Happy Birthday,Our princess季節の割にはあたたかい日だった。
マフラーが要らないくらいだと、取引先から直帰した七海は考えながら駅を出た。
歩くこと十数分。目的地のマンションの前に着くと、入口で、事前に聞いた部屋番号を入力した。
インターホンから聞き馴染みのある、聞いていて安心する穏やかなトーンの女性の声がした。
「七海、いらっしゃい。今開けるね」
夏油の声の後ろから、女児の甲高い笑い声が聴こえた。五条と夏油の娘に会うのは何年ぶりだろうか。
入口のガラス戸が開き、エレベーターで部屋の前まで移動した。
玄関の扉が開くと、数十センチ下に、五条によく似た色素の薄い髪と肌、ぱっちりとした大きな瞳を開いた少女が立っていた。
「ななみ?」
首を傾げた。最後に会ったときの年齢からして、本人は覚えていないのだろう。
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