みそぎ☆quiet followPROGRESS進捗です花はきびょうのやつ ラ監花吐き監督生と被害者Rくん「私は花は好きだけど嫌い」彼女は苦虫を噛み潰したような、なんとも難しい顔をしているのを遠くで見たことがある。それはオレにとって、にわかに信じがたいことだった。彼女が花を吐いた。そう、花を吐いたのである。読んで字の如くそのまま、色鮮やかな花たちを地面に向かって吐いて、うずくまっている。オレは呆然として、ただ突っ立って見ていた。昼休みも終わりかけの午後、必修の授業があるのに呑気に惰眠を貪り、単位を落としかねない我が寮長、レオナさんを植物園まで探しにきた。いつもいるような場所を見渡してみるが、そこには優雅に眠るライオンの姿はどこにも見えない。「あの人どこいったんだよ…」一人ごちてため息をついた。ふと、人の気配を感じた。植物園に立ち寄る人自体は少なくないが、この時間にくる人などそうそういない。ちょっとした興味心を持って、気配のする方へ歩いていく。植物園はいつ来ても植物で生い茂っていて自然そのものだ、すこしだけ故郷を思い出す。だからだろう、レオナさんがここに昼寝しに来るのも、それがあるのではないかと思う。そんなことを考えながら静かに進んでいけば、そこには数メートル先で一人でうずくまっている人影が見えた。監督生だ。少し様子がおかしく、体調でも悪いのかと声をかけようとした矢先、今にも吐きそうなうめき声をあげ、吐いた。彼女の口からこぼれ落ちたのは汚物とかそういう類のものではなかった。赤、黄色、青、白、様々な彩り豊かな花だ。まだ整わない息で彼女は「会いたい、帰りたい」とポツリ、かすれた声でいう。その表情はとても苦しそうでいて何かに抵抗しているようにも見えた。木々や花々がすくすくと生茂るこの植物園。そこで苦しそうに花を吐くという異様な光景が目に焼き付いて離れない。このツイステッドワンダーランドという世界は、魔法やら魔物なりが存在し摩訶不思議なことがよく起こるものだが、花を吐く人間など見たことも聞いたこともない。呪いか何かの類か、あまりのことに思考が追いつかない。そうやって、きっと数秒にも満たない時間、思考をしていると彼女はこちらに気づいたようで、ハッと息を飲む音がする。目を大きく開いて明らかに動揺していますと言った顔。「ラギー……先輩……。」「どうも監督生くん。ソレ、どういうことか説明してもらえます?」そうしてオレは彼女の吐いた花を指差して言った。____彼女はどうやら元の世界に好きな人がいるらしい。散らした花を片付ける様をよそに、近くに座ってオレは話を聞くことにした。「……先輩は知ってますか?花吐き病って病気」ぽつりと声を監督生が放つ。「ハナハキ病?」「花を吐く病気ですよ、そのまま。正式名称は嘔吐中枢なんちゃら疾患。」正式名はどうやらうろ覚えのようだ。どちらにせよ、オレの知らない病名に変わりはない。「へー、聞いたことないッスね。」「ですよね」彼女にとってオレの答えは、どうやらわかりきった回答のようだった。「元の世界では流行病で、日々ニュースやら何やらで大体この話がよくあがってたのに、こっちの世界に来てからは誰もそんな話しないし、予想通りというか」「ふーん、なるほどね」そう言って、彼女の手からこぼれ落ちた花を拾おうとしたら彼女は焦ったような顔をしてとめる。「触っちゃダメ、ゲロ花に触ったら先輩も感染しちゃうから」「さ、触るだけでもダメなんスか」必死の剣幕にたじろいだ。「そうです、感染経路は花吐き病の人が吐いた花、ゲロ花だけですから」ふと、その話を聞いてオレが思い出したのは彼女が以前落とした花弁を拾ったことだった。あの日はずいぶん大事そうに頬を紅潮させ色鮮やかな花を抱えて小走りに廊下をかけていたのを覚えている。だから、なんだか捨てたらもったいない気がして、落ちた花弁を拾って本に挟み込んだことがある。