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    straight1011

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    straight1011

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    こういう流の夢を書こうとしてる
    記憶喪失

    タイトル未定 自分より背の低い男の子が、こちらを見ている。じっと、まるで何かを訴えるように。その子の手には、少し汚れたバスケットボールがあった。
     長い睫と丸い瞳は一見女の子のようだったが、何故か男の子だと確信できた。いや、見た目で判断したわけではなく、ずっと前からその子のことを知っていたのだろう。

    「もっかい」

     彼は少し悔しそうに顔をしかめさせ、そう言った。

    「でももうかえらないと」

     そう言って彼に背を向け、一歩踏み出した、瞬間けたたましいクラクション。スローモーションで迫る車。
     視界は暗転した。



    「……」
    「ちょっと、遅刻するわよー」

     母の声に反応して目を開けると、朝日が嫌がらせのように顔に降り注いでいる。それに顔をしかめながら身体を起こし、時計を見た。

    「……やっば、遅刻しそう……」

     冷静にそう呟き、また布団に寝転がる。天井を眺めること、数秒。

    「……やばいやばいこんなことしてる場合じゃない」

     飛び起きて寝巻きを雑に脱ぎ、寝巻きごと布団を畳んだ。下着姿でクローゼットを開け、新品の制服を取り出す。
     着慣れない制服を無理やり着て、鞄を持って部屋を飛び出す。階段を下りると、母が笑いながらこちらを見ていた。

    「ご飯食べなさいよ」

     椅子に座って、いただきますを早口で言ってから味噌汁を飲む。とっくに冷めていたそれを全て飲んでから、目玉焼きをご飯の上に乗せてかきこむ。醤油もソースも、かける余裕がなかった。

     ものの5分でご飯を食べ終えると、茶碗を流しに置いて洗面所に向かう。顔を洗って、髪を櫛でとげば、もう学校に行ける。

    「行ってきまーっ」
    「気をつけていってらっしゃいね」

     母が玄関まで見送るので、振り返って手を振り、それから走り出す彼女は……遠山桜子は今日から高校生になる。彼女の走る道は、青空の下、朝日に照らされ輝いていた。



     高校生といえば青春である。遠山は昇降口にいる部活勧誘をしている先輩達の声に聞き耳をたてながら、校舎に入っていく。
     中学では合唱部だった遠山だが、高校では別の部活にしようと思っていた。遠山は器用だが、いかんせん飽きっぽく、極めるより新しいことをどんどんやりたい質だった。

     さて何をやろうかと考えながら歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかる。よろけながら咄嗟にすみませんと謝ると、返ってきた返事は女子のものだった。

    「大丈夫? 怪我してない?」
    「はい……」

     くるくるとパーマのかかった髪の毛、長い睫にぱっちりした瞳、唇はほんのり色づいた美人がそこにいた。
     こりゃ先輩だな、一年生のいも臭さがない、垢抜けてるし、なんて根拠も何もない決めつけをして、遠山は愛想笑いをした。

    「すみません、気を付けます」
    「いいのよ、お互い様。あら、もしかして新入生?」
    「はい」
    「なら、これあげるわ」

     そう言って美人な先輩は一枚の紙を渡してきた。男子バスケ部、部員募集、そう書かれている。

    「……」
    「マネージャーも募集中よ」
    「あ、そうなんですね」
    「どう?」
    「……あー……いやぁ……」

     バスケなんて体育でしかやったことないしな、そう思って微妙な反応をすると、その美人はにっこり笑ってこう言った。

    「今年はかっこいい男子、入る予定よ」
    「……かっこいい……」
    「そう、しかもバスケがすごい上手いの。入っておいて損はないわよ」

     かっこいい……イケメン……
     ちょっと揺らぎ始めた遠山にその美人は元気に笑って、待ってるわよー! なんて言いながらどこかへ行く。残された遠山はじっと紙を眺め、それから四つ折りにしてポケットに突っ込んだ。


     クラスでの自己紹介を終え、いい感じにつるめそうな女子と話していると、何の部活に入るかという話になった。その女子と同じ部活に入るか、運動部でなければ、そう思っていたのだが、残念ながら彼女は運動部だった。

    「あたしは柔道いくんだけどさ」
    「柔道? すごいねー」
    「遠山は?」
    「私は……」 
     
     ポケットに入れた紙に視線をやり、どうしようかと一瞬悩みながら唸った。

    「ば……すけ? 勧誘されたんだよ、美人な人に」
    「へぇ、ここ強いの?」
    「あっ、マネだよ、選手じゃなくて」
     
     と話していると、ゆらり、遠山に影が落ちる。背後に気配を感じて振り返ると、2mくらいあるんじゃないかという、赤髪の男が鬼のような形相でこちらを見下ろしていた。

    「バスケだと……?」
    「……?」
    「あ、危ない!」

     誰か、違う男子の声がしたと同時に赤髪の男の頭突きが振ってくる。遠山は反射的に身体をひねり、椅子から落ちる形でそれを避けた。
     どん、と尻餅をついた遠山は、唖然として男を見上げた。赤髪、背の高い男、自己紹介の時、やけに機嫌の悪かった男、名前に親近感を抱いた男。

