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    豚野郎

    @kakur_iji

    アレなの置くとこ

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    豚野郎

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    ・人違いで夏(記憶ないよないよねあるかもね)とピンチャン組むことになった髙(記憶あり)の話。エンカウント編。
    ・髙のバカサバ後についてのあれこれ捏造過多。
    ・前回から三年~経っているので距離感が近いです。夏髙かもしれないし+な親愛かもしれない、今の段階ではふわっとした何かとして書いています。
    ・羂髙は羂髙です。非+です。

    もう何もこわくない 結局、俺は怖がりなんだと思う。

     一回目の髙羽史彦だった頃、俺はいろいろあって三十路になってからオバケが見えるようになった。された、が正しいのかもしれない。
     シメツカイユーってデスゲームの最中、道を歩けば出るもんだと思ってるときは大したことなかった。笑顔を奪うなら俺が容赦しねぇってヒーローの気分でいられた。でも、終わってから、相方を失ってから、怖くなった。
     危ないオバケと認識して対話してこなかったやつも、本当は対話できたんじゃないか。そう思うと怖くて、それは違うと諭されても怖くて、オバケに絡まれても無視の選択肢だけは選べなかった俺は、……まあ、長生きはできなかった。

     一回目のオチで覚えているのは、手だ。俺に伸びてくる無数の手。目、鼻、口、耳、全部を覆っていく――

    「髙羽さん」

     ひらっ、目の前で掌が揺れる。ひとつだけ。足を止めて、そうだ、アパートまで歩いてたとこだったと我に返る。
     俺の反応を見て、掌がすっと引いていって、すぐ前にあったのは無許可っぽいチラシで派手に彩られた電柱だった。

    「またおデコから流血したいんですか?本格的に傷になりますよ」

     とん、とん、自分の額をつついて笑っているのは、ロンゲの塩顔イケメン。ピンチャンのボケ担当、じゃない。今のピンチャンはWボケWツッコミだから担当は決まってない。前とは違うのだ。ない。額の縫い目も、ない。

    「ごめん」

     笑いが苦笑に変わる。またか、って顔だ。すぐ謝りすぎですよスタートが土下座にしてもコンビ組んだなら対等でしょうと言われても慣れないまま、今日で結成三年になる。
     俺の相方、羂索が他人の死体を乗っ取って生き続けてきたってことは知ってた。死んでから知らないうちにとんでもないことに利用されて、そりゃ二回目がないと嘘だと思う。そして、二回目は確かにあったんだろう。

    「ごめん……傑くん」

     夏油傑くん。一回目、俺は名前と見た目、あと呪術師だったことしか知らないままだった。二回目、俺がとんでもない人違いをしたせいでお笑い芸人にしてしまってからの方が知ってる程だ。

    「謝るのは救急車沙汰になってからで結構ですよ」

     傑くんは、何ていうか、いい人だ。見た目通りの穏やかな対応を分け隔てなくできる、たまに毒を吐いて周囲驚かせたりするけどギャップのせいだと思う。同じ顔にロジカル駄目出しからの暴力された時を思うといい人の範疇だ。
     って、同じ顔の部分伏せて傑くん本人に伝えたときは「理不尽な暴力振るう手合いに引っ掛かりそうですよね髙羽さん」って素っぽい毒吐かれたけど。

    「あ。謝りたいなら救急車呼べる顔面になってからにしろと言ったわけじゃないですからね、今のは」
    「思ってないよ!?補足される方がやれって言われてる感出るから傑くん!」
    「強要は直接的な言葉を使わない方がいいんです。言い逃れができますから。ここまで全部冗談ですよ」