「……それって花びらだけでも感染したりするんスか?」「多分」「……怖い病気ッスね」うわ、多分罹患した気がする。もし監督生くんが持っていた花がゲロ花とかいうヤツなら。だらだらと内心冷や汗を出して、背筋から熱が消えていく感じがした。「でもいうほど怖い病気でもないですよ、片思いを拗らせさえしなければ」「は?」「この病気は片思いの人にだけ発症する病なんです。」だからそこまで心配いりませんよとあっさりと言いのけた。「随分とファンタジーなことで」顔を引きつらせながらオレは言った。なんだその作り物めいた病は。「それをこの世界の人が言います?」彼女の顔をのぞけば、拍子抜けしたような顔をして面白そうにクスクス笑う。「この世界なんか魔法もあれば魔物もなんでもござれじゃないですか」「アンタからしたらそうでしょうけど、流石にこの世界には片思いで花を吐く病気なんて無いんで」「まあそれはそうでしょうけど。片思いをこじらせると花を吐くだけ、両思いになれば白銀の百合を吐いて完治するって話ですよ」「それ本当にちゃんとした病気なんスか…?」いよいよ現実みがなくなってきた。真実の愛のキスだとかそんな魔法を解く方法であったけれど、それは御伽噺の世界みたいな物だろう。「事実は小説よりも奇なり。先輩も見たでしょ」「そうッスけど……」納得せざるをえない。オレがそう言った後少しの間、沈黙する。思い出したように彼女は言った。「あ、先輩って火属性の魔法使えますよね?」「一応、使えますけど…」「このは花燃やしてもらえないですか?」「え、燃やすの?」「はい、もといた世界ではすぐ焼却しなきゃいけないので」「…監督生くんはオレにタダ働きさせるつもり?」「…ドーナツ1個とかでいいですか」「5つ」「多すぎません!?」「じゃあ3つ」「うーん…その程度なら…」「監督生くんは値切りが下手ッスね」「そりゃしたことないし…じゃあこれからたまに頼むので2つにまけてもらえません?」「まあそれなら…、値切り初心者のために大目にみてやりましょ」「やった〜!」そう言ってオレはマジカルペンを構えて火属性の魔法を花以外に燃え移らない程度に調整して放った。たちまち火は花に燃え移りパチパチと音を立てながら緩やかに燃えていく。監督生が燃やすとか言い出す前に少し気になっていたことがあった。「…ねえ、さっきの話に戻りますけど監督生くんは好きな人がいて片思いを拗らせてるってことでいいんスか」「はい。元の世界にいるんですけどね」少し照れ臭そうにはにかんで視線をそらしていう。少しずつ花は灰になっていく。彼女が吐いた後の言葉が理解できた。「なるほどね、帰れないから思いも拗らせちまったと」「…まあ、そんなところですね。お恥ずかしい限りで」その割には随分と歯切れの悪い返答だなと思った。ただ別段気にするほどではないだろう。3日、寮で過ごしたとはいえ、監督生くんとは大して接点があるわけじゃない。ただの知人でしかないから得にならない話なんて聞きたくもないが、この話は彼女の“とっておき“だ。知ってしまったこれをどうするか。「で、ラギー先輩は何をお望みでしょーか?」「監督生くんから聞いてくるとは思ってなかったッス」「だって先輩、『ただより高いものはない』ってよくいうでしょ?」確かに監督生くんにはよく言っていたような気もする。悪巧みをしていたのに出鼻を挫かれてしまった。「この話は誰にも聞かれたくないんでしょ」ニヤニヤして彼女の顔を覗く。意趣返しみたいなもんだ。ウッと痛いところを突かれて渋面しちゃって。図星ですって言っているようなもんだ。「……お、お手柔らかに〜」「そうだなぁ〜全校生徒にでも言いまわってもいいかなと思ったんスけど、監督生くんがどうしてもっていうなら秘密にしてあげます」「そんなこと周りに言ったら私の居場所なくなるってわかって言ってますよね?」彼女は先輩の鬼畜!と毒づいた。