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    いとう

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    いとう

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    フェイ→←ビリ

    #フェイビリ
    #エリオス腐R
    eliosRotR

    正しい棺 うだるような暑さの中で大きく伸びをした。当たり前のように太陽が人をかき乱す。こういう時は屋内で情報収集に勤しんだ方が楽だ。そうは思ってもこの職業も他者の信頼を得るには最高の仕事であるので手は抜かない。舌で口内にある人の怠惰さを集めたような重くるしい甘さの塊を転がした。溶けて小さくなったその味があまり好みではなくて、奥歯で噛み砕いて小さな欠片にしてしまう。

    空腹は嫌い。優しさは好き。口寂しいのは苦手。無言で慰めてくれるキャンディが欲しくなる。

    自分より背の高いその後ろ姿に向かってとびきりの笑顔を向ける。
    「グレ~イ! 今日もお疲れ様!」
    落ち着いた暗めの髪色を持った彼は、腕で額の汗を拭っている途中の姿勢のまま振り返った。暑さで少し頬が赤らんでいるが、それは健康そうな色合いを持っていた。
    「あっ、うん、ビリー君もお疲れ様」
    未だに視線を合わせることにさえ躊躇するグレイという男は、これまでの人生経験でもなかなか稀有な存在だった。色んな人間を見てきたつもりだったけれども、グレイは度が過ぎるほどに表向き自信というものを表現できない人間だった。だから、彼を肯定という海に溺れさせて信頼を得るのは容易かったし気持ちが良かった。20歳を過ぎてもこんな風に純粋さを失わずにいられるのは最早才能なのではないかと思うくらいには、好意的に彼を見ていた。人っ子一人殺せない顔をして、ゲームの中では荒っぽいプレイで他人を見下している、そんなところも面白くて大好きだった。僕なんて、といつも言うけれどもその特異さを受け入れて愛してあげて欲しいと思いながら接している。そのままの姿で興味やら好奇心を向けられるのは、他人には真似出来ない才能なのだ。結局のところアッシュパイセンだってベクトルは少し違うけど、グレイに興味津々。多分当の本人たちは必死に首を振って否定するだろうけれど。
    「ビリー君は、その、この後もお仕事なの?」
    小首を傾げて問いかける様は、自分よりも体格に優れているはずなのにさほど差を感じさせない不思議さがあった。相手に威圧感を与えないところも実に好感を持てる要素で、グレイと交流を深めるほど彼と本当にバディになりたいと願っていた。
    あらかじめ今日の予定をどこに比重を置くか決めていたので、間髪入れずに言葉にする。
    「今日は大丈夫~! グレイに用事が無ければ一緒にご飯食べ行こうヨ!」
    「う……うん!!!」
    他の感情が全く混じっていない心の底からの笑顔を浮かべながらグレイは弾んだ声で答えた。ハッとするほど柔らかで美しい笑みだった。
    そういう顔を自分が最後に浮かべる事ができたのはいつだったか、そんな疑問が唐突に頭をよぎったが、何のプラスにもならないのですぐに辞めてしまった。お金にならないことは1番嫌い。

    自分の与える優しさは彼が思うよりきっと打算的で綺麗なものでもないのに、彼はいつも丁寧に両手でそれをすくい上げてくれる。大事そうに、零れてしまわないように。その事にどうしようもなくやるせなさを感じた時には、意味の無い幻で構成された、落ちれば硬い音しか鳴らさない病的な色合いの雨を降らせるのだ。それでも彼はとても優しく笑ってくれる。
    彼はきっと他の誰とも違う『友達』になってくれるのだと、強欲な妄想をするのはとても楽しかった。



