ガチャリ、とドアの音がするとすぐさま背後からぎゅっと抱きしめられた。
「おかえり」
「ただいま桐生さ――」
すうっ、と息を吸い込むと嗅ぎなれた柔軟剤とはまた別の匂いがし、言葉を飲み込んだ。
「桐生さん、アンタまた誰かと会ったな」
「…よく分かったな」
呆れたようなため息を付いて最後に水ですすいだ皿を水切りかごに置いて手を拭くと大吾に向き直る。優しく頬を撫でながら安心させるように呟く。
「シンジに会ってただけだ」
「桐生さんの舎弟ですよね…。この前は違う奴に会ってたしぜってぇアイツら桐生さんの事イヤラシイ目で見てんだろ許さねぇ…桐生さんは俺のだ…」
一人で暴走し始めた大吾を宥める為にリビングに移動し、冷蔵庫からビールとつまみを持ち出す。座る時もぴったりくっつくように座るので大人になっても妙に子供らしいところは残ってるな、と苦笑いした。
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