BEST FRIENDS!!【マホロア】
「……ア。」
買い出しの帰りに、友人と楽しそうに喋るカービ
ィを発見する。談笑する姿は、ボクには、どこか別の世界のもののように見えた。
もしも、ボクが、普通のトモダチだったらあの中にいられたのだろうか。あの時マスタークラウンではなく、カービィを、選んでいれば、今頃。
「ヘイヘーイ、何ボサっとしてんのサ!」
「ウワ!?ビッッ…クリしたァ……。」
突然背後から声をかけられる。現れた旧友…マルクに思いきり蹴られた後頭部をさすりながら振り向いた。
「油断してんのが悪いのサ。で、どうした?」
「マルクには関係ないデショ。」
「まぁなー。からかいたいだけだし。」
ホントコイツ性格悪い……。
「マホロアとマルクって友だちなんだね!」
「ワァ!?カービィ!?」
これまた突然声をかけられる。友人と話し終えたのかこっちに来ていたカービィが、ニコニコと笑みを浮かべてきた。
「おっ、丁度良かった。オイピンク玉。コイツがお前のことで悩んでるみたいなのサ。」
……ハ!?
「僕のこと?マホロア、どうしたの?大丈夫?」
「ダイジョーブダヨ!実は、カービィに今度どんなお菓子を作ろうかって悩んでたんダ!」
「えぇっ、僕にお菓子作ってくれるの!?」
「ウン、カービィは何がイイ?」
「えっと、えっとね!ケーキでしょ、クッキーでしょ、それとね…」
「そんなに作れないヨ!?」
「マホロアならできるよ!」
「無茶ダヨォ……。」
口からペラペラと出てくるのは全部、咄嗟に考えたウソ。いつもの大袈裟なボディランゲージを使いながら、カービィと話す。
「楽しみだな〜!ねぇねぇっ、いつ!?いつお菓子作るの!?」
「今度招待状を出すヨォ、待っててネ!」
「わーい!…あれ、マホロア、その袋は何?」
「さっき買った、ローアのメンテナンス用のパーツだヨ。いくつか部品がダメになっちゃってたから、変えなくちゃいけないんダ。」
これは本当。これから、帰ってローアの調整をするところだったのだ。
「へぇ〜、やっぱりマホロアってすごいね!僕にはさっぱりわかんないや。」
「ローアは特別な船だしネェ。カービィは、これから何をするんダイ?」
「あ!そうだった!あのね、メタナイトがお茶会を開くんだよ!マホロアも…ってそっか、ローアのメンテナンスだっけ。」
「ウン、お誘いはウレシイけど、ゴメンネ。また今度、お邪魔させてヨ!」
「うん、じゃあメタナイトにもそう伝えとくね! それじゃあ、またね!」
「またネ!カービィ!」
「マルクもまたねー!」
「おう、じゃあなー。」
カービィの姿が見えなくなるまで手を振る。
「……お前、なんつーか、マジで外ヅラだけはいいよな。外ヅラだけは。」
「ウルサイ。」
「あと、折角チャンス作ってやったのにサ。このビビリ。ヘタレ。イカサマタマゴ。」
「最後関係ないシ、ビビリじゃないシ、ヘタレじゃないシ。ボク帰るカラ。」
「じゃ、ついてくからお茶出してくれ。」
「そこの川の水でも飲んでればいいヨォ。」
「お前態度違いすぎだろ」
帰路につけば、マルクは勝手についてくる。コイツは何言っても好き勝手するから、諦めて放っておこう…。
帰ったらローアのメンテナンスをして、それからミニゲームの整備して、溜まってる魔導書読んで、それから……。
「……。」
……モヤモヤ、消えないナァ。
「アイツは本気でお前のこと友達だと思ってるって、わかってるだろ?」
「……ワカッテル、ケド。」
カービィのベストフレンズを散々自称してきたけれど、本当は、そんなこと、思ってない。そうなりたいとは思ってても、そうなれてるとは思ってない。
だって、ボクは、カービィたちをうらぎった。そんなやつが、カービィのトモダチだなんて、認められない。ボクは、カービィのトモダチには、なれないんだ。
「……ほんと、面倒なヤツなのサ。」
・・・
【カービィ】
「…でね、マホロアが、僕にお菓子作ってくれるんだって!楽しみだな〜!」
マホロアの手作りのお菓子、楽しみだなぁ。
メタナイトは、仮面で表情は見えないけど…真剣な声色で、言う。
「『マホロアがカービィの事で悩んでいる』と、マルクは言ったんだな?」
「え?うん、そうだよ。」
「……彼奴の嘘吐きは治らないな。」
「えっ?どういうこと?」
うそつき?たしかに昔、マホロアはうそをついてたし、僕たちのことを騙したけど……。
「作るお菓子で悩んでいる、なんてものは嘘だろう。推測ではあるが、本当は別の事で悩んでいる筈だ。」
「えっ!?……それなら、聞かないと!」
慌てて、走り出す。目的地は、マホロアがいる、ローアだ。
マホロアが、僕のことで悩んでる?それって、どうして?何で悩んでるの?どうして、話してくれないの?
