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    iduha_dkz

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    書きかけの大学花瀬花で今日増えてしまったシーン
    こうして増やすから永遠に終わらない件
    両片想いで迎えた4年生のクリスマスデート@東京ドーム
    途中で始まり途中で終わるし、完成版では描写が消えているかもしれない

    中には入れないので、東京ドームに沿って歩いていく。半年前にこの場で行われた試合の話は尽きない。互いのプレーのダメ出しやそれでも良かった点、それを交互に語っている中で、その存在に気付いたのは花房が先だった。
    「あ、野球殿堂博物館」
    「寄ってく?」
    「うん。ここにレリーフ飾られるくらいの結果、出したいよね」
    「だな」
    入口で入館料を払って中に入る。流石にこの施設のスタッフは今年のドラフトでプロ入りが決まった選手の顔に見覚えがあるのか少し驚いた顔をされたが、特に何か触れられることはなくゆっくりご覧くださいとだけ言われた。
    「気づかれてたねー」
    入口から離れて殿堂入り選手のレリーフが飾られているところまで来ると、花房は少し声を潜めて隣を歩く瀬田に伝える。
    「お前のせいでメディアに露出しすぎなんだよ」
    生来の整った顔の影響か、花房は活躍する度メディアに取り上げられていた。そうなると必然的に二枚看板となっている瀬田も取り上げられることになる。初めて一緒のチームになったのは実はU12代表という話題の受けもよく、大学生としてはメディアによく取り上げられていたのは確かだ。だが。
    「大学生としては多かったかもだけど、ここに飾られる結果出すなら、あんなもんじゃないでしょ。結婚までニュースになるじゃん」
    本当のスター選手はこんなものではない。多くの視線を浴びているし、プライベートなはずの結婚まで関心を持たれる。瀬田がその注目を浴びる時隣に写るのが自分である想像が、花房にはまったくつかない。そういう話題で衆目に晒されるのがイヤというだけでなく、単に可能性として選ばれて隣にいる将来がイメージできないのだ。
    「あー、確かにここに飾られるくらいになると、あんなもんじゃねーか」
    「そうそう、大学で慣れれたの感謝してよね」
    「いや今以上になんだから、ぜんぜん経験足りねーだろ」
    こんな風に軽口を叩き合うイメージはいくらでもできるので、このままの関係性から何も変えない方が自分たちには向いているのだろうなと花房は思っている。四六時中傍にいる生活は終わるものの、会った時には遠慮ゼロの言葉が飛んでくるならそれでいい。
    花房がそう思ったところで、瀬田の足が止まった。
    「どしたの瀬田ちゃん?」
    複雑そうな顔で、瀬田が指差す先を花房は見る。殿堂入り選手のレリーフを飾る展示室を抜けた先には、日本代表についてのコーナーがあった。そこには、当然のようにU12日本初優勝のトロフィーが展示されている。
    「あー……」
    普段うるさいくらいの瀬田がどう伝えたらいいか困った理由が花房にはわかって、でもこの場に立ち止まるわけにもいかないのでとりあえず前に進む。苦い記憶が残るトロフィーの正面に立つと、花房は驚愕の表情を浮かべて立ったままだった瀬田を手招きした。
    「そこに突っ立ってると邪魔でしょ?」
    「わざわざ見なくても引き返せばよくねぇ?」
    「俺も見たいわけじゃないけど、無視して帰っても後味悪いでしょ」
    「それはまぁ……」
    U12で花房が感じた様々な気持ちを理解しきれるのは瀬田だけだし、瀬田の方もおそらく投手としの感情まで理解しているのは花房だけだ。綾瀬川の後に投げたくないと思ったこと、試合で見せられる圧倒的な実力差に感じた気持ち、そして綾瀬川一人がいなかったらまずたどり着けなかった優勝という結果。言葉にできない渦巻くような感情は、二人の間でだけはズレなく伝わる。見ずに逃げるようにこの場を離れる方が後に引くと、花房はわかっていた。
    瀬田も納得したのか歩みよって、展示されているトロフィーを見下ろす。
    「このトロフィー、こんなちっちゃかったっけ?」
    「身長伸びたから小さく見えるだけでしょ」
    もしくは、どんな性質の気持ちを抱いてそのトロフィーを見るかが変わったか、だ。唐突に現れた天才を見上げて羨むしかなかった時と、どうすれば自分の気持ちを切らさず前を向いて努力を続けられるのか知っている時とでは、受け止め方も違う。
