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    Tokino

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    Tokino

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    メリーさんにあの名セリフ言ってもらいたいがためのパロディ
    「私」はオルフェウス

    #ノトメリ

    少○の日の思○出パロ/ノトメリ客は夕方の散歩から帰って、私の書斎で私のそばに腰かけていた。昼間の明るさは消えうせようとしていた。窓の外には、 色あせた湖が、丘の多い岸に鋭く縁取られて、遠くかなたまで広がっていた。ちょうど、私の末の男の子が、おやすみを言ったところだったので、私たちは子供や幼い日の思い出について話し合った。

    「子供ができてから、自分の幼年時代のいろいろの習慣や楽しみごとがまたよみがえってきまして。それどころか、一年前から、私はまた、チョウチョ集めをやっているんですよ。お目にかけましょうか。」と私は言った。

    彼が見せてほしいと言ったので、私は収集の入っている軽い厚紙の箱を取りに行った。最初の箱を開けてみて、初めて、もうすっかり暗くなっているのに気づき、私はランプを取ってマッチを擦った。すると、たちまち外の景色は闇にしずんでしまい、窓いっぱいに不透明な青い夜色に閉ざされてしまった。
     私のチョウチョは、明るいランプの光を受けて、箱の中から、きらびやかに光り輝いた。私たちはその上に体をかがめて、美しい形や濃いみごとな色を眺め、チョウの名前を言った。

    「これはワモンキシタバで、ラテン名はフルミネア。ここらではごく珍しいものです。」と私は言った。

    友人は一つのチョウを、ピンの付いたまま、箱の中から用心深く取り出し、羽の裏側を見た。

    「妙なものだ。チョウチョを見るくらい、幼年時代の思い出を強くそそられるものはない。僕は小さい少年のころ、熱情的な収集家だったものだ。」と彼は言った。

    そしてチョウチョをまたもとの場所にさし、箱のふたを閉じて、「もう、いいよ。」と言った。

    その思い出が不愉快なものであるかのように、彼は口早にそう言った。その直後、私が箱をしまってもどってくると、彼は微笑して、巻きたばこをわたしに求めた。

    「悪く思わないでくれよ。」と、それから彼は言った。「君の収集をよく見なかったけど。僕も子供の時、収集していたのだけど、残念ながら、自分でその思い出をけがしてしまった。 実際話すのも恥ずかしいことだが、ひとつ聞いてもらおうか。」
    彼はランプのほやの上でたばこに火をつけ、緑色のかさをランプに載せた。すると、私たちの顔は、快いうす薄暗がりの中にしずんだ。彼が開いた窓の縁に腰かけると、彼の姿は、外のやみからほとんど見分けがつかなかった。私は葉巻を吸った。

    外では、カエルが遠くからかん高く、やみ一面に鳴いていた。友人はその間に次のように語った。

    僕は、八つか九つの時、チョウチョ集めを始めた。初めは特別熱心でもなく、ただは流行りだったので、やっていたまでだった。 ところが、十歳ぐらいになった二度めの夏には、僕は全くこの遊戯のとりこになり、ひどく心をうち打ちこんでしまい、そのためほかのことはすっかりすっぽかしてしまったので、みんなは何度も、 僕にそれをやめさせなければなるまい、と考えたほどだった。チョウを採りに出かけると、学校の時間だろうが、お昼ご飯だろうが、 もう塔の時計が鳴るのなんか、耳に入らなかった。休暇になると、 パンを一きれカバンに入れて、朝早くから夜まで、食事になんか帰らないで、かけ駆け歩くことがたびたびあった。
    今でも美しいチョウチョを見ると、おりおりあの熱情が身にしみて感じられる。そういう場合、僕はしばしの間、子供だけが感じることのできる、あのなんともいえぬ、むさぼるような、うっとりした感じに襲われる。少年のころ、初めてキアゲハに忍び寄った、あの時味わった気持ちだ。また、そういう場合、僕はすぐに幼い日の無数の瞬間を思いうかべるのだ。強くにおう乾いた荒野の焼きつくような昼下がり、庭の中の涼しい朝、神秘的 な森の外れの夕方、僕はまるで宝を探す人のように、網を 持って待ちぶせていたものだ。そして美しいチョウを見つけると、特別に珍しいめずらしいのでなくったってかまわない、日なたの花 に止まって、色のついた羽を呼吸とともに上げ下げしているのを見 つけると、捕らえるとらえる喜びに息もつまりそうになり、しだいに忍寄って、輝いてかがやいている色の斑点の一つ一つ、 透きとおった羽の脈の一つ一つ、触角の細いとび色の毛の一つ一つ が見えてくると、その緊張と歓喜ときたら、なかった。そうした微妙な喜びと、激しい欲望との入り交じった気持ちは、その後、そうたびたび感じたことはなかった。

