邪魅まだ私が生まれて間もない頃だろうか
東京が死んだ。
東京にカジノ街を作るのが発端だったらしい。
住宅街は破壊されて大きなカジノ街が出来た。
この行為に反発者が多数出た。
報復に政府は東京を殺した。
政府は京都に移りかわった。
残ったのは瓦礫の山と少しの建物。
カジノ街も放置された。
生き残った人間へのせめてへの慈悲なのか食料の供給等がきていたが、それも私が大人になる前には止まっていた。
電気等は生きていたのは少しの幸いだった。
生き残った人達は支え合って残りの食料や、種から植物を育て分け合ったり、なんとかしのいでいた。
私達は生活には困らない程度の復興を遂げた。
25の頃だろうか私は孤児院を開いた。
奇跡的に残っていた保育園を活用した。
3人の同じ年齢の子達を受け入れた。
というよりかは「身寄りが無いようなので誘拐した」が近かった。
臆病で泣き虫な「紅蓮」
活発だけど優しい「縹」
ヤンチャで元気な「芙蓉」
大抵紅蓮が芙蓉に虐められて、縹が怒る。
というのがセオリー。
私は怒ることや誰かに付く事が苦手だったため、そんな3人を微笑ましくみてた。
文字の読み書きを教えた。
私が知りうるできる限りの教育をした。
私たちはもう「家族」だった。
彼らが9、10歳位の頃だったろうか
「先生。外、何かある。」
縹が私の腕を掴んで外に連れ出す。
ほかの2人も「何〜」と着いてくる。
大きなダンボール。
危険物かと思い「皆は離れてください」と声をかけ、テープを剥がしゆっくりと開けた。
内容物に目を疑った。
産後数ヶ月ほどの赤ちゃんと、同じくらいのくまのぬいぐるみ。服が数着。粉ミルク。
「ねえせんせーなんだったの」
芙蓉が覗きに来る
「赤ちゃんです。皆も来ていいですよ。」
ゆっくりと抱えあげる。
小さくて暖かい、簡単に壊れてしまいそうな、白い髪の毛の赤ちゃん。
「わあ、ほっぺふにふに」
「ほんとだ……」
「くえんじゃねー」
と皆が頬をつついたり撫でたりすると赤ちゃんが目を覚ます。
満月のような黄色い目が私をじっと見つめる。
「……泣かねえな」
「生まれたてじゃないんだから」
「えいっ」
芙蓉が赤ちゃんにデコピンをする
「わっ……駄目ですよ。優しくしないと……」
と慣れないながらに怒るが赤ちゃんは泣く所か笑いだした。
私達を受け入れてくれてるようで安心した。
私達は5人家族になった。
夜、私はダンボールの底の方にのこってた手紙を開けて読む。
『ごめんなさい この子の名前は邪魅です。どうか、まだ生きているようなら殺してあげてください。私はこの子が怖いです。』
読みづらい文字 酷い内容 酷い名前。
全てに頭を抱える。
"邪魅"妖怪の類だ。酷い名前。
"ジャミ"には子供という意味も持つ。
子供達にはその名前を伝えよう。
翌朝伝えると
「そのまんまの名前大人になってもガキってことかよ」
なんて芙蓉にいわれた。
「子供の純粋な気持ちは大事だよ」と私は笑う。
子持ちの人や赤ちゃんが居る女性に育て方を教えて貰いなんとか私でも育てられた。
子供達も協力してくれて、ジャミはすくすく育った。
ただ1つ、泣いたことがなかった。
ジャミは3人の兄にも、私にもとても懐いていた。
ジャミが5歳ぐらいの頃だったか、虫を手でつかんで羽をもいだり、子供らしいといえば子供らしいが残酷な行為。
咎める気はなかった。
が、紅蓮が「ジャミ、虫も生きてるんだぜ可哀想だろ」とジャミの頭をなでた。
1番大きく成長した紅蓮は1番「兄らしさ」があった。
だが泣き虫な所は変わりなく、ジャミを優しく咎めている時も泣いていた。
「かわいそうお兄ちゃんも泣いてるね。かわいそう虫さんとおなじ」
純粋な瞳を向けられた紅蓮は回答にこまっていた。
「かわいそう……かわいそうだね。」
ジャミの目からポロポロと涙が出てくる。