    エリオスタワーへの帰路を歩み、建物の中に入ってからもグレイと雑談をしながら歩いていると見慣れた後ろ姿があった。グレイには、少しお喋りしてから部屋に帰るネ~、と声をかける。彼の姿が見えなるまでひらひらと手を振った。
    足音を立てぬよう注意を払いながら対象への接近を試みる。こういうドキドキすることは大好きだ。タイミングを待って勢いよくその背中に抱き着く。
    「ハ~イ! ベスティ!!」
    進行方向に足をつんのめりながらもどうにか踏ん張って、それからよく知っている呆れた顔をしてこちらに振り向いた。そこにはもう既に何が起きているのか分かった目元があった。
    「はぁ……面倒……」
    「ワアォ! いつも通りひどいネ!」
    声に出して笑いながら離れると、わざとらしい盛大な溜息をひとつ吐かれた。幾度となく繰り返してきた会話だが、DJビームスにやめろと言われたことも無いので、おそらく彼も別にこのやり取りが嫌いという訳では無いのだろう。
    「DJがこの時間にいるなんて珍しいネ!」
    「イベントが中止になったから今日は休み。そっちこそ、ここで大人しくしてるなんて珍しいじゃん」
    「オイラの仕事は外に出るばっかりじゃないからネ! 情報を精査して必要なものだけを抽出する作業っていうのも大事なんだヨ!」
    「あ、そう」
    心の底から興味なさそうに吐かれるやる気のない返事にももう慣れているが、たまには称賛を受けてみてもいいんじゃないかと思う。
    頭の中に彼の周囲の出来事を巡らせて、あ、と軽く声を上げた。
    「今日は稲妻ボーイLIVEで遅いでしょ! オレっちDJたちの部屋お邪魔した~いキブン♡」
    もしかしたら欠片は残っていたかもしれない取り繕う気も一切なしに、露骨に顔を歪めてみせる姿は何だかとても面白かった。DJの周りで彼をゲッソリした顔をさせているのは自分が1番多いかもしれないが、今更遠慮などするつもりも毛頭ない。
    「写真とかやめてよね。流したらただじゃ済まないから」
    少しだけ頭をよぎっていた目論見がバレている上に本気で言っているのだと察して、コワイコワーイ! と口にしたけど、その足の行く先は間違いなく彼らの部屋がある方向だった。着いてこいと言われた訳では無いが、これは別に構わないというサインだ。本当に他人にこんなに甘くて大丈夫かと考えたが、その時はその時でなんとかなるのだろうし、ピンチな時は助けてあげても構わない。そうやってずっとやってきたし、多分これからもそうなのだろう。
    不揃いな足音がリズムを刻む。何処までいっても交われないのに、そういう物だとして完成されたひとつの音楽だった。