     また毒が吐かれた。でも今のもいい人、はちょっと微妙ながらおふざけの範疇ではある。それに一回目は知らないけど俺が傑くんに驚かされるのは、毒よりも思い切りが良すぎるとこだ。
     見知らぬ人間の土下座にイエスで答えたのもだけど、翌日に内定辞退しましたよろしくお願いしますの連絡が来たときにはビビった。もう本当に人違いなんて言えねぇじゃんと腹括って、何だかそれが良かったみたいで、俺たちはテレビにも出れるようになった。
     深夜の一時間ない番組、映る時間なんて十分ない、数秒のときもある。それでも嬉しい。傑くんが笑ってくれることが。だって二回も人生捻じ曲がっちまって、それで笑えなかったら最悪だ。同じ顔でも羂索とは違う笑い方だなって思うと寂しくなることもあるけど、それでも。
     手に下げたレジ袋に視線を落とす。さっき買ったとこの、まだアツアツと言っていい遅めの晩飯。

    『……カルビ弁当にすればいいじゃないですか。新しい仕事も決まったんだし、少しぐらい祝いに浮かれてもバチ当たりませんよ』
    『あ、いや、でもだぜ傑くん、まだ給料としては入ってないわけで』
    『帳尻合わせすれば問題ありませんよ。私は冷やし蕎麦にしますけど、これは通年食べたいからそうしてるだけ。髙羽さん家のコタツで食べるのも乙ですしね。でも少し豪華にはしたいな。大根おろし冷凍しといたでしょう』

     傑くんはいい人。でも、意外とお喋りで、我を通す方だ。俺から唐揚げ弁当を引っ手繰ってが最初に見てたカルビ弁当と替えてさっさとレジに行った時もそうだった。
     空き時間にもネタを練る方が効率的だからと仕事外でも基本的に行動を共にするようになって、お笑いの資料が山とあるからと俺のアパートに入り浸るようになってからは特に、俺は怖がるヒマをなくしている。
     大丈夫。今の俺は怖くない。俺と同じようにレジ袋を提げた傑くんを小走りで追い越して、先導する。アパートの場所なんて案内するまでもない。でも、いい。俺がそうしたいのだ。

    「傑くんは、オバケ怖い人?」

     やっぱり少し怖くて顔を見ないまま聞いたのは、新しい仕事についてのことだ。

    「ああ……心霊ロケ、嫌でした?一瞬悩んでたのは気のせいじゃなかったか」

     俺が聞きたかったことを聞き返されて、足がつんのめるのを何とか堪える。俺は傑くんのことを知ってて、知らない。ずっと、一回目の傑くんを知らないままピンチャンをやっている。それは他の二回目に出会ったことがないのもだけど、怖かったからだ。俺が捻じ曲げた、捻じ曲げたせいで大切になった人のことを。
     傑くんは一回目の話をしない。俺もしない。言いたくないならいいと思ってる。一回目がハードモードすぎて全部まっさらの二回目してるのかもしれないけど、何となく、傑くんも同じように思ってる気がする。

    「大幅に縮まるとしても私達に一泊ロケ分の出番を貰えるのは破格、とはいえ確認を怠ったのは良くなかったですね。すみません」
    「へ、いやっ、それはいいんだ!俺たちは仕事選ばずドンドンやってった方がいい時期だから、もちろん炎上しそうなのはダメだけどな」

     謝る言葉に慌てて振り向いて弁明して、気が付けば傑くんは俺の隣に収まっていた。申し訳なさそうかと言えばケロッとしている。上手く運ばれた、ような気がするのはたぶん気のせいだ。

    「怖いんですか?髙羽さん?」

     そして飛び出てきたのは、答えじゃなくて質問だ。答える気はないですよという顔で、うん、上手く運ばれた。傑くんには口で勝てる気がしない。とぼとぼ歩きながら口を開く。

    「えーっと……俺、事故……みたいなのにあって、ちょっと……怖いと思ってた時期があったり?あっでも今は見えてねぇからロケは本当大丈夫!!けど、たぶんそういうとこって『いる』から」
    「倫理観の話なら問題ないですよ。需要があるから番組がある。ロケ地に撮影許可が取れているなら良し。怪異に人権はない。無駄に炎上させる輩も同様」

     傑くんが指折りに要素を数えていく。少しトゲのある物言いなのはオバケ、呪霊が好きじゃないのかもしれない。呪術師してたならそりゃそうか。いや、本当に見えてなくてロジカル感想~毒を添えて~述べてるだけかもしれないけど、えっと、ああもう考えてもわからねぇんだ、言ってしまえ。

