見た名夏。本誌めちゃくちゃネタバレ。タクマさんちに行く前に泊まって行ったらめちゃくちゃかわいいなって話です。たぶんまだ何もない。何で付き合ってないんだよ!て先生もキレてる。もう付き合っちゃえよ…


    2024/3/27

    そういうふうにできている(名夏) ずきずきと痛む頭を抱えて猫はぐったりと椅子に伸びた。
     昨夜は明らかに呑み過ぎた。久しぶりに二日酔いを感じているが、それもこれも散々猫にやたら美味くて高値い酒を出してくれた名取のせいだ。用意された多量の酒のほとんどを猫ががぶ飲みしたのだが、その自身の呑みようは思いっきり棚に上げて全ての責任を名取になすり付けて恨めしく見上げる。
     目線の先では、名取ではなく夏目が嫌そうな顔で見下ろして来た。
    「先生、ちゃんと座れよ」
    「うるさいわ、小僧のせいだ……妖の酒なんぞどこで手に入れた……」
    「もらったんだよ。でも人間は呑めないからね、あんな強い酒」
    「そんなのがばがば呑んだ先生が悪い」
    「ほんとにね。寝ててもいいよ、朝ごはん出さないだけだから」
    「それは出せ!」
     叫ぶと自分の声が響いてまた頭が痛む。猫はぐったりしつつもテーブルに手をかけて何とか重い身体を起こし、決死の覚悟で座り直した。
     頭がぐらぐら揺れる。呆れたような夏目の声と宥める名取の声がやや遠く聞こえるが、頭が重い今は却ってちょうどいい。
     しばしぐらついているとことりと眼の前に皿を置かれる。
     簡単な洋食の朝食を出されていた。焼いたハムに目玉焼き、葉物野菜をちぎっただけのサラダとパンは皿の上で雑多に並んでいて、隣にはインスタントらしきスープも置かれている。三人分の皿やカップは大きさも色もばらばらで何の統一感もない。塔子の作る手の込んだ和食とは大違いだ。
     しかし、ろくな調理道具も調味料も、皿すらもなかっただろう名取の家から出てくるものにしてはまあ上出来だ。これをもし夏目に作らせたら目玉焼きひとつもろくに焼けやしないだろう。そう思えばずいぶんまともな気がする。
     揺れる頭を何とか支えてスープが入ったマグカップを取った。
    「もらうぞお」
    「いただきます」
    「どうぞ。それで?」
    「ええー……」
     不機嫌を装ったような名取の声に、夏目がうんざりとした声を返す。
     一昨日からずっとこれだ。どうせ不機嫌のふりなだけの名取は夏目の子どもじみた態度もため息ひとつで許してしまうし、夏目は最初っからごまかして許してくれるものだと思っている。
     本人たちは結構真剣にしているが、猫からしたらただの茶番劇だ。
    「何でオークション会場行ったの」
    「もういいじゃないですかあ……」
    「良くない。昨日先に寝ちゃってさ、結局なんだったの」
    「名取さんもすごい呑んでたでしょ、寝てたときすごいお酒の匂いしましたよ」
    「猫ちゃんより呑んでない」
     もそもそとレタスを噛む猫の真横で子どもじみた声の応酬が続いていて辟易する。
     先日のオークション会場の騒動の中で見た絵のことを聞きたいと言って、よせばいいのに名取に電話したのが一昨日。その場では危ないことをして、とやや低い声で怒られていたくせに結局夏目が神妙にしていたのはほんの一瞬で、すぐに甘ったれた声でタクマの家に行こうだの前日は名取の家に泊まるだのと楽しそうに話して、その翌日には猫を引っ張って名取の家にいる。
     多忙なはずの名取もまたすぐに予定を空けたものだ。何だかだと名取は夏目に甘すぎるなと思いながら猫はレタスを飲み込んだ。
    「ほんと、先に話してしてくれれば良かったのに」
    「そんなとこだと思わなくて」
    「知らなかったの?」
    「ぜんぜん。紅子さんもどんなところか知らなかったから」
    「まあわかりにくくしてるだろうから仕方ないかな」
     はあ、と大仰にため息をついた名取からはさっきまでのやや拗ねたような響きさえもなくなっている。
