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    mochikuinee

    @mochikuinee

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    mochikuinee

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    いつか膝髭になる膝丸の初恋

    春の日 膝丸のもとに兄が顕現されたのはよく晴れた春の日の朝だった。柔らかな梅の香りがまだ少しひんやりとした朝の空気に溶けて淡く薫る。短刀らの声が楽しげに響く中庭を抜けて渡り廊下を進むと、膝丸は鍛冶場を目指した。近侍は朝食前、昼食前、そして夕食前に必ず鍛刀をすることがこの本丸では決まっている。近侍は三日おきに交代となり、膝丸の当番は今日で最後だった。明日からは少し長く布団にいられるな、などと考えながら鍛冶場へ入ると、炉は既にごうごうと火が焚かれ、小さきものたちが一斉に膝丸を向いて微笑んだ。
    「日課の鍛刀だ、よろしく頼む」
     膝丸がその場で膝をつき審神者から預かった札を手渡すと、小さきもののひとりがそれを受け取り、他のものたちがわらわらと準備に取り掛かる。膝丸は邪魔にならぬようにすぐさま立ち上がると、一歩下がってその様子を見守った。
     日陰はまだ寒いと感じるようなそんな朝だ。鍛冶場は絶えず火が焚かれているので、恐らく本丸の中で一番温い場所だった。
     遠くでは幼き姿をした刀らの声。薫る梅の花。柔らかな日差し。温い鍛冶場。早朝の日課。
     膝丸は、一瞬己が微睡んだのかと思った。ぱっと辺りが眩くなって、まるで夢の中のようだったのだ。
    「源氏の重宝、髭切さ。君が……、おや?」
     甘くとろりとした声が膝丸の鼓膜を撫でて、そうして優しく微笑んだ。白妙の衣装に身を包む姿に後光がさしているように見えたのは、恐らく幻だろう。けれど膝丸には確かにそう見えた。

     膝丸が初めて恋を知ったのはよく晴れた春の日の朝だった。まだひやりとした空気が頬を撫でる、そんな朝。高鳴る鼓動、熱を帯びる頬、臓腑を締め付けられるような妙な心地が膝丸に春を告げたのだ。
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    mochikuinee

    PROGRESS3/17 俺の兄者の新刊「眠れぬ夜に一服」のサンプル(仮)です。
    眠れぬ兄者とそんな兄者を見守る弟が夜な夜な茶を飲む話です。全年齢にしようか、成人向けにしようかまだ悩んでいます。
    (膝髭)眠れぬ夜に一服 身動ぐ気配がする。
     既に灯りは落とされ、真っ暗闇に包まれた部屋の中。布団を二組繋ぐように敷いて仰向けになった膝丸は暗闇に小さく漏れる衣擦れの音を聞いていた。
     隣に横たわるのは兄の髭切だ。すっかり布団に包まってしまっていて見えないが、寝ているのか、それとも眠れないのか、枕へ頭を擦り寄せる音や掛け布団の中で手だか足だかを僅かに動かす音が微かに聞こえてくる。寝ているのであれば随分と騒がしい夢を見ているのだろうが、膝丸が耳を澄ますと時折ため息のように重たい呼吸が聞こえてくるので、恐らく眠れないのだろう。
     髭切には時折こうして眠れない夜があるらしい。膝丸が初めにそれに気がついたのは、遠征から帰ってきた日の夜だった。帰りは夜になると伝えてあったので、てっきり先に寝ているものかと思っていた兄が、膝丸が寝る準備をしていると突然むくりと起き出してきたのでぎょっとした。起こしてしまったかと焦る膝丸に、髭切は「なんだか寝付けなくてね」と静かに笑ったので、それはこれ以上膝丸が気にしないようにという髭切の優しさかと思っていたのだが、そういうことが二、三度続いてようやく、ただ本当に寝付けない日があるようだと気がついた。別に日常的に眠りが浅いとかそういうわけではないらしい。一度寝てしまえば、そのあとは朝までぐっすりと寝ているし、更にいうならば別に不眠症というわけでもないようだ。きちんと眠れる日の方が多い。けれど時折こうして眠れない日がある。理由は髭切自身にもよくわからないと聞いているが、体に異常があるということはない。手入れをしても改善するわけでもなく、こうして気まぐれのように不意に眠れなくなるのだそうだ。ただ近くで見ている膝丸が思うには、雨の日の前であったり、朝晩の寒暖差が続いたりとそういう時に眠れなくなっているように思えた。季節の変わり目などは特に、膝丸でも身体の僅かな違和感を感じたりするのだ。そういう違和感が髭切へ眠れないようにいたずらするのだろうと考えることは容易である。
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