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    jf573jm4b

    @jf573jm4b

    こまつゆこです

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    髪を乾かすいおさる

    リノール酸で塞いで「いお、もういーだろ……」
    「まだだめ。根元濡れてるから」
    「早くしろよ……」
     ドライヤーの音に混ざる猿ちゃんの声に返事をすれば、不機嫌そうな声が聞こえる。
     濡れて、濃くなったピンク色の髪の毛の水分をタオルで拭き取る。ヘアオイルを手に垂らす。ヘアオイルを髪全体に優しく馴染ませて、ブラシで整える。根元から、丁寧にドライヤーを当てていく。猿ちゃんの髪の毛を乾かすときの、一連の流れ。ヘアオイルは、猿ちゃんのご要望で無香料のやつ。
     ご飯を作ったり、掃除をしたり、みんなに奉仕をしていると感じる瞬間はたくさんあるけれど、ただ一人に、猿ちゃんだけに奉仕をしていると感じられる瞬間は今だ。空っぽな自分が、猿ちゃんのためだけに存在しているような感覚になれるこの瞬間に、僕は言葉では表現できないくらい癒される。
     奉仕が癒しになるなんてのも、変な話かもしれないけれど。負荷が足りない日、それに加えて、なんだか疲れた日や落ち着かない日にも、こうやって猿ちゃんの髪の毛を乾かさせてもらっているのである。
    「あと少しで終わるからね」
    「ん……」
     普段暴れ回っている猿ちゃんが、おとなしく髪を乾かされている様子は、正直とんでもなくかわいい。下ろされている髪の隙間から、タトゥーが覗く。うなじをなぞったら、猿ちゃん、どんな反応するだろう。
    「おいいお」
    「なに?猿ちゃん」
    「おめー、今変なこと考えてたろ」
    「え?そんなことないけど」
    「嘘つけ」
     こちらにくるりと顔を向けると、分かるんだよ俺は、と呟いた。長いこと一緒にいるとは言え、こんなことまでバレてしまうのかと苦笑いを浮かべる。
     しっとりとしていた髪が、さらさらとした感触に変わっていく。もうすぐで乾かし終わってしまう。猿ちゃんの髪をきれいに乾かし終えたことによる満足感はあるが、なにか物足りなくて、心臓の奥の部分がきゅっと切なくなる。
    「伸びたな」
    「え?」
    「髪、伸びたよな」
     襟足を弄りながら猿ちゃんが呟く。
    「明日、切ってくんない」
    「え、明日?」
     こくりと頷いて、猿ちゃんが僕を見上げる。猿ちゃんの髪が伸びてきたことなんて、当然気付いていたけれど。
     髪が短くなったら、髪を乾かす時間も短くなってしまう。こんなこと言ったら猿ちゃんに気持ち悪がられると思って、言ったことなかったけれど。猿ちゃんの髪が少しずつ伸びる日々の中で、髪を切ってくれと命令される日が一日でも遅くなるように祈るのだ。まあ、命令されたら普通に切るんだけど。こんなこと言って引かれたくないし。
    「分かった、明日ね」
    「お前さあ……」
     猿ちゃんが、はあ、と小さくため息を吐く。
    「いいよ、明日じゃなくても」
    「猿ちゃん?」
    「お前のことだし、変なこと考えてるんだろ」
    「え?変なことなんて……」
     いや、変なこと考えてるんだけど。猿ちゃんのこういう直感って、たまに怖くなるくらい。
    「お前さあ、なんか勘違いしてね?」
    「え?」
    「いおの考えてることなんて、全部分かってんの!」
    「さ、猿ちゃん」
    「なんか……気分変わった。もうちょっと髪伸ばす」
    「え?!なになに?どういうこと?!」
     もしかして猿ちゃん、僕の気持ち分かって言ってる?!
    「わー!猿ちゃーん!」
    「うわっ、抱きつくんじゃねえよ!あっちい!」
     僕の手によってサラサラになった髪に頬擦りしながら、満たされているとはこういうことなのかもしれない、というのをぼんやり思った。
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