     僕の家は立派な道具なんか買う金がなかったから、僕は自分の収集を、古いつぶれたボール紙の箱にしまっておかねばならな かった。びんの栓から切り抜いた丸いキルクを底に張り付け、ピンをそれに留めた。こうした箱のつぶれた壁の間に、 僕は自分の宝物をしまっていた。初めのうち、僕は自分の収集を喜んでたびたび仲間に見せたが、ほかの者はガラスのふたのある 木箱や、緑色のガーゼを張った飼育箱や、その他ぜいたくなものを 持っていたので、自分の幼稚な設備を自慢することなんかできなか った。それどころか、重大で、評判になるような発見物や獲物があっても、内緒にした。
     ある時、僕は、僕らのところでは珍しい青いコムラサキを捕らえたとらえた。それを展翅し、乾いた時に、得意のあまり、せめて隣の子供にだけは見せよう、という気になった。それは、中庭の向こうに住んでいるメリーという少女だった。この少女は、非のうちどころ打ちどころがないという悪徳をもっていた。それは子供としては二倍も気味悪い性質だった。彼女の収集は小さく貧弱だったが、こぎれいなのと、手入れの正確な点で一 つの宝石のようなものになっていた。彼女はそのうえ、傷んだり壊れたりしたチョウの羽を、にかわで継ぎ合わすという、非常に難しい珍しい技術を心得ていた。とにかく、あらゆる点で、模範少女だった。そのため、僕はねたみ、嘆賞しながら彼女をにくんでいた。

    この少女にコムラサキを見せた。彼女は専門家らしくそれを鑑定し、その珍しいことを認め、二十ベニヒぐらいの現金の値打ちはある、と値踏みした。しかしそれから、彼女は難癖をつけ始め、展翅の仕方が悪いとか、右の触角が曲がっているとか、左の触角が伸びてるとか言い、そのうえ、足が二本欠けているという、もっともな欠陥を発見した。僕はその欠点をたいしたも のとは考えなかったが、こっぴどい批評家のため、自分の獲物に対する喜びはかなり傷つけられた。それで僕は二度と彼女に獲物を見せなかった。

    二年たったが、 僕の熱情はまだ絶頂にあった。そのころ、あのメリーがヤママユガをサナギからかえしたといううわさが広まった。今日、僕の知人の一人が、百万マルクを受け継いだとか、冒険家カートのなくなった本が発見されたとかいうことを聞いたとしても、その時ほど僕は興奮しないだろう。僕たちの仲間で、ヤママユガを捕らえたとらえた者はまだなかった。僕は自分の持っていた古い チョウの本の挿し絵で見たことがあるだけだった。名前を知っ ていながら自分の箱にまだないチョウの中で、ヤママユガほど僕が熱烈に欲しがっていたものはなかった。幾度となく僕は本の中のあの挿し絵を眺めた。一人の友達は僕にこう語った。「とび色のこのチョウが、木の幹や岩に止まっているところを、鳥やほかの敵が攻撃しようとすると、チョウは畳んでいる 黒みがかった前羽を広げ、美しい後ろ羽を見せるだけだが、その大 きな光る斑点は非常に不思議な思いがけぬ外観を呈するので、鳥は恐れをなして、手出しをやめてしまう。」と。

    メリーがこの不思議なチョウを持っているということを聞くと、僕はすっかり興奮してしまって、それが見られる時が来るのが待ちきれなくなった。食後、外出ができるようになると、すぐ僕は中庭を越えて、隣の家の四階に上っていった。そこに少女は、小さいながら自分だけの部屋を持っていた。それが僕にはどのくらいうらやましかったかわからない。途中で僕は、誰にも会わなかった。上にたどり着いて、部屋の戸をノックしたが、返事がなかった。メリーはいなかったのだ。ドアのハンドルを回してみると、入り口は開いていることがわかった。
     せめて例のチョウを見たいと、僕は中に入った。そしてすぐに、メリーが収集をしまっている、二つの大きな箱を手に取った。どちらの箱にも見つからなかったが、やがて、そのチョウはまだ展翅板に載っているかもしれないと思いついた。はたしてそこにあった。とび色のビロードの羽を細長い紙きれに張り伸ばされて、ヤママユガは展翅板に留められていた。僕はその上にかがんで、毛の生えた赤茶色の触角や、優雅で、果てしな く微妙な色をした羽の縁や、下羽の内側の縁にある細い羊毛のような毛などを、残らず間近から眺めた。あいにく、あの有名な斑点だけは見られなかった。細長い紙きれの下になっていたのだ。

    胸をどきどきさせながら、僕は紙きれを取りのけたい誘惑に負けて、針を抜いた。すると、四つの大きな不思議な斑点が、挿し絵のよりはずっと美しく、ずっと素晴らしく、僕を見つめた。それを見ると、この宝を手に入れたいという逆らいがたい欲望を感じて、僕は生まれて初めて盗みを犯した。僕はピンをそっと引っぱった。チョウはもう乾いていたので、形はくずれなかった。僕はそれをてのひらに載せて、 メリーの部屋から持ち出した。その時、さしずめ僕は、大きな満足感のほか何も感じていなかった。