    「花道よせ!! 女子だぞ!!」

     小柄なリーゼントの男が慌てて止めにやってくる。遠山はひりひり痛むお尻を擦りながら立ち上がり、困惑しながらその男……桜木花道を見た。

    「どしたの急に……」
    「……はっ、す、スミマセン……」

     桜木は我に返ったようで、申し訳なさそうな顔をする。遠山は特に怒るわけでもなく、手についたごみをパンパンと払い落とし、桜木を見上げた。

    「背、たかっ」
    「むっ?」
    「髪、あかっ」
    「ぬっ?」

     単純な感想を呟く遠山に、今度は桜木の方が困惑した。しかし遠山は気にした様子もなく、再び席に着く。出来たばかりの友人が苦笑しながらこちらを見ていた。

    「あんたすごっ。めっちゃ反射神経よかったよ」
    「そりゃ頭カチ割られるとこだったからね」
    「受け身も完璧だったし……柔道やらない? センスあるよ」
    「あー……」

     遠山は困ったように肩を竦める。ほんの僅かに、悔しそうに顔をしかめたのに友人は気がつかない。

    「遠慮しとくよ」
    「……そう?」

     遠山は自然な仕草で自分の右肩を擦った。もう痛みはないはずの右肩が、少しだけピリついた気がした。


    「あら、いらっしゃい!」

     結局遠山は、バスケ部の見学にやって来た。バスケ部のビラしかもらっていなかったから。それにマネージャーくらいなら出来るだろうと、そんな甘い考えで遠山は足を運んだ。

     出迎えてくれたのはあの美人。遠山はほっとしながら彼女の傍に行く。

    「あの……見学に来たんですけど」
    「アンタマネージャー志望だと一番乗りよ。さ、いらっしゃい」

     美人の名前は彩子というらしい。彩子に連れられ、遠山はちんまりしながら中に入る。おそらく上級生であろう男子部員の視線を感じながら、彩子に隠れるように着いていった。

    「バスケの経験は?」
    「あっ……んと……体育でやったくらいで……ルールはわかります!」
    「ルールがわかるなら大丈夫よ。部員は今いるのにプラス1人、2年が加わるわ。あとは新入生に期待ってとこね」

     そう説明され、遠山はふむふむと頷く。部員数はそれほど多くない。部の雰囲気は全員真剣で、特に険悪そうな様子はない。悪くはないんじゃないか、新入生次第では、そんなことを思った。

    「ちなみに、新入生はあそこにいるわ」

     彩子につられるように視線を動かせば、一年生らしき、初々しい男子……いや見覚えがある頭が真っ赤な男もいたが、まあそんな感じのが並んでいた。
     1人、桜木と同じくらいの身長の黒髪の男子がいた。華がある顔立ちをしていたので、ああもしかして彩子さんが言ってたのはこいつかな、とアタリをつける。すると、その男子と目があった。

    「……」

     その男子は遠山をじっと見て、何かひっかかるような仕草をする。遠山はてっきり見ているのがバレて嫌がられたのかと思い、咄嗟に目をそらした。

    「……彩子さん、あの」
    「ん?」
    「マネージャーって、どんなことするんですか?」

     そう聞くと、彩子はぱっと顔を明るくさせた。

    「やる気あるわね」
    「……あっ、はは……」
    「大歓迎よ」

     バンバンと思ったより強い力で背中を叩かれ、うえっとなりながら遠山は笑った。



    「おい」

     平和に部活見学を終え、さてマネージャーも悪くないなと思っていた時、後ろから強く肩を掴まれた。遠山はボディタッチというものが好きではなかったので、ぞわっと鳥肌をたてながら、苛立ちも交えて振り向く。
     そこにいたのは先ほど目があった男子……確か名前は流川だ。一体何の用だろうと、掴まれた肩をさりげなく振りほどき、距離を取りながら尋ねた。

    「……お前」
    「ん?」
    「……何で黙っていなくなった」

     まるで遊んでいる最中に黙って帰ってしまったみたいな、そんな感じの責める声だった。あんまり深刻そうな感じではない。
     はて何のことかと遠山は考えた。もしこんな容姿の整った男子がいたならば忘れるわけない。それなのに彼はまるで知り合いのように話しかけてくる。

    「……えっと……どこかで会ったっけ?」

     困ったようにそう聞くと、流川はますます機嫌を悪くしたように、眉間にシワを寄せた。遠山は内心怖がりながらも、本当に覚えがないので焦り始めた。

    「ごめん、私人の顔とか、覚えるの苦手でさ……あれ……る、かわ君だよね?」
    「……」
    「ねぇ、本当に覚えてな……」
    「1on1」
    「はい?」
    「てめえの勝ち逃げで終わってた」

     はぁ、と適当な返事をした遠山に、流川はさらに詰め寄った。うわ、と若干引き、遠山は助けを求めるように周囲を見渡す。

    「あのー……いや、本当に……」
    「すっとぼけてねぇで説明しろ」
    「だから、覚えてないの」
    「んなわけねぇだろ」

     




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