無題 嘆きも憤りも意地張りも矜持も。プライドさえも。
それは雪祈だけのものであり、雪祈だけが背負う業だ。決して誰かに渡せるものでもなく。また渡すものでもない。
だが、この男はそれを少しでも寄越せと強請ってくる。当然とばかりに触れてくる。自分の荷物はそっと避けて、ちょろりとすら見せようとしないくせに。なんとまぁ傲慢で、優しさに満ちた行為だろうか。
なによりタチが悪いのは、決して不快だけではないところだ。ともすれば飛び出しそうになる優越感と、嬉しさ。そういうところだぞ、なんて言葉はそのまま自分に跳ね返るから決して言えない。
大きな手が縫い跡だらけの腕に触れる。金属の木管楽器に触れ続ける指は硬くて、そのまま年月を物語るようだ。きっともっと硬く、荒れ果て、自信を積み上げていくのだろう。
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