    「お邪魔しマース!!」
    「もてなすつもりはないから勝手にしてよ」
    そう言葉にして気だるそうにベッドに腰掛けると、座るならそれね、と白い指先で指し示した。
    共有スペースを抜けた先は音楽という音楽に徹底していて、自分たちの部屋を思い出すとハンモックが掛かっているし、ゲームモニターの数も多いけれども、まだまだ平凡かもしれないと思った。
    アカデミー時代にも見慣れた複数のヘッドフォンを視界に入れて、幾つか新しい物も増えていることに気づいた。ただ、それは元々所有していた物と形が似ていて、おそらく後継機か何かなのだろう。
    「DJってこだわるタイプだよネ」
    初めてのものは何だって面白い。触るとだいたい怒られるので、ヘッドフォンを覗き込む。よく見るとそれは似ているようでひとつひとつ異なる形をしていて、兄弟がそれぞれの顔で違う表情をしているようでもあった。
    「何を判断してそう言ってるんだか知らないけど、別にそういうつもり無いよ」
    「だって、よく使ってるヘッドホンのメーカーと系統はほとんど同じだし、気に入ってるんデショ?」
    背後からの声に彼の方へと体ごと向き直りながら言葉にした。組んでいた足を替えながら、また溜息をついて、それからこちらへ視線をゆっくりと投げかけてきた。
    「そうだけど。うるさくするならお宅のメンターに引き取りに来てもらうよ」
    「ハーイ、僕ちん静かにできる子だヨ~」
    降参したという風に両手を挙げてながら口元を緩める。
    今日の彼はいつも通りではあるのだが、どこか異質な匂いがした。自分の持つべきものでは無かったのに、どうして今この手に抱いているのか分かりません、といったような居心地の悪さの中で苦しそうに息をしているように見えた。こういう顔は知っている。何か自分の中で考えて、それを持て余している時だ。
    気分転換にでもとびっきりのマジックを披露してみせようと両手を背中に隠すと、ぴしゃりと部屋の中で声が響いた。
    「そうやって人の意表をつくことで誤魔化したりとか、いつまでも通じるとか勘違いしてるならやめて」
    その言葉に、それまで準備を待ち構えていまかいまかと待つ指先を止めた。
    時折DJは容赦なく錆びたナイフで抉ってくる。だというのに、致命傷だけは確実に避ける中途半端さは心の底から愛すべきものだった。これまでも機嫌があまり良くない時に放たれることがあった。正直、彼とはどこまでが甘えで、どこからが優越感で、どこに行き着くのか分からなかった。この出来上がってしまったもののギリギリで保たれた砂の城はいつまで綺麗な姿を残せるのだろう。波が城壁を濡らして少しづつ瓦解するのか、大きな津波に飲み込まれてあっさり姿を消してしまうのか、はたまた砂の城の王が死んでしまうのか。それらの悲鳴を聞く時に自分はいったい何を思うのだろう。
    DJには言わないが、それは面白さと興味と好奇心の全てが揃っていた。そういうのは知らないから本当に本当に大好き。
    披露することは諦めても、流石に既に形成された確固たる自論だけは譲れない。肩を大袈裟にすくめてわざとらしい困った顔を作り上げて、それから出来るだけ上等の笑みを浮かべられるよう頬の筋肉を動かした。
    「意表をついてこそ! マジックは何が起こるか分からないから楽しいんだヨ。確定してない先のことが見えちゃうなんてつまらないでしょ~。少なくともオイラは人を楽しませたくてやってるんだから、相手の考えをネガティブ方向に決めつけちゃうのも損してると思わない?」
    今、向けられている、このどうでも良さそうな視線にも、一度もめげたことの無い我ながら強靭な精神力に彼はもっと感謝するべきだ。まぁ、本当は褒めて欲しいだけで、諸々がどうでもいい。
    彼は組んでいた足を下ろして、太ももに肘を乗せながら合わさった両手の上にそのよく出来た形の顎を乗せる。少しだけ沈黙が部屋の中を闊歩して、それに水を差すのもやぶさかだろうと真似をして口を閉じた。
    「結局あれから何か分かったの?」
    静かに告げられた言葉を聞き、以前問われた内容を思い出して、うーんと声に出した。誰にどこまで情報を渡すか、その行き先を管理するのも仕事上大事なことである。
    「お友達価格でまけてあげてもいいけど、幾らまでなら出す?」
    あまり情報を与えすぎるのは、意外と情緒が深い彼の性を思うと気が進まないが、大事なお友達なのは今もこれからもずっと変わらない。だから最大限の譲歩をしながら答えた。
    「面倒くさ……どこまで掴んでるのかも俺は知らないんだから、そっちが有利すぎる話でしょ」
    「どうせお金なんて余ってるくせに~」
    「意味も無く馬鹿みたいにばら撒く趣味は無いってこと」
    この話はここで終わりだ。だいたいこういう態度の時はそうなる。DJはいつも折れてやってるなんて言うけれども、俺っちも色々頑張ってるんだよと心の中だけで叫ぶ。別に知って欲しいとかお前のためだなんて思ってもいないし言いたくないし、言うことは永遠にない。
