さんかくのたからものある時帰ってきた兄の耳には、昨日まではなかったキラリと光るものがついていた。
「にいちゃん！　なにそれ！？　耳光ってるよ！」
「き（きれい）」
ヒデオはヒマリと一緒に興味津々と覗き込む。
「ん？　あ、これはにゃあピアスじゃよ」
「ぴあすぅ？」
「？」
「そう！　耳にプスッと穴を開けて通すんじゃ」
「ひいっ、痛そう……」
さらっと不穏に聞こえる言葉を話す兄に対し、ヒデオはビックリして泣きそうな表情になる。ヒマリもぎゅっとヒデオの服の裾を掴んで怯えていた。
「にいちゃんかわいそう……なんか悪いことしちゃったの……？」
目に大粒の雫を溜めて今にもこぼれ落ちそうになっている
「待て待て待て、泣くな！　これはおしおきじゃなくてファッション！！……えーと、おしゃれじゃ！」
兄は慌てて二人を安心させるように言葉を選び直すと頭をポンポンする。
「おしゃれ…？　じゃあ痛くない？」
「そうじゃ！　全然平気！」
「耳、赤……（耳、赤いよ……）」
「んー、着ける瞬間だけちょーっとな……？　でも最初だけ乗り越えたらあとは何もにゃあよ」
二人を怖がらせないように優しく笑顔で伝える。
「そうなの？？　にいちゃんすげえや……！」
「ははっ、なんでも褒めてくれて兄ちゃん嬉しいにゃあ！　
「いいなあ、俺も‘‘ぴあす’’つけたいっ！」
「うーん、さすがにお前にはまだ早すぎるにゃあ」
ヒデオは特に兄の真似をしたがる時期だ。意気込む弟に兄は少し困ったように笑い返事をする。
「あとなあ、今はただの丸だけど、もう少ししたらもーっとカッコいいものに変えるんじゃ」
「「？？」」
というと、兄は引き出しから黒い箱を取り出して二人の前に持ってくる。
「よぉし、いくぞ？　3、2、1……」
カウントが終わり、蓋が開くとそこには……
「わーっ！　さんかくだ！！　カッコいい……！！」
三角形の、キラリと光る金色のピアスが姿を見せた。
「じゃろ！！　これはうちの宝物なんじゃ」
「すげえー！！　触っていい！？」
「もっちろん！」
ヒデオは片方のピアスを手にすると、手を高く上げ白熱灯にかざしてみる。反射して、より一層光り輝いて見える。
「ほい、ヒマも手を出してみ」
兄は、差し出されたヒマリの小さな手のひらにもう片方のピアスをソッと載せてあげた。
珍しいものを見るように顔に近づけて釘つけになっている。
「食べちゃダメだぞ？？」
あまりにも見つめているので兄は念のため苦笑いして注意した。
「ねえ、俺もこれ、いつか着けれる？？」
「もうすこーし大きくなったらじゃな！　俺と同じくらい背が伸びたら大丈夫じゃ！」
「よし、俺、もっとたくさんごはん食べてすぐ大きくなるよ！」
「あはは、それは横に大きくなりそうじゃにゃあ」
あまりにも純粋で待ちきれない様子のヒデオが、微笑ましく、思わず笑みがこぼれる。
「そんときは兄ちゃんがヒデとヒマ、二人に着けてあげるからにゃあ」
「ほんと！？　やったぁ！！」
ヒデオは全身で喜びを表し、ヒマリも目を輝かせて心なしかワクワクしているようだった。


――約一ヶ月後、兄の耳には、あの時見せてもらった三角のピアスが光り輝いていた。
自慢の宝物は箱に入っている時よりも、更に誇らしく見える。
ヒデオはいつか自分の耳にも、兄と並んで宝物を輝かせる夢をさらに大きく膨らませた。