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    itokuzukun

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    itokuzukun

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    レンタル彼氏アルバイトグレイ×ご令嬢(?)アッシュ♀ 女体化

    #グレアシュ
    glacier
    #エリオス腐R
    eliosRotR
    #女体化
    feminization

    レンタル彼氏アルバイトレンタル彼氏、なんて世界に自分が関わるとは思ってもみなかった。
    弟の友人がそういう会社に勤めてるらしい。どうしても都合がつかなくなってしまって人を探している、と頼み込まれて、弟は僕に白羽の矢を立てたというわけだ。
    「いや絶対無理無理無理無理。ぼ、僕なんかが行っても……全然話も何も出来なくて……相手の人が怒って賠償金とかそういう話になっちゃうだろうし」
    「兄貴がそういうのは分かってるけどさぁ……。いい加減荒療治でも女性と関わって慣れたほうが良いんじゃないの? 上手く相手が出来なくても良いっていうのはちゃんと言質取っておくから」
    「ほんと無理だってぇ……自分がやりなよ……」
    「俺もその時間は仕事のアポが入ってるんだよ。兄貴は行ってお相手と話するだけでいいから!」
    散々に嫌がったのに、お風呂に突っ込まれ、買ってきたという服へ無理やり着替えさせられ、親の車を借りてホテルの前まで運転させられ、フロントで受付までして放り出された。後はエレベーターに乗って部屋に行くまで、という状態にされて背中をじっと見つめられている。
    そりゃあこの年になっても引き篭もってゲームばかりしてるなんて、家族に心配させているのは分かっている。もうどうせ駄目なまま生きてくんだろうなという諦念と、それではいけないという葛藤と、でもと足踏みして怯えていつだって結局外に出れないことに辟易しつつも許してしまっている自分がいる。
    変わらなきゃ、と思うだけでは変われなくて、きっかけが欲しいと無為に過ごしながら口を開けて待っていて。
    だから強引にでも連れ出されて、嫌と言いつつも流された。弟も大丈夫だと太鼓判を押してくれたし、相手も口下手でドジで勝手が分からない新人でもいいと妥協してくれたらしい。
    相手は良いとこのお嬢さんで、話し相手が欲しいのだという。同じように人と話すのがあまり得意ではなくて、慣れるために契約したらしい。二時間半の時間の大半を一緒に映画を見て、存在に慣れて、少し感想が話せればというプランを提案したと聞いた。
    相手の肩書はトップシークレットで、探ろうとしないこと、知った情報を漏らさないことは厳守してくれと、会社の方からは念押しされた。勿論そんなことは当たり前だ。
    仕方なくトボトボと歩き始めると背中に声が掛けられる。
    「兄貴! あんまり気負い過ぎず頑張れよ! 後、背筋は伸ばした方がいいぜ」
    慌てて背を伸ばした。出来る気はしないが有り難い激励だ。手を振ってエレベーターに乗る。
    それにしても良いホテルだ。よほど上流階級のお嬢さんなのだろう。そんな相手に僕で良いのかとやっぱり怖気づくが、もうここまで来たらどうしようもない。
    呼び鈴を鳴らすと、はい、と応答する女性の声が聞こえた。
    「あ、あの……ご連絡しましたレンタル…彼氏……の者です……その……」
    「……どうぞ」
    フロントで渡されたカードキーを通す手も震えていて、カツカツと何度か失敗してやっと鍵が開く。
    「し、失礼します……」
    廊下の先に広いリビングが見える。進むとソファが見えて、そこに座っていた人が立って振り向く。
    「……なっ、んで……」
    「は……え……。ア……アッ……シュが……なんで……」
    長い髪は軽く内巻きに巻かれて胸元に掛かっている。少しフリルの付いたレースの綺麗なワンピースは可愛く落ち着いたピンク色で、よく似合っているのに頭がおかしくなりそうだ。
    驚いた顔で見上げてくるその顔は、かつて散々アカデミーで見ていたものなのに、メイクが違うせいか全然印象が違う。