    変な息苦しい空気は嫌いなので、できるだけいつも通りの軽い口調を心掛け、口を開く。
    「ヒーローのお仕事結構命懸けだし、大変だからネ。そりゃあ色んなことがあるヨ」
    「他人事みたいに言う」
    「そりゃあそうだヨ。死ぬよりも空腹に耐えながら生きるとかの方が僕ちん嫌だからネ」
    何かを言おうとくちびるを動かされるのを見た。けれども、やはりやめたようだった。何か悪いところに触ってしまったらしい発言は軽率だったかな、と失敗を反省はするが後悔はしない。理解しているつもりで、どこかいつまでも彼とは交わらないところにいる。
    感傷的な純粋さは美しいが、それは普通の人間には荷が重いし、お金を生み出してくれるとは思わない。だからといって、彼が間違っているなんてこれっぽっちも思っていない。できることならば、それを綺麗に研磨して輝かせ、その胸に抱き続けて欲しい。
    ほとんどのものを許容してきたつもりだったのに、いつの間にかこんなにも絡まった糸のようにぐちゃぐちゃになってしまった感情を見せるのは、キャンディを口にするくらいでは収まりのつかない胸の内を持て余してしまいそうで、更にはお金にならないから言わない。いつの間にか手にしてしまった奇妙な意地は、この不安定さをとりあえず見れる様に体裁を整えるには必要なのだと考えている。
    「都合が悪けりゃ死ぬだけだって~。もちろん貯めたお金がもったいないとかはあるけどさ!」
    嫌悪感を隠しもしない軽蔑すら入り交じった瞳でじっと見つめてくる。正直少し怖い。死生観については人それぞれなのだからあまりそこには突っ込まないで欲しいと思うのだけれど、どこか潔癖さを持っている彼には許せないのかもしれない。これはちょっと意見を折らせるのは難しいかもしれなかったので、どうにか話の方向を少し反らせないかと思案にする。
    「こうしようヨ。オイラは頑張る。でも不慮の事故か必然の成り行きが起きたとする」
    道化じみた大袈裟な身振り手振りをつけながら話して、それから、少しだけ顔を近づけた。覗き込んだ瞳は少しだけいつもより少し大きめに開いていて、とても綺麗な色をしていると改めて感じた。
    何故か急に、用意していた言葉を紡ぐのが戸惑われて息を吸った。だけど好奇心と自己満足に押されて今更止まることはできなかった。
    「その時はDJがオイラの顔を最後に覗き込むんだヨ」
    変に最初の音が高く強ばって出てしまって、こんなことなら最初から言わなければ良かったかもしれない。
    彼の眉根が寄せられた瞬間、やはりまた失敗していることに気づいた。窓に強く当たり散らす風の音ばかりよく通る。何でもいいから早くその顔をやめて。いつもみたいに呆れながら柔らかく笑って欲しいのに、上手く作り上げさせることができない。ああ、しつこいくらいの甘さのあの時のキャンディが欲しいのに今取り出す手段が無い。
    「いいよ。でも」
    風が窓を揺らすガタガタという音にかき消されそうな言葉が耳に届く。それは想像から遠く離れた答えで、それで良かったはずなのに何故か腑に落ちなかった。
    違和感の中、DJの表情はひとつも笑ってはいないけれど、さっきのような負の感情は消えているように思えた。まぶたを伏せがちにした後に、組んだ両手の甲に額を当てて俯いてしまう。立ったままの自分から低い位置で、艶やかな黒髪がサラサラと落ちていく。
    「そういう甘え方は最低」
    彼は肺から苦しそう押し出すように、選んだ言葉を吐き捨てた。
    瞳を閉じて深呼吸をする。もうどう取り繕ったところで今日の彼は笑えないのだ。嘘も真実も必要とされず排除されて、残されるのはこの一筋の心と罪悪感だけだ。
    ひとつだけ彼へと踏み出した。
    「DJ、顔上げて」
    緩く首を振って拒否をされた。
    「ゴメンネ」
    どうしてこの男といる時、時折利益も何もかもかなぐり捨てて自分のことを知って欲しくて、下手くそな言葉を吐いてしまうのだろう。人との距離の測り方は秀でている自信があったのに。他の誰にもこんな不格好な真似はできない。陰湿で、閉塞的な、自己保身。
    「大丈夫だヨ」
    何がとは言葉にできない無責任さを自覚したまま、暗い髪に指を絡ませる。こうしてすぐ傍にいるのにこれ以上距離を縮めるのも怖くて、そこから先には踏み出せない。けれども、これが正しいことなのだと疑いは無い。臆病さを笑ったはずが、いつの間にか同じかそれ以上のものに囚われていた。
    大丈夫、明日には気だるげにこの声に耳を傾けてくれるのを知っている。飲み込んで消化しきれなくても、自分たちの間に出来上がったこの『ベスティ』という関係は、過ちを繰り返して歪で不可思議なバランスを持って既に形成されてしまった。商品未満のこれは人には見せられる物ではなく、乱雑に廃棄所に送られるべきなのに、お互い大事に大事に今も隠し持ち続けている。
    ぱらぱらと指の間を零れ落ちるのだけをずっと見ていた。