    チョウを右手に隠して、僕は階段を下りた。その時だ。その瞬間に僕の良心は目覚めた。僕は突然、自分は盗みをした、下劣なやつだということを悟った。同時に、誰かに見つかりはしないかという恐ろしい不安に襲われて、僕は本能的に、獲物を隠していた手を、上着のポケットに突っこんだ。ゆっくりとぼくは歩き続けたが、大それたはずべきことをしたという、冷たい気持ちにふるえていた。びくびくしながら階段を降りながら、僕は胸をどきどきさせ、額にあせ汗を かき、落ち着きを失い、自分自身におびえながら、家の入り口に立ち止まった。

    すぐに僕は、このチョウを持っていることはできない、持っていてはならない、もとに返して、できるならなにごともなかったようにしておかねばならない、と悟った。そこで、人に出くわして見つかりはしないか、ということを極度に恐れながらも、急いで引き返し、階段をかけ駆け上がり、一分の後にはまたメリーの部屋の中に立っていた。僕はポケットから手を出し、チョウを机の上に置いた。それをよく見ないうちに、僕はもうどんな不幸が起こったかということを知った。そして泣かんばかりだった。 ヤママユガはつぶれてしまったのだ。前羽が一つと触角が一本なくなっていた。ちぎれた羽を用心深くポケットから引き出そうとする と、羽はばらばらになっていて、繕うことなんか、もう思いもよらなかった。

    盗みをしたという気持ちより、自分がつぶしてしまった美しい珍しいチョウを見ているほうが、僕の心を苦しめた。
    微妙なとび色がかった羽の粉が、自分の指にくっついているのを、 僕は見た。また、ばらばらになった羽がそこに転がっているのを 見た。それをすっかりもとどおりにすることができたら、僕はどんな持ち物でも楽しみでも、喜んで投げ出したろう。

    悲しい気持ちで僕は家に帰り、夕方までうちの小さい庭の中に腰かけていたが、ついに一切を父にうち打ち明ける勇気を起こした。父はおどろき悲しんだが、すでにこの告白が、どんな罰を忍ぶことより、僕にとってつらいことだったということを感じたらしかった。

    「お前は、あの女の子のところに行かなきゃならん。」と父は きっぱりと言った。「そして、自分で謝れ。 それよりほかに、どうしようもねぇ。お前の持っている物のうちから、どれかをうめ合わせにより抜いてもらうように、言え。そして許してもらうように頼め。」
     あの模範少女でなくて、ほかの友達だったら、すぐにそうする気になれただろう。彼女が僕の言うことをわかってくれないし、 恐らく全然信じようともしないだろうということを、僕は前もって、はっきり感じていた。かれこれ夜になってしまったが、 僕は出かける気になれなかった。父は僕が中庭にいるのを見つけて、「今日のうちでなきゃダメた。さあ、行け」 と怒鳴った。それで僕は出かけていき、メリーは、と尋ねた。彼女は出てきて、すぐに、だれかがヤママユガをだいなしにしてしまったの。悪いやつがやったのか、あるいはネコがやったのかわからない、と語った。僕はそのチョウを見せてくれと頼んだ。二人は上に上がっていった。彼女はろうそくをつけた。僕はだいなしになったチョウが展翅板の上に載っているのを見た。メリーがそれを繕うために努力した跡あとが認められた。壊れた羽は丹念に広げられ、ぬれた吸い取り紙の上に置かれてあった。しかしそれは直すよしもなかった。触角もやはりなくなっていた。そこで、それは僕がやったのだと言い、詳しく話し、 説明しようと試みた。

    すると、メリーは激したり、僕を怒鳴りつけたりなどはしないで、低く、ため息を一つつき、しばらくじっと僕を見つめていたが、それから「そう、そうなの、つまりあなたはそんな人なのね」と言った。

    僕は彼女に、僕のおもちゃをみんなやると言った。それでも彼女は冷淡にかまえ、依然僕をただ軽蔑的に見つめていたので、僕は自分のチョウの収集を全部やると言った。しかし彼女は、「結構よ。私はあなたの集めたやつはもう知っているしそのうえ、今日また、あなたがチョウをどんなに取り扱っているか、ということを見ることができた。」と言った。

    その瞬間、僕はすんでのところであいつの首に飛びかかるところだった。もうどうにもしようがなかった。僕は悪漢だということに決まってしまい、メリーはまるで世界のおきてを代表でもするかのように、冷然と、正義をたてに、あなどるように、僕の前に立っていた。彼女はののしりさえしなかった。ただ僕を眺めて、軽蔑していた。

    その時初めて僕は、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った。僕は立ち去った。父が根掘り葉掘り聞こうとしないで、かまわずにおいてくれたことを嬉しく思った。僕は、もう寝ろ、 と言われた。僕にとってはもう遅い時刻だった。だが、その前に僕は、そっとキッチンに行って、大きなとび色の厚紙の箱を取ってき、それを寝台の上に載せ、やみの中で開いた。そしてチョウチョを一つ一つ取り出し、指でこなごなに押しつぶしてしまった。
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