     最近しょっちゅう聞かされるやたら甘えた声にうんざりした。名取だって夏目だってこんなばかみたいに甘えた声で他の者と話したりしない。多分本人たちはわかっていないだろうが、全然違う。それを知りもせずに。
    「とにかく無事で良かったよ」
    「はい」
     笑った名取がくしゃりと夏目の髪を撫でて、夏目も嬉しそうにしているのを横目で見ながら猫はハムを齧った。
     何だろうこれは。こんな甘ったれた声の応酬で本当に喧嘩をしているつもりなんだろうか。これは犬も喰わないと言うやつではないだろうか。犬ではない猫だって絶対に喰いたくない。たぶんばかみたいにまずい。
     眼を逸らして、大きく口を開けて残りのハムを口に入れる。美味い。
    「小僧。ハムもっとよこせ」
    「こら、先生」
    「ハムはもうないな。ちょっと上げるよ」
    「仕方ない、それで我慢してやろう」
    「はいはい」
     まだ名取の皿に乗ったまま口を付けていないハムを半分に切り分けると、名取はそれを猫の皿によこした。
     まだ残っていたパンにハムを乗せてかじるとまた美味い。
    「すいませんね……」
    「いいよ、朝そんなに食べないし。夏目、食べる?」
    「はい」
     こくりと頷いた夏目の口に名取がぽいっと残ったパンを放り込む。指先が触れそうなほど近いけれど何も気にしていない様子に猫はため息をつく。
     もうそんなことだって当たり前として。
     うんざりしながら残ったパンとハムを一気に口に突っ込んだ。
    「先生も終わり? 片付けるよ」
     頷くと、名取は猫の皿を取って自分の分と重ねた。先に自分の皿を下げた夏目の後を追って名取も台所に入って行くのを見届けてから椅子を降りた。
     笑う声が聞こえてくる。やたらしあわせそうだ。
     奇跡みたいだって、自分には有り余るまどやかで最上の幸福を得たのだと。二人ともそう思っているんだろうって、手に取るようにわかって呆れながら猫は夏目のリュックの隣で伸びた。
     猫から見たら奇跡なんかひとつもない。過不足もひとつもなく、全部お互いの身の丈に合うもの。ただ帳尻が合っただけだ。
     因果とはそういうものだ。自分が蒔いた種で芽吹いたことはいつか帰ってくるし、自分で起こしたことではない不幸や悲しみなら生きるうちのどこかで好転するだけ。別々に生きた日々に積み重なった悲しみを、出会って積み重ねた二人分の想いでひっくり返しただけ。猫からしたらわかりきった人の生の巡り合わせがあるだけだ。
     人はそういうふうにできている。永くを生きる猫が見るものを人の子たちは知らないだけで、猫だってそんなこと教えたりしない。知らないまま、慌てて騒いで必死に重ねて繋ぎあって笑いあって。
     そうやって生きている。
    「全く馬鹿らしい」
    「何だよ先生」
     皿を片付けて戻った二人に悪態をつく。すいっと夏目の手を取る名取の仕草はなんの憂いもなく、ただ当たり前のこととして手を繋いでいた。
     夏目も当然のようにそのまま手を引かれている。ずっとそうだったかのように、ひどく近い距離にいる。
     そうだ。本当はずっとそうだったんだよ。人はいつか幸せになるようにできている。
     などと教えてはやらないけれど。
    「なんでもなーい。タクマとやらのところに行くんだろう、とっとと出かけるぞ」
    「はいはい、行こうか」
    「はい」
     けっと悪態をついた猫のことを笑う声が耳に落ちた。
     何でもないことみたいに繋がれた手。ずっとずっとそうしてきたことみたいにごく自然に手を重ねる二人を見届けて、さっさと夏目のリュックに潜ると猫は大きくため息をついた。
     もどかしかった距離を縮めて、溶け込ませて行く人の子たちを猫はいつも見ているだけだ。
     重ねた全部、そこにある友情も恋も愛も混ぜ合わせてひっくるめた全部が全部、名取と夏目だけのものだから。
     