    「ロケ先のオバケにもお笑い好きなヤツ、いるのかな」
    「は?」
    「その……いろいろあって、人もオバケもいろいろあると思ってまして、俺」

     傑くんが足を止めた。ああ、うん。何言ってんだこいつの顔されてる。すっごいわかる。穏やかも穏やかじゃないもない全部吹っ飛んだスペースキャットって感じの、正直スベったみたいでちょっと恥ずかしい。
     でも、言ったからにはもう怖がるヒマはない。ここからロジカル駄目出しが飛んでくるとしても、俺は一回経験してるのだ。すうっ、息を吸って人差し指を立てて示す。

    「傑くん、お笑いに疎いって言ってたのに今はお笑い大好きじゃん!?落語なんか俺より詳しくなって、俺のあ……あー、知り合いにもお笑いのおの字も知らなさそうなのにすっごい詳しいヤツがいてっ!人は見かけによらなくて……」

     指を折って真似てみても、上手く言えない。お笑い芸人としてどうかと思うけど、俺はアドリブトークが苦手な方だ。傑くんが俺の分も倍増しで喋るから何とかなるのも珍しくない。ただ、今の傑くんは待ってくれるときの顔をしている。
     俺が面白いをするんだと待ってくれる、懐かしいと寂しいを思い起こさせる顔だ。正面から向き合って頭を下げる。土下座にしなかったのは、せっかく二人で食べる弁当が台無しになるからだ。

    「俺、全部笑わせたい。お笑い詳しくなくても詳しくても、オバケが好きな人も嫌いな人も、オバケも笑わせたい」
    「全部。全部か。欲しがりますね。……心霊ロケに打ち合わせナシでコント捻じ込むとして、どうやって全部が笑ってると判断するつもりですか?」
    「最高に面白いコントするっ!でも、もし、傑くんが見える人ならスベってるスベってるって前髪ビンタをしてくれたらネタの軌道修正を……」
    「前髪ビンタは余計スベるでしょう。私は好きですけど、馬鹿馬鹿しくて」

     髙羽さんらしくて。言葉を付け加えた傑くんは笑っている。面白いって、俺のことを面白いって思ってくれてる顔だ。

    「客が笑いに厳しいオバケでも、二人一緒にスベればいいか。私達はコンビなんだ」

     手が差し伸べられる。スベるじゃなくてウケたいんだけど、思ったけど言わなかった。
     結局、俺は怖がりのままだ。一人は怖い。わかってもらえないのは怖い。だから、傑くんに二人と言われて嬉しくなってしまっている。一回目、二回目、傑くんがどっちだとしても、人の人生捻じ曲げておいてバチ当たりだとは思う。でも止められない。俺たちはコンビ、俺たちはピンチャン、出会ってしまった、出会えた。――に。

    「相方」

     優しく耳元で囁かれて、すとんと胸に何かが落ちた気がした。そう、相方、一回目も二回目もずっとずっと待ってた、そこまで考えて、気付いた。目の前に手が差し伸べられているなら、傑くんは俺の前にいる。じゃあ耳元は変じゃないか、でも、今の声は間違いなく、……いや、ちがう、

    「美しい光景だ。相方大好き芸人の出演でも狙ってるのかな?狙いすぎはスベるよ」

     くくっ、低いトーンの笑い声がして、ぐっと首に何かが食い込む。ワンテンポ遅れて腕だと気付いて、コート着込んでる袈裟じゃないんだ、なんて呑気なことを思った。

    「髙羽さ――、――!?」

     傑くんが掴み掛かろうとして、フリーズする。見てしまったんだろう。そいつを。

    「ツラ借りてた……現在進行形で借りて生まれ落ちた私が言うのもどうかと思うけどさぁ。あんまり面白くないものを見せ付けられてはねぇ」

     額に縫い目のような傷跡を持つ、ロンゲの塩顔イケメン。お笑いにもオバケにもすっごい詳しい、というかオバケがすっごい見えて何なら引き連れてた、もっと言うと当人が脳みそが本体の『笑いに厳しいオバケ』が笑いを引っ込める。

