『雨音、rainbow』「車で来るべきでしたね」
駅を出ようとした途端、唐突に降り始めた雨は、容赦なく地面を叩きつけて、アスファルトを黒く染めていく。雨音は強さを増す一方で、思わず溜め息が零れた。
念のためと傘を持ち歩いていて良かった。医者が雨に打たれて風邪など引いたら洒落にならない。傘を広げて、すっかり本降りになった雨の中、ゆっくりと歩きだした。……あぁ、やはり。どうにも雨は気が重い。そう思うようになったのはいつからだったろうか。いや、本当は覚えている。知らないふりをしていたいだけだ。けれど、どうしたって雨の日は脳裏にちらつく影がある。そして、その影が浮かぶ時は大抵良くないことが起きる前兆なのだ。
あぁ、ほら。視界の端に捉えた色に私は思わず歩みを止めた。分かっている。このまま何も見なかったことにすればいいだけだ。ちゃんと分かっている。それなのに、どうしたって私の足はその小さな背を追いかけてしまうのだ。
1960