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    nchuhansei

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    監🦊(監)
    監の性別はどっちでもok(一人称はわたし)

    #監フェ監

    監🦊(監)の別れ話 モストロ・ラウンジに購買部、休みの日には麓の街の古書店でアルバイトをして貯めたお金のほとんどを、フェローさんに着てもらうための被服費にあてた。この非常識な異世界に飛ばされて早数ヶ月、まとまったお金を遣ったのはその時が初めてだった。
     そんなわたしの正面にテーブルを挟んで座るフェローさんは、ふくよかで心地良い秋の風よりずっと憂いのない表情で冷たいアップルティーを嗜んでいる。ストローを咥える時、犬歯がちらっと覗く瞬間が本当に可愛いのに。
    「フェローさん、突然別れるなんていったいどういうことですか……?」
    「いやあ、悪いがあなたといると息が詰まるんでね。こんな服も俺の趣味じゃない」
    「でも、受け取った時はありがとうって言ってたじゃないですか」
    「ではその時俺はどんな目をしていた?」
    「それはまぁ、ゴミを見るような目でしたけど」
     フェローさんに服を贈った理由は、初対面の時おめしになっていた派手な装いでデートに来られては困ってしまうからだった。なんせわたしはスーパーマーケットに併設されているような格安量販店でしか服を買ったことがないし、下着の数ですら非常に限られている。
     だからこそ、わたしより年上で大人でお金も多少は持っているフェローさんが当然わたしに合わせるべきで、けれどわたしも、ただわがままをきいてもらうだけのガキでいたいわけじゃないから、正当な対価として彼の服をひとつだけ揃えることにしたのだ。
     実際のところ、彼はきっとどんな服も完璧に着こなしてみせるだろう。カジュアルもスポーティもキレイめも、どんな服だってきっとこぞって彼に着られたがる。
     しかしただひとつの問題は、わたしのファッションセンスがおそらく壊滅していることだった。
     まず服なんて上と下が揃って着られれば十分だし、エースのように小物にまでいちいちこだわっていられる細やかさも持ち合わせていない。アクセサリーなんてきっとすぐに失くしてしまう。
     そんな自分には、どれだけ服屋をまわっても着てほしい服の候補すら挙げられなかった。そして最終的に行き着いたのは、ちょっとリッチなやはり量販店だった。
     ニットが一枚20000マドル。靴下一足5000マドル。まったく同じようなデザインのものなら格安店で10分の1を下回る価格で買えるというのに、たかが着心地なんてもののためにこっちを選ぶブルジョワは繊細すぎてご苦労なことだ。
     ただ、なんの特徴もない黒のタートルネックのニットに、