    「なぁ。ツラ貸せよ。尻軽芸人。積もる話が、お前への駄目出しが山とあるんだ、私には」

     全部笑わせたい。傑くんと一緒に笑わせたい。もう会えないと諦めた会いたくて会えなかった大切も、やっぱり笑わせたい。……なんて欲張りしたから、廻り廻ってやっと俺にバチが当たったのかもしれない。でも、だとしたら、神様は何考えてるんだか、さっぱりわからない。

    「、そっ、う゛ぞだ、ぐすっ、、げ、んじゃぐ…けん、じゃ、ううう゛っ生ぎでだ、ふっぐううぅう゛」
    「は?うわ…………うーわ、鼻水……あのさぁっ、空気……あー、うん、君はそういう子だったねぇ……」
    「……なら、私が空気を読もう。取引きを提案したい。この清潔なハンカチと髙羽さんで」
    「嫌だけど?話の腰が複雑骨折したからいけると思った?絶対したいだろうツラへのツッコミ捨てて来てくれたとこ悪いけど、それに乗っちゃう馬鹿は髙羽ぐらいだよ」

     人を一人二人飛んで一億人は殺しそうな顔で首をホールドしてきても、鼻水でべちょべちょになった袖に溜め息吐いてきても、急に傑くんと一触即発アドリブ漫才しだしても、俺がずっとずっと会いたかった相方なんだから。
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    Replies from the creator

    豚野郎

    MOURNING #RTの早い5人に落書き投げつける見た人も強制でやる
    というタグで頂いた「幼馴染で同じ大学に通ってるまだ付き合ってない(きちんと告白はしてない)羂髙︎︎♀」を書くぞと導入を書いたら大学生になるまでがもう長いやんけ!!!!!!!ってなったので続きを書いてお題とするか別物にするか悩んでる何か、記憶なし→あり羂×記憶なし髙の小学生羂髙♀(オチてない)です。
    運命的、絶対的 運命を信じるか。夢見る乙女よりも占い師よりも宗教勧誘が口にしてこそ相応しいフレーズを投げかけられたならば、私はイエスと答えるだろう。
     前世でほんのひと時、一日どころか一時間にも満たない、累計千年を生きたことを思えば一瞬――されど、鮮烈。正しく運命の出逢いと別れを得た人間と、新たな生でもう一度、幼馴染としてめぐり逢えたのだから。私が記憶を思い出せたのは、ああ、本当に幸いだった。

     運動会の練習中だった。競技に使う太い支柱が、私の目の前でグラついた。凶器が振り下ろされる、それはスローモーションを見ているようだった。
     玉入れ用の玉をせっせと一人集めていた、真面目と言うべきか馬鹿と言うべきか、気にも留めていなかった同級生その一、
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    豚野郎

    DONE・人違いで夏(記憶ないよないよねあるかもね)とピンチャン組むことになった髙(記憶あり)の話。エンカウント編。
    ・髙のバカサバ後についてのあれこれ捏造過多。
    ・前回から三年~経っているので距離感が近いです。夏髙かもしれないし+な親愛かもしれない、今の段階ではふわっとした何かとして書いています。
    ・羂髙は羂髙です。非+です。
    もう何もこわくない 結局、俺は怖がりなんだと思う。

     一回目の髙羽史彦だった頃、俺はいろいろあって三十路になってからオバケが見えるようになった。された、が正しいのかもしれない。
     シメツカイユーってデスゲームの最中、道を歩けば出るもんだと思ってるときは大したことなかった。笑顔を奪うなら俺が容赦しねぇってヒーローの気分でいられた。でも、終わってから、相方を失ってから、怖くなった。
     危ないオバケと認識して対話してこなかったやつも、本当は対話できたんじゃないか。そう思うと怖くて、それは違うと諭されても怖くて、オバケに絡まれても無視の選択肢だけは選べなかった俺は、……まあ、長生きはできなかった。

     一回目のオチで覚えているのは、手だ。俺に伸びてくる無数の手。目、鼻、口、耳、全部を覆っていく――
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