途中の話 県予選が始まった。湘北高校女子バスケ部はシードに位置している。Ⅾグループのトーナメントを抜ければ決勝リーグ、うちインターハイの出場枠は二つしかない。葵は一年と二年、連続でインターハイに出場しているが、県優勝はまだ果たしたことがなかった。というのも、ライバル校がインターハイでもベスト4に残る強豪校なのだ。
今頃、赤木達は一回戦をやっているのだろうなと、授業中に葵は考えた。板書を必要最低限の部分だけ書き写しながら、葵はペンを回した。
葵と赤木剛憲の出会いは、入学式でだった。体育館を目指して歩いていた葵だったが、中々見つからずに声をかけたのが赤木だった。
「ちょっと」
「なんだ?」
「体育館、どこ」
赤木は不愛想な葵に戸惑いつつも体育館まで案内してくれた。その中で色々と話している内にお互いバスケ部だと知ることができた。
「全国制覇……」
「やるからには、目指すのが当然だ」
そう言った赤木に、葵は無関心とも思われる薄い反応をした。赤木はまあそんなものだろうと気にも留めなかったが、ふと葵の顔を見れば彼女はわずかに口角を上げていた。
「熱いやつ」
「……あ?」
「けっこー好き」
ぱっと葵が顔を上げて、赤木と目が合う。そこで赤木は葵が小綺麗な顔をしているのに気が付いた。無言の見つめ合う空気に耐え切れず、赤木の頬に朱が差し込んできたとき、タイミングよく木暮がやって来た。
「赤木、ここにいたのか。あれ、女子……?」
赤木は咳ばらいをひとつし、木暮に葵のことを紹介した。よろしくなと穏やかに挨拶をする木暮に、葵はにこりともせずに頷く。さっきは笑ってたのにな、と赤木が思っていると、葵は赤木と木暮を見比べてから納得したようにおお……と呟いた。
「ごりらと飼育員」
「なんだと!?」
ゴンっと、思わず拳骨を落とした赤木と、ちょっと痛かったのか顔をしかめて頭を擦る葵。おいおい赤木、女子だぞとなだめる木暮に、赤木も申し訳ないと思い始めたとき、葵は小さく息を吐いた。
「いてーなどあほう」
「……すまん、つい」
「そんなんだからごりらなんだ」
ぴきっとする赤木に苦笑する木暮。葵は二発目が来ることを予期してさっと逃げ出した。そんな出会いを経て、今のような仲になった。