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    m__oji_

    DOODLE読み直してたらやっぱ自分的に一番すごかったんだよな、になったので……今更の六巻のあと。原作ベース。全然名夏になってない暗い話です。この六巻から今後こんなに名夏になるとは思わないじゃん?!
    夕影のいない森(名夏)「先生、蝶が」
     タキが手を伸ばすと猫に止まっていた蝶は驚ろいて素早く飛び去った。
     鱗粉がわずかに舞っている。いくつもの光の粒が輝きながら空から土に落ちて行った。
    「あっ、ごめんね……」
     慌てて手を引いたタキを見上げて猫がため息をつく。それから夏目を見て、もう一度ため息をついた。
     呆れたような猫の態度に何も言えなかった。だって、猫の言うことは全部正しい。彼の言葉と同じように。
     飛び去る蝶を見送るタキと猫が視界の端に映っているのに何も見えていない。夏目からも全てが飛び去った気がして、何も見たくない。
     ただ深く深く息を吐き出す。
    「タキ、ごめん」
    「なにが……あ、これ」
     そっとクッキーの袋を差し出すと、タキはそれだけで全部を理解したように表情を引き攣らせた。受け取ろうと一度手を伸ばそうとして、でもためらってまた下げてしまうタキと夏目の間で、受け取ってもらえない袋が宙に浮いている。
    2144

    m__oji_

    DOODLE19歳くらい名取さん。モブ多め。芸能界のしんどいところを見る暗い話。暴力的なことを匂わせる表現があります(名取さんが遭うわけじゃない)
    本誌の香がやばくて、あれ初めて使ったとき咽せたよね?!から見た幻覚です。
    名夏書こうと思ってたのになんか間違えちゃったな?!本誌のことで名夏も書きたい。


    2024/3/24
    負け犬、夢を見る(19歳名取周一) 眼の前で人が泣いていて、息が詰まる。
     どうして泣いているのかも鮮明にわかる。きっと同じ気持ちだからだ。名も知らぬ人からのひどく重くて辛い感情が重なり合う。
     でも、涙は出ない。ずっと幼い頃に泣いたきり泣いた記憶がない名取には涙を流す人が遠く見える。
     どうしたらこんなにも絶え間なく涙が出るんだろう。
    「ちょっと、この娘は下がらせて! どういう教育してんだよ、こんなんで泣いてたら使えないよ!」
     初老の監督からの怒鳴り声に慌てて周囲が動き出すのを少し離れたところから見ていた。
     投げ付けられた手酷い言葉に唇を噛み締めるけれど、名取は泣き続ける歳下の少女に手を差し伸べることもできない。彼女の名前すらろくに覚えていないくせに、助け船なんか出せない。慌てた様子で駆け寄ってきたマネージャーの女性が泣く少女の手を取って宥めながらセットの後ろに連れて行くのをただ見送った。
    5011

    m__oji_

    DOODLE事後の話なのでちょっとそれっぽい描写があります
    わかってる夏目くんとわかってない名取さん
    ランドスケープの削ったとこを再利用したので同じ話感がすごいんだけど、いつも同じ話だしそんな気にするな……

    2023/11/18
    テュペロハニー(名夏) ぽたりと水がこぼれ落ちた。
     髪の先を伝う水滴が落ちて床に小さな水たまりを作る。ぼんやりと落ちる水を見ているとぱさりと髪に布がかかった。
     真っ白のタオルで髪を拭われる。
    「自分で拭けますよ……」
    「いいから。じっとしてて」
     自分で髪を拭おう手を上げたけれど、すぐに掴まれて下ろされる。とても穏やかで優しい声だけれど、有無を言わさずに濡れた髪や身体を拭われるのはいつも変わらない。
     指先がタオルごと後頭部をかき回していて、水が髪から飛び散る。柔らかな手付きではあるけれど離してくれるつもりは全くなさそうで、仕方なく半端に浮いたままだった腕を下ろした。
     視界がタオルで塞がれてしまう。上の方は何も見えないから下を向くと、名取は窮屈そうに長い脚を曲げて座り込んでいた。狭い洗面所の床は二人で座り込んでしまえばもういっぱいで、小さな空間に無理やり詰め込まれたみたいだ。動きにくそうにしながら手を伸ばされていて、無理してそんなことしなくていいのにって思うけれど、それを言ってみたところでやめてくれはしないなってわかっている。
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