    あの頃は地獄のような日々を送っていた。カーストトップのアッシュに目をつけられ、散々に扱き下ろされて虐められるのが日常だった。結局アカデミーは留年して中退し、引き篭もりの生活をしているわけだが。
    その原因となった相手が、今ここにいる。頭が真っ白になって、手足が震えてきた。
    「……ひとまず座れ」
    近付きたくなくてブンブンと首を振った。アッシュがため息をついて部屋の奥へと向かう。
    「飲み物入れてくるから。いいから座っとけ」
    姿が見えなくなってホッとした。言われた通り座るべきか悩んで、怒られるのが怖くてソファの端っこに座った。
    どうしてアッシュが、と部屋に入る前とは違う意味で動悸がする。話し相手が欲しくて? 人と話すことに慣れたいから? レンタル彼氏を雇って? なんだそれ。ことごとくアッシュに似合わない言葉が並んでいて気が狂いそうだ。
    アッシュの周りにはいつでも彼女の取り巻きがいた。男も女もアッシュに気に入ってもらおうと取り囲んで、アッシュだって煽てられて気分を良くして悪くない顔をしていたはずなのに。
    そう思いながら振り返り、いやそうだったかなと記憶に違和感を覚える。
    アッシュはいつでも一人で行動していた。周りはそれに合わせて動いていた。アッシュがグレイをいじめるから取り巻きもグレイに絡んできた。ああ、でもアッシュはそれを嫌がっていなかっただろうか。
    深く思い出そうとすると息が苦しくなってくる。頭が痛くて蹲ろうとすると、突然肩に手が置かれた。
    「歯は食いしばるな! ゆっくり息を吐いて、吸え」
    大声が怖くて更に縮こまると、声が少し優しくなり固く握りしめた手を撫でられる。
    「力を抜いて、息をすることだけ考えろ。吐いて、吸って……」
    なんとか言われる通り呼吸をして、それだけに集中していると少し体が楽になってくる。だんだん深く息が出来るようになって手を緩められるようになると、アッシュの手はそっと離れていった。
    苦しさで滲んだ涙が落ちる。歪んだ視界で見えたアッシュはひどく辛く泣きそうにも見えた。――どうして君がそんな顔をするんだ。
    「……落ち着いたかよ」
    安定してきたのを察してアッシュは傍を離れた。視界から外れたので目で追えば、ソファの裏に立って背中を向けている。
    「こっちから中止の連絡を入れておくから、お前はもう帰っていい」
    その背中は覚えているよりも随分と小さい。頼りないその背中につい疑問がこぼれた。
    「……アッ……シュは、どうしてこんなことしたの?」
    「……テメェには関係ねぇだろ」
    「人と話すのに慣れてないって聞いた……そんなの変だよ」
    アッシュらしくない、そんな気持ちに胸がムカムカする。あんなに人に囲まれてパーティー三昧な人間のどこが慣れてないっていうんだ。そんな見たこともない清楚な格好をして、傲慢さでも取り繕おうとしたのか。知らない相手に媚でも売って、その本性を隠したまま男に取り入ろうとしたのか。
    「……慣れてないとは言ってねぇ」
    「じゃあ、なんなの……」
    責めるような口調になっていることに自覚はなかったが、その視線も睨むようにアッシュの背中を見ていた。
    しばらく無言の応酬になったが、折れたのはアッシュだった。
    「……テメェだって、傷付いたんだろうが」
    「……は?」
    「……口、下手なわけじゃねぇが、自分の態度が悪いことぐらい……自覚はある」
    「はあ?」
    そんなの今更すぎる。確かにアッシュの口は悪いし態度は最悪だ。ご令嬢なんて肩書きが全く似合わないほどに、男言葉だし粗暴な振る舞いをしている。
    「女らしさなんてクソ食らえだ。そんなモン押し付けられるくらいなら死ぬ方がマシだ。今だってそう思ってる。……けど、出来ないのとしないのは違うだろうが。俺だって、別にやれば出来るって……姉貴に啖呵切って……」
    「はあ……」
    つまりはグレイがここに呼び出されたのも、兄弟喧嘩の末の戯れだったということか。なんだか恐怖や怒りを感じているのが馬鹿らしくもなってくる。
    「こんな服も、髪も、動きづらくて仕方ねぇ。そりゃまあ、俺様に着こなせねぇわけがねぇが……」
    アカデミーの頃は制服があったが、時折見かける私服は今ほどはメリハリはなくとも美しい体をよく曝け出していた。髪も短かったり結んでいたことが多かったと思う。まさかそれが可動性の問題だとは思ってもなかったけれど。
    清楚な服を着て、大人しいメイクをして、黙って立っていれば深窓の令嬢に相応しい見た目だ。何も知らなければ引っ掛かってもおかしくない。グレイだって知らなければ見惚れていたかもしれない美人だ。
    それでも、もっとアッシュには似合うスタイルがあると思ってしまう。内心の苛烈さを隠すなんてらしくない。あの自信に満ちていて、己の振る舞いをなんら躊躇わない、強い彼女だからこそアッシュなのだ。
    「変わらないな……」
    「ああ? なんか言ったかよ」
    「別に……あ……映画、観るんだっけ?」
    ソファにちゃんと座れば、大きいスクリーンが壁に広がっている。空間に映像を浮かべる技術は進んでいるが、きちんと光を投射したほうがやはり色は鮮やかに映る。
    「……帰らないのか?」
    「映画、観るぐらいなら付き合うよ。……そういう仕事だし」
    多分、そういう仕事のはずだ。初めてだから分からないけど。黙って映画を見るだけなら、今のアッシュとなら大丈夫な気がした。リモコンで適当なタイトルを流し見する。
    「色々……あ、これもあるの? へぇ……意外と揃ってるんだ」
    画面の方ばかり見ていると、そっとアッシュがソファの端に離れて座った。あいだに人ひとりぐらい入りそうな距離で並んで座る。なんだか甘い香りがした気がして、アッシュ側の方だけ熱が上がっていく気がする。
    「な、何か観たいのある?」
    「……お前が観たいやつでいい」
    「そ、そう言われると困るけど……」
    ホラーとかは駄目かな……恋愛物は気まずいから止めておこう……コメディもアッシュと観ても……。
    「慣れてるのか?」
    真剣に悩んでいたので、突然話しかけられて驚いた。
    「ふぇっ!? ……えっと、何に?」
    「レンタル彼氏」
    「いや……初めてなのに慣れてるも何もないし……」
    「初めて?」
    「なんか都合がつく人がいないとかで……弟に引っ張り出されて……」
    「お前使うとか、弟の人選やべぇだろ」
    「うっ……その通り……だけど」
    クク、とアッシュが笑う。バツが悪くて口籠っていると、アッシュはそれ、と画面を指さした。
    「その犬のやつ」
    「えっと……ファンタジーアクション・コメディって書いてあるけど」
    「ツマんなかったら変えりゃいいだろ」
    「それもそうか……」
    暫く見ていると、どうやら『ヒーロー』になる能力を得た犬の話だったらしい。可愛い犬達がちゃちなエフェクトに乗って変身し、飼い主に隠れて人を助けている。そんな話だ。
    「ヒーローなんて現実にはいねぇのにな」
    アッシュがぽつりと呟いた。
    ヒーローが現実にいたら、僕はアカデミーでいじめから救われただろうか。そんなはずもなく、結局は同じ結果に終わったに違いない。ヒーローは人を助けるが、すべての人を救うわけじゃない。その手の範囲でしか人は人を救えない。
    「でも……きっとどこかで、みんな誰かに救われてるんだと思う」
    僕だってゲームに救われた。家族に、バディに救われた。サブカルチャーがあったから生きていけた。それは一人のスーパーヒーローの所業ではないけれど、顔も見えない製作者達も確かにグレイのヒーローだ。
    そしてあの頃のアッシュも、強くて自信に満ちた姿はきっと誰かの希望だったんだと思う。眩しくて、羨ましくて、だからこそいじめられて苦しかった。
    「……お前も?」
    「うん。……アッシュは?」
    「……」
    何も返してはくれなかったけど、その横顔に、きっとアッシュにもそういう人がいたんだろうと思った。