悩んでるなら話してよ。友だちなんだから。
きっと、一緒なら、なんとかなるから。
「マホロア!!」
「!?…カー、ビィ?」
「噂をすれば。マホロア、紅茶ごちそーさん。」
「ア、ウン……。」
マルクが、僕の横を通って外に出ていく。
…噂をすれば?
いや、それより!
「マホロア、悩んでるなら言って!」
「エ?だから、作るお菓子悩んでて…」
「それ、うそでしょ!」
「……カービィ、ボクが昔ウソついたから疑われるのは仕方ないけど、信じて欲しいナァ。ホントにそれだけダカラ。」
「でも、メタナイトが言ってたもん!マホロアはうそついてるって。」
「メタナイトの言うことは信じるのに、ボクの言うことは信じてくれないノ?ボク、悲しいヨォ…。」
……言われてみれば。
「…あれ?たしかに…。ご、ごめんねマホロア、そんなつもりはなくて…!ただ、マホロアが悩んでるのなら力になりたいって思っただけなんだ。ほんとにごめんね…!」
「ウゥ…わかってくれタ?」
「うん!もう疑わないよ!でも、悩んでることがあるなら言ってよね!僕たち、友だちなんだからさ!」
「……ウン、アリガトウ!折角だから、ジュースでも飲んでいくカイ?」
「わぁ、いいの?」
「モチロン!」
「やったぁ!ありがとう!」
……うーん、メタナイトの勘違いだったのかな。マホロア、うそ、ついてないみたい。
「心配して着いてきてみれば、見事に騙されているな。カービィ。」
「あれ、メタナイト?」
…騙されてる?
「カービィ、ここは任せてくれないか。」
「え?う、うん。」
ジュースを持って戻ってきたマホロアに、メタナイトが声をかける。
「邪魔しているぞ、マホロア。」
「アレ、騎士サマ。来てたんだネ。それなら、ジュースはあと一杯必要カナ?それとも、紅茶の方が…」
「マホロア、先程の会話を聞いていたのだが、カービィが私を信じるのは、当然の事だ。」
「き、聞いてたノ?それに、当然っテ?」
メタナイトは、剣を抜き、マホロアに突きつける。「ワァ!?」と驚いたマホロア。
「お前は一度、我々を騙して利用し、裏切った。それだけでも理由としては充分だ。」
「そ、それは…でも、もう改心したんダヨォ!」
「更に言うなら、カービィとの付き合いが長いのは私だ。長年積み上げてきた信頼もある。マホロアを信じられず、私を信じるのは、当然の事だろう。」
「ひ…酷いヨォ!カービィ、ボク、もうウソなんてついてないんだヨ、信じてヨォ!」
……マホロア……。
「…メタナイト、もういいから、」
「カービィの優しさをまた『利用』するのか。」
「ッ…そ、んなコト、」
「しているだろう。素直で、優しい、カービィを利用して、嘘をついているだろう。」
「……ッチガ、ウ…」
「カービィの真っ直ぐな気持ちを、『裏切る』つもりか?『利用』して、『裏切る』なんて、昔から何一つ変わっていないじゃないか。カービィのベストフレンズ…だったか。貴様には無理だ。普通の友達すらな。」
「…ッそんなの、ボクが一番わかっテル!!!」
マホロアは、泣いていた。
見たことない顔。聞いたことない声。
……ああ、僕は……友だちなのに、マホロアのこと、なんにも知らないんだ。
「分かってる?どういう事だ。」
「利用したくせに、裏切ったくせに、トモダチなんて無理だってことくらい、わかってるヨ!ベストフレンズだなんて、思えたことナイ!」