ジャミが初めて泣いた、紅蓮は大きな身体でジャミを抱きしめるが私には、ジャミの口角が上がってるように見えた。
それ以来ジャミの言動におかしなものがふえた。
ある日は芙蓉と一緒に紅蓮にイタズラをして泣かせて、縹が怒ると、「かわいそう」と泣き出す。
「お前……お前がやった事だろう」
と一層縹におこられていた。
またある日は死んだ小鳥を持ってきて「鳥さん。しんじゃってた。かわいそう」と3人に見せる。
3人はジャミを慰めて小鳥のお墓を作った。
私はでも、見ていた。
「死んじゃった」のではなく「殺した」んだ。
巣から落ちた小鳥を「どうしよう」と見つめるジャミに「まだ飛べないから巣に返してあげましょうか」と言い切るまえに強く地面に小鳥を叩きつけた。
唖然とした。
「もうとべないなら、はやく死んじゃったほうがうれしいよね」
「せんせい」
私は肩を抑えて目線を合わせて
「巣に返してあげれば生きていけました。どうして……」
と慣れない説教をする
「しらなかった。かわいそうだね。」
泣き出すジャミに、どうしようもない感情が渦巻いた。
私は子供が好きだ。
誘拐犯だ。
人を咎める資格なんてない。
だけどその嘲笑のような"かわいそう"がどうしようもなくさせた。
"邪魅"の母親からの手紙 『殺してあげてください』が脳裏をよぎる。
細い首に手をかけると、ジャミは優しく微笑んだ。
全身の力が抜け項垂れる。
「だいじょうぶせんせい」
さっき命を奪った手で頭を撫でられた。
「大丈夫です。」
込み上がってきた胃液を飲み込み返事をする。
たまに不穏な出来事もありながらも、家族3人が20になった。
ジャミが寝てる頃、
「まだここに居てもいいんですよ」
と3人に言うが、出ていくつもりらしい。
荒れた治安を戻すために3つの勢力に別れて、別のギャングを解体させ均衡を守るらしい。
立派な大人になった事に感動する。
「ジャミには内緒」らしい。
危険な事だ、巻き込みたくないのだろう。
しかし私はジャミと2人で暮らす事が不安だった。
案の定朝に目が覚めて兄が居ないことに気づいたジャミはお気に入りの、ずっと一緒のぬいぐるみを抱きしめて黙って何かブツブツ言っていた。
あまり会話もせず、ジャミはぬいぐるみを手放す頻度がいつもより減り口数も減った。
3人が出てってから数ヶ月後だろうか
スーツをきた男の人がジャミを引き取りたいと言いに来た。
ああやっと解放される。
怪しくてもいい。きっと邪魅を殺してくれるのだろう。もうなんでもいい。
さっさとジャミを明け渡してしまおう。
もっと他の子を集めて、楽しい場所にしよう。
「先生、今までありがとう」
ジャミに抱きしめられる。
「さようなら」
男の人に連れて行かれるジャミに別れを告げた。
7年後。
孤児院には子供が数人いた。私が誘拐した子。預けられた子。また託児所としても使用され、協力してくれる大人も増えた。
毎日がたのしかった。
ある日、庭の手入れをしていると「久しぶり」と、聞き覚えのある声が後ろからして振り向く。
背丈も髪も伸びていたが、すぐにわかった
「ジャミ……」
「あは、せいかーい。先生元気だったねえ」
成長はしているのに、子供のままだ。
子供の、子供故の邪悪さだけが残ったような、そんな容姿と喋り方。
「私は……元気ですよ。」
「あっそう。」
バンと大きな音がなる。
胸に激痛 息が出来なくなる。
意識が朦朧としていく中きこえた台詞は
「可哀想」
だった。
「もしもしおじさん、これでいいうん。殺したよ。写真おくったでしょ。え僕の顔はどうでもいいって笑。ちゃんと死んでるって。大丈夫。心臓打ったから。三島晴だっけは何時こっちこれそううんわかった。おじさんプレゼントどうもありがとうね。ココでいっぱい楽しい事するから。うん。またね。」
「またいっぱい遊べるね。兄さん達」