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    iduha_dkz

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    iduha_dkz

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    円桃←綾
    ここから卒業までの間、色々たいへんだろうなと思います

    あわいの時間にこぼれた心は少しだけ抜け出したいから協力せえ、なんて勝手な言い分だと思う。しかも甲子園決勝で負けて泣いた直後に、だ。いや、桃吾も泣いてたのは同じだけど。
    とはいえ取材に囲まれた後チームに戻るまでのタイミングが、こっそり個人行動をしやすいのは間違いない。ここにかけていた桃吾の気持ちはずっと傍で見てきたから、円と落ち着いたところでもう少し話たいというのは叶えてあげたかった。
    でも同時に、もう桃吾は俺のキャッチャーじゃなくなったんだなと実感して、これまでのようになんでもないように隠し続けるのが苦しくなる。
    だから貸し一つねって言って二人でそっと抜け出した後、人気がまったくない場所に桃吾を連れてきてしまった。
    「落ち着いてるし、ここで円と会ったらいいよ」
    そう言ったら桃吾は喜んで、円に連絡をとっている。位置と周りの風景を写真に撮ってそれを送信したのまで確認して、それから桃吾に手を伸ばした。
    右手で左手を捕まえて、左手で顎をとって上を向かせて、何が起こるのか桃吾が気づく前に唇を重ねてしまう。
    同意もとらずいきなりこんなことをするなんて、しかも別に好きな人がいると知っている相手にそれをするなんて、酷いとなじられても仕方がない。けど、それでも、どうしても返す前にこの気持ちを外に出しておきたかった。
    触れあっている唇の感触は柔らかいけどこんなものかという印象なのに、頭の奥からパチパチと嬉しさと悲しさが弾け出してくる。その感情が溢れてしまうと本当に離れられなくなってしまいそうで、それらを振り切るように重ねた唇を離した。
    何が起こったのか気づかれて抵抗される前の短い時間。そんな一瞬しか触れていなかったはずなのに、ひどく長く感じて顔が熱くなってうまく息もできない。けれど、大切なこと二つだけは伝えたくて、なんとか唇を開いた。
    「俺、桃吾が好き」
    一つ目の伝えたいことは簡単に言葉になる。けれど、二つ目の伝えるべきことはなかなか喉を通ってくれない。俺は望んでいなくて、でも桃吾の幸せには絶対に必要な、そんな背中を押す言葉は、握ったままだった左手を桃吾が動かそうとした時にようやく口を通ってくれた。
    「……桃吾は、円と幸せにね」
    うまく笑えていたかはわからない。それぐらい大事で返したくなかった。でも、本人が望んでくれないのに縛りつけても意味はない。
    だから、円とこの場所で会う約束をした桃吾を置いて、俺は駆け出して離れていった。このタイミングで追いかけてきてくれるわけがないことをわかっているのに、少しだけ期待してしまっていた気持ちが目からじわじわと溢れて出てくる。試合に負けてできた涙の痕があるから、きっと誰にも俺が別の理由で泣いたことなんて気づかれない。気持ちを見せてしまった桃吾にだけはバレるかもしれないけど、バレて後ろめたさで少しでも覚えてくれているならそれでよかった。
    それなのに。
    「アホッ! 後で問い詰めたるから絶対覚えとけっ!」
    後ろから逃れようのない大声の網が飛んできて捕まえられる。
    それは急に気持ちを押し付けられた桃吾からしたら当然の怒りだったけれど、さっきのキスが無かったことにはされないことも示していた。なんなら一生根に持ちそうな声音で、それがほんの少し嬉しくて駆けていた足が緩む。
    この後寮まで戻ったら確実にやってくる問い詰めタイムにどう答えたらいいかはまったくわからなかったけど、一生今俺が渡した気持ちを覚えててもらえることに比べたらとても小さなことだと思う。
    卒業するまでまだしばらく同じ部屋なのはちょっと気まずいかもしれないけど、桃吾とならなんとかなるかと、この問題もいったん置いておくことにした。


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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982