    最初にバタバタしたから、映画が終わる頃には予定の時間を過ぎていた。玄関先でアッシュはチップだと言って明らかに多いお札を渡してくる。時間外まで含めたとしてもそんな大金は相応しくないだろう。
    「そんなに受け取れないよ」
    貰えるもんなんだから貰っとけよとアッシュは言うが、大したことはしてないのに過剰に貰うのは気が引ける。
    「……また、呼べるか?」
    「え?」
    その言葉を不思議に思ってアッシュを見ると、顔を赤くしてそっぽを向かれた。
    「テメェなら此方の気が楽だからな」
    「そう……?」
    けれど臨時のアルバイトだ。アッシュが同じように依頼しても別の人が対応するだけだろう。グレイもやっぱり向かないと思うし、他の人にこんなことが出来る気もしない。
    「もうこんなことしないよ……」
    「……そうかよ」
    でもアッシュがまた今日のようなただ映画を見るだけでいいと言うなら、それを他の人にさせるのは惜しいなと思った。その人はアッシュのことを何も知らないまま、こんな可愛い服を着てしおらしい振る舞いをするアッシュに、きっとデレデレして、スキンシップなんかもして……。
    「し、仕事はもうしないけど……ただ映画を観るだけでいいなら……!」
    慌ててスマホを出すと、アッシュは目を丸くして見上げてきた。悪意の見えないその顔にドキドキするとアッシュもスマホを取り出す。
    「……じゃあまた、連絡する」
    「う、うん……」
    ふらふらと浮ついた心地のままエレベーターに乗る。ラウンジで何故か弟が待っていて、大丈夫だったか? と声を掛けてくる。
    「大丈夫……だったのかな……?」
    「おいおい、少しは話も出来たのか?」
    「話、せた……と思う」
    ぽやぽやとしか返事を返さないグレイに弟は呆れてため息をつく。
    「まあ兄貴に、初対面の女性に連絡先を聞くほどの甲斐性があるとは思ってもないけどよ」
    「連絡先の交換はしたけど……」
    「え?!」
    ひどく驚かれてグレイはハッとした。もしかして、レンタル彼氏の仕事としてやってはいけないことだったのでは……? 社内規則も何も詳しく聞く時間もなく追い出されたのだから、その場合もグレイばかりが悪いわけではないと思うが。
    「な、何でもない! 何にもしてないから!」
    「兄貴って、マジでその年で素直すぎるよな……」
    今更連絡先を消せと言われても従いたくはない。アッシュという大口を奪ってしまったと考えると申し訳ないが諦めてもらおう。
    車の鍵を取る際にスマホに手が当たって、そこにアッシュの連絡先が残っていることに口元が緩んだ。
    また次の時には何の映画を見ようか、良さげなものを少し探しておこう。アニメ映画とかは観ないかな。
    上機嫌な兄に、弟は助手席で呆れつつも安心したように息を吐いた。
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