    当時の優勝の立役者の投手は、現在もプロで華々しく活躍している。日本球界の記録を塗り替えるその成績は、条件が整ったらこの場にレリーフが飾られるだろうことは誰が見ても明らかだった。その天才と比較される場に、これから二人は四年遅れで入ることになる。彼がメジャーに行くのはアメリカ側の制度の事情もあっておそらく二十五歳を過ぎてからになるだろう。ここから三年間、頂点に綾瀬川次郎という天才がいる世界で、しのぎの削り合いを行っていくのだ。
    「瀬田ちゃん」
    「花房」
    名前を呼んだのは同時だった。
    「プロでも賭けしよう、って言おうとした?」
    「考えること同じか……。そーだよ。一年ごとに成績で」
    「勝った時の報酬は大学と同じ?」
    「その方がやる気出るじゃん。自信ねーの?」
    「なわけないじゃん。次も俺が勝つし」
    「ハァ? 次勝つのはオレだけど」
    同じことを同時に考えたのは、この四年間に二人で競い合った時間が意味あるものだったからだ。二人の間でしか分かり合いようがない感情を共有しながら、それでも互いにだけは負けたくないと結果を求め続けた日々がこれからも続くなら、無理もせずかといって妥協もせず、強い選手になる道を進み続けられることを、花房も瀬田も四年の間に心から実感している。
    「とりあえずもうトロフィーはいいよね。次は行こ」
    「あ、話変えんな!」
    瀬田は会話を切ったことには抗議したものの、花房と一緒に歩き出した。野球の歴史の資料は見ても今更なので、流し見しながら歩いていく。
    「えー、どっちが勝つかなんて絶対平行線じゃん。来年結果で語るしかなくない?」
    「どの成績で勝負するかとか、決めることあんだろ」
    「防御率でよくない? それとも打撃も勝負する? でもそっちは俺と瀬田ちゃんの得意なこと違うじゃん」
    花房は長打を得意としている一方、瀬田は足の速さや出塁率、盗塁の正確な判断が売りだ。ここを比較しようとしてもお互い不満の残る結果になるのは見えている。それを伝えたところ、瀬田は花房の考慮の外から一つの指標を提案してきた。
    「年俸は?」
    「え、なんか急に俗っぽい指標になったね?」
    上を目指す努力のための勝負の話に経済的な観点の指標が入るとは思っていなくて花房は思わず突っ込む。
    「全部込みの選手の総合評価だろ」
    とはいえ瀬田の言う通り、年俸が選手のすべての要素を加味した総合的な評価だというのは間違ってはいない。
    「まぁそうなんだけど。絶対受け悪いから秘密ね」
    「了解了解」
    とはいえ受けは悪いので、他言無用と花房は口止めした。大学時代にしていた勝負もお互い他者に話すことはなかったが、今回の指標はそれでも念押ししておきたくなるくらい聞こえが悪い。
    そんなことを話していたら、あっという間に出口に着いていた。側のお土産コーナーには色々なグッズがあり、その中に野球守と書かれたお守りも置かれている。
    「怪我せず野球が上手くなるように応援するお守りだって。……一年で返納するんだ。瀬田ちゃんどの色が好き?」
    「黒に黄色のヤツ」
    「わかった、ちょっと待ってて」
    その返事を聞いた花房は、該当の色の野球守を二個手に取るとレジに向かっていった。会計を済ませて戻ってくると、一つを瀬田に手渡す。
    「はい、故障とかしないように。来年返納しに来る時賭けの結果確認して、勝ったほうがお願い伝えるのにちょうどいいでしょ」
    それは大事な賭けの結果を確認するタイミングの決定でありながら、会う必要はなかった結果確認の時にも二人で会うこと、そしてお揃いのものを二人が持つことになった瞬間でもあった。
    「いいけど、くれんの?」
    それぞれの手に持った同じデザインのお守りを、瀬田はじっと見つめながら尋ねる。
    「俺が渡したかったから。次どうするかは……、勝った方が決めればいいんじゃない?」
    その言葉に籠もって表出した感情に、花房は自覚がない。けれども、聞いた瀬田は思わず動きを止めて花房をただただ見ていた。
    「どしたの? 次どうするかもう考えてる? それ取らぬ狸の皮算用じゃない?」
    何が零れ出たのか認識していない花房は、いつものように瀬田を煽ってくる。瀬田は少しだけ返事を考えてそして。
    「……負ける気はねーけど、確かにお前相手に勝つ前提での計画はよくねーな」
    そうすべきだと認めるように、静かに言い切った。
    「一度負けてる分、ちゃんとわかってるねー」
    「もういいだろ。ほら、出るぞ」
    「はーい」
    先に歩き出した瀬田を花房が追いかける。外に出て目に入るのは、デートに来ていると思われる二人組が向かって行く観覧車だった。





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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982