恋人たちに祈りを込めて『贈り物』の仕方にもその人の癖が出るものである。よく、女性誌などで言われる話を例にあげると、『男性が、何の記念日でもない日に贈り物を買ってくるのは、なにか後ろめたいことがあることが多い』辺りではないだろうか。もちろん、全ての人がそういうわけではない。何か謝りたいことがあるとき、重要な事を伝える時なども贈り物をするし、本当に気まぐれに何かをおくる事もある。けれど、割とその人の贈り方はパターン化しているのではないかとトレイ・クローバーは実家のケーキ屋を手伝いながら、思うことがある。
「……」
閉店間際のケーキ店のイートインスペースで不機嫌そうに腕を組み、窓の外を眺めている男は、先月も似たような顔をして来店した。その表情から推測するなり、喧嘩でもしたのかもしれない。
踏み入った質問をしたことはないが、彼がここで買っていったケーキが誰の口に入っているのか、トレイは知っている。もちろん、目の前の人物がそんなことを話すわけがなく、食べた人物が律儀にお礼のメッセージを送ってくれるからであるが。そのことを彼も承知しているのか、特段そのことを秘密にしてるわけではないらしく、以前彼が来た時に、彼の『恋人』の話に触れても、機嫌を損ねたりはしなかった。
「レオナ、待たせたな」
小さなホールケーキの箱を紙袋に入れると、イートインスペースの方に声をかける。その声賭けに顔を上げたのは、学院いた頃には見たことがない厚手のコートと赤いマフラーを巻いたレオナ・キングスカラーだった。
「できたか」
「ああ。希望通り低糖質、ローカロリーのスペシャルケーキだ。口に合えばいいが……」
「大丈夫だろ……俺がそこいらのケーキ屋で買ったもんなら食わないが、お前のケーキは信頼してるしな、あいつは」
少しほっとしたような息をついたレオナにトレイは苦笑した。
トレイが作ったケーキを求めて、彼が実家のケーキ屋を手伝っている日にだけ彼は来店する。四年次は学院外での実習が多いため、クラスメイトは国内外あちこちに飛ばされたが、トレイは実家の近くに実習先が多かったため、こうして家を手伝えている。なにごともめぐり合わせ、とでもいうのだろうか。
「それならいいが」
レオナは代金を支払うと、はらはらと白い雪が降り始めた夜の街中へ出て行こうとしていた。
「あ、ちょっと待ってくれないか」
「……なんだ?」
「安いコーヒーだが、ちょっとくらいは温まるだろ?」
イートインスペースで販売していたコーヒーを紙コップに注ぐと飲み口のついた蓋をつける。熱くないようにスリーブをつけて、サービスだ、と言って差し出す。
「……はは、そりゃ、どーも」
少し驚いたような顔をした後、ふっと小さく唇を歪めたレオナはそのコーヒーを受け取ると、またな、と店を後にした。
その小さくなっていく背中を眺めながら、トレイはゆっくりと息をついた。『また』があるということは、再び彼らが喧嘩をするということになるのかもしれないが。
(まぁ、喧嘩するほど仲がいいとも言うしな)
寮で生活していた時も、レオナと彼の恋人――ヴィル・シェーンハイトはよく言い争いをしていたものだ。それをふと思い出して、トレイは小さく笑った。
願わくば、甘いケーキに乗せてレオナの気持ちが伝わりますように、なんて柄にもないことを祈ると彼は閉店の準備を始めるのだった。