それがオレは面白くてさらにニヤニヤした嫌な笑みを浮かべてやる。そりゃそうだ、異世界からきた魔法も使えない女のNRC生ってだけで、すでに周りから逸しているのに今度は花を吐くし、ましてやこちらにも感染するなんて聞いたらどう反応するかなんてわかりきっている。「鬼畜なんて先輩にそんな口きいていいんスか〜?」言っちゃおうかなァなんて白々しくいえば監督生くんはあわあわと慌て出す。「さ、さすがらギー先輩!今日も素敵です。ずる賢いその態度、自分の得になるように立ち回る卑怯そのものみたいなところ尊敬してます!」アンタそれ褒めてないでしょ。「まあいいッスよ、面白いもん見れたんで。黙ってる代わりに、オレの手伝いを無償でやってもらうんで。オレの手が回らないときとか」「要するに?」「パシリのパシリッスね」そろそろ授業が始まりそうになって解散しようと植物園の出入り口にいる。先輩、と彼女は聞いてきた。どこか不安そうな面持ちをしている。「先輩は好きな人いますか?」きっと万が一触った時のリスクでも考えているんだろう。「いないッス」だけど心配は無用だ。オレは愛とか恋とかよくわからないし。そう言って監督生とは植物園を出た後、別れた。本日のサバナクロー寮もカラッとした雲一つない晴天だ。監督生くんをパシリとしてサバナクロー寮の大掃除によびだした。彼女の秘密を知ってから、ひと月が経とうとしていた。あれからというもの、彼女をパシリのパシリとしてそれはそれはこき使ったしこれからも使おうとしている。オレは言っては何だが多忙なこともあり、手が回らない箇所も出てくるので、寮長であるレオナさんの部屋の掃除を彼女に頼むことにした。相変わらずレオナさんの部屋はものが散乱していてひどい有様だ。「おい草食動物、なんでお前がここにいる」「掃除しに来たんですよ」「そうじゃねえ、なんでそんなパシリみてえなことしてんだって聞いてんだよ」訝しげな顔をして彼女に言った。なんか企んでるんじゃねえのかといったような顔だ。「……脅されてるんですよ」監督生は若干不貞腐れたような、虫の居所が悪そうな顔してレオナさんに言った。「ッハハハハ傑作だな、草食動物!第二王子であるオレを脅したお前が、今度はハイエナ風情に脅される立場になるとはなァ」「やだなァ、レオナさん。あと、監督生くんも。だってオレら、ただ“約束”しただけじゃないッスか~、ねえ?」そういってちょっと意地悪な顔でみてやる。「なぁラギー、教えてくれよ。その脅してるネタ」「誰にもいわない約束なんで、オレらだけのヒミツってことで」「午前の講義中ふと、頬杖をつきながら外を眺めていた。今日は随分と天気がいい、眩しくて穏やかな熱を帯びた光が燦々と太陽から降り注いでいる。心地良くて気持ちよく眠っちまいそうだなとぼんやりと授業も話半分に聞く。空の上、高いところにぷかぷかと浮かぶ雲も緩やかに流れている。教室の窓が空いていたので、そんな穏やかな空の下、校庭の方ではワイワイと活気ある声が聞こえてきてピクリと耳を動かし音を拾っていく。…どうやら一年生たちが飛行術の授業を行なっているようだ。視線も下にして、外で授業をする一年生の中に混じる誰かをオレは探していた。あ、と視線が止まる。監督生くんがいる。呑気にグリムくんやエースくんデュースたちと楽しげに笑っているところだったようだ。少し眺めていると、こちらの視線に気づいたのかふと視線が交わる。「ラギー先輩〜!」とこちらに向けて快活に嬉しそう笑って大きく手を振ってきた。日差しに照らされて笑顔が眩しくて輝いて見えた。オレは軽く手を振り返す。すぐに授業に集中してない三人と1匹はバルガス先生に注意されてふてくされなが授業に戻っていくようだった。全く、ほんとに何やってんだか。オレも授業に集中しようと黒板に向き合った時に、気付いたら頬が緩んでいることに気がついた。彼女の笑った顔が脳裏に焼き付いて、フワフワする。