「ほう?それなら何故、ずっとカービィのベストフレンズを自称した?」
「そうなりたかったカラ…!ウソでもいいから、そうなりたくて…なり、たくてェ…ッ……!」
「…だそうだ、カービィ。」
「……エ?」
メタナイトが、剣を下ろし、しまう。代わりにハンカチを取り出して、マホロアの、止まらない涙を拭った。
「こんなやり方になって悪かったな。」
「…どういう、コト…?」
「目には目を、嘘には嘘を。全部演技だ、マホロア。安心してくれ。」
「…ハ…!?」
事情を説明すると…マホロアは、顔を赤くし、声を荒げた。
「な、…ッ、なんだヨそれェ!?じゃ、じゃあボク、……〜〜〜ッ…ホンキで逆ギレして号泣して、ずっと隠してきた気持ち晒して、バカみたいじゃんかヨォ…!」
「ハァ〜〜〜〜ッ……!」と大きくため息をついて、顔を手で覆う。いつもニコニコしてるマホロアがこんなにも感情をあらわにしているのが、おかしくて。
「……っあはははは!」
「ナニ笑ってるノ!?コッチはホントに恥ずかしいんだケド!?」
「ごめんごめん。でもさ、マホロアの気持ちが聞けてよかったよ。」
「何もよくないヨォ!!」
「ううん、本当に、よかったよ。」
マホロアの手を、ぎゅっと握る。
「マホロア、僕、マホロアのこと、大好き!
……マホロアは?僕のこと、好き?」
「な、ッ……ア……ゥ………」
マホロアは、僕の手を振り払う。そして、フードを握り、深くかぶった。
「ス……スキ……………」
すごく小さな、少しかすれた声で、呟く。
「ワッ、ア……!」
「僕もマホロアのこと大好き〜!!」
「さ、さっき聞いたっテバ!!」
マホロアに抱きついて、頬を擦り寄せる。マホロアの肌は熱くなっていて、マホロアは恥ずかしがり屋さんなんだなぁって、マホロアのことがまたひとつわかって、嬉しかった。
「マホロア、これで安心したか?カービィは、例えマホロアに裏切った過去があっても、そして、今のマホロアの本当の気持ちを聞いても、マホロアの事が大好きだそうだ。」
「うん、そうだよ!」
「も、モウいいカラ……!」
……でも、そっか。マホロアも安心できたなら。
「これで僕たち、友だち……ううん。
──最高の、ベストフレンズだよ!」
「…ウン、ソウダネ…」
マホロアは、にっこり笑う。
「ボク達、最ッ高の、ベストフレンズダヨォ!」
・・・
【マホロア】
「……で、無事ベストフレンズになった訳だ。」
マルクは、砂糖たっぷりの紅茶を飲みながらニヤニヤと、作業しているボクを見た。
「マ、ボク達はずっと前からベストフレンズだけどネ!でも、前よりずっと仲良くなったのは事実カナァ。今ではモウ、相性バッチリ?最高で最強のトモダチってカンジ?」
「ずっと不安だったくせに、調子いいヤツ…。
このクッキーも、アイツに渡すのか?」
「それは試作品。カービィにおいしいクッキーを渡すために、レシピを見るだけじゃなくて色々試行錯誤したんダヨォ。」
「はいはい。」
適当に聞き流しているようだけれど、なんだか、マルクは穏やかな雰囲気をまとっているように見える。
「……マルクも、アリガトネ。」
「今度イタズラに付き合ってちょーよ。」
タタタと、走る足音が聞こえる。
「マホロア〜!!」
カービィだ。
「イラッシャイ、カービィ!」
ボクは、大好きなベストフレンズの来訪に、思いっきりの笑顔で対応する。
そこに、ウソは、ひとつもない。