    遠くから聞こえる裂けるような雷鳴が苦しかった。もし自分の葬儀が行われるなら、呆れる程の快晴の中がいい。エンバーマーの手でとびきりの顔を作られて迎えるべきだ。
    鮮やかな花々の中で、暗い色合いの服に身を包んだ彼の表情は分からない。一人ひとり立ち去っていき、やっと順番が来て顔を覗き込む彼に、死んでしまった自分は勢いよく起き上がって言うのだ。
    「悲しいことは全部オイラがやっつけてあげるヨ」
    いつものように得意のマジックで魔法のように消してしまいたい。だけど、実際は指ひとつ動かせず言葉も伝えられなかった。最後に慰めるように抱き締めたかったけど、この体は清潔に笑う死体のままだった。


    夢から覚めて、残滓を何度も口の中でよく味わい、それからまた幾度となく葬っても行く宛てない心を棺の中に返していく。さようなら、良い夢を。そう願いながら、ゆっくりと蓋を閉じた。
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    いとう

    DONEフェイビリ
    まぶたの隙間 橙色にきらめく髪が視界に入ると、ひっそりとゆっくりとひとつ瞬きをすることにしている。
    そうしている間に九割以上向こうから「ベスティ~!」と高らかに響く声が聞こえるので、安心してひとつ息を吐き出して、そこでようやっと穏やかな呼吸を始められるのだ。
    それはずっと前から、新しくなった床のビニル独特の匂いを嗅いだり、体育館のメープルで出来た床に敷き詰められた熱情の足跡に自分の足を重ねてみたり、夕暮れ過ぎに街頭の下で戯れる虫を一瞥したり、目の前で行われる細やかな指先から紡がれる物語を読んだり、どんな時でもやってきた。
    それまでの踏みしめる音が音程を変えて高く鋭く届いてくるのは心地よかった。
    一見気性の合わなさそうな俺たちを見て 、どうして一緒にいるの?と何度か女の子に聞かれたことがある。そういう時は「あいつは面白い奴だよ」と口にして正しく口角を上げれば簡単に納得してくれた。笑みの形を忘れないようにしながら、濁った感情で抱いた泡が弾けないようにと願い、ゴーグルの下の透明感を持ったコバルトブルーを思い出しては恨むのだ。俺の内心なんていつもビリーは構わず、テンプレートで構成された寸分違わぬ笑みを浮かべて大袈裟に両手を広げながら、その後に何の迷いもなく言葉を吐く。
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    それまでの踏みしめる音が音程を変えて高く鋭く届いてくるのは心地よかった。
    一見気性の合わなさそうな俺たちを見て 、どうして一緒にいるの?と何度か女の子に聞かれたことがある。そういう時は「あいつは面白い奴だよ」と口にして正しく口角を上げれば簡単に納得してくれた。笑みの形を忘れないようにしながら、濁った感情で抱いた泡が弾けないようにと願い、ゴーグルの下の透明感を持ったコバルトブルーを思い出しては恨むのだ。俺の内心なんていつもビリーは構わず、テンプレートで構成された寸分違わぬ笑みを浮かべて大袈裟に両手を広げながら、その後に何の迷いもなく言葉を吐く。
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