これ以上はダメだ。気付いてはいけないはずだ。なんだかものすごく嫌な予感がしている。しかし、先ほどの情景を思い出して急に胸が苦しくなる。オレは顔をしかめた。何かこみ上げてくるのだ。いや、これは心因的なものなんかじゃない。これは物理的に、体の中で何かがこみ上げてきている。コホッと小さく咳き込む。まさか、と思いながら、たらりと冷や汗を流して口元を押さえた。これはまずい。ひどい吐き気がしてオレは席をたち、授業もほっぽり出してオレは急いでトイレへ駆け込んだ。「ウッ、うええぇえええ」汚え声がでた。便器に向かって、しゃがみ込み我慢の限界で思いっきり吐き出した。ギュッと目を瞑る。生理的な涙が溢れて、息が乱れた。便器に力を込めて掴んでいた力をずるずると抜いてトイレの個室の壁にもたれかかる。ハーッハーッと乱れた息を整えて、気持ちを落ち着ける。しばらくして、恐る恐るオレは便器の中を覗いた。便器の上、ぷかぷか浮かんでいたのは花、花、花だった。「は、ハハ…」渇いた笑いが出た。どうやらオレも花吐き病にかかってしまった。最高に気分が悪い。虫の居所が悪い中彼女に会いに行くことにした。何が監督生はオレのことが好きだ、だ。そんなわけないのはわかりきってるのに、ちょっとだけ期待してしまうオレがいて最低最悪だろう。オンボロ寮の自室に彼女はどうやらいるらしかった。どうせ鍵なんてつけてないだろう。ガチャリと案の定、扉は開いた。無言でズカズカと部屋に入って行く。彼女はずいぶんと驚いたような顔をしてベッドの上でスマホをいじっているようだった。「あ、ラギー先輩……?」どうやら様子のおかしいオレに気づいたらしい。て渦中の人間の顔を見ていたら、呑気な顔をしている。さらにイライラしてきてオレは彼女を押し倒した。「先輩…?」心配そうな顔になってきたが知らん顔して彼女の服に手をかけていた。半ば無理やり押さえつけて。「…ねえなんで抵抗しないんですか」「らぎー先輩になら何されてもいいですよ」「ハッ、とんだあばずれじゃないッスか」乾いた笑いがでた。期待なんてさせるな。お前にはオレじゃない好きな人がいて、オレを通してソイツを見てるんだろ。虚しくて、苦しくなってオレは花を吐いた。「別に感情ぶつけて抱いたっていい。かなわない恋してるなら、お互い傷舐め合って生きるのも一興じゃないですか。」「アンタほんとにバカじゃないの」「仕方ないでしょ、相手が自分のこと見てくれるわけじゃないんだから。一時くらい幸せな気持ちになったって」そう言って顔をしかめていう。そうして鮮やかな花がベットにまた増えてゆく。「花のベットいいですね、たくさん増やしましょ」彼女はそれは愉快にいう。そうして彼女を抱いた。行為が終わったあと、たくさんの花が咲き乱れるベッドで体力の限界だったのか、彼女は気絶し意識を失ってすやすやと寝息をたて眠っていた。オレはなかなか眠る気にもなれず、暗がりの中、彼女の髪をいじっていた。花にまみれた寝台の上、一糸も纏わぬ姿で無防備に晒す様はずいぶんと幼く見えた。なんとなく虚しくて寒い。ふと思い立って、上半身だけ起こす。周りに散らばったどちらが吐いたのかすらもわからなくなった花を一本一本集めてオレは花を編み始めた。起きる気配のない監督生はぐうぐう眠る。オレは完成した花の冠を彼女の頭にそっと乗せた。花まみれのベッドに眠った花の冠を乗せた君は、月明かりに照らされ一人だけ絵画の中にいるかのようだった。「……むかつくくらい綺麗ッスね」そんな様を見てオレは、彼女が手の届かないものに見えてしかたなかった。「アンタのことが好きなのに。この花だってアンタを思って吐いた花なのに」自分がさらに手の届かない存在にしていることに気がついて胸を掻き毟りたい衝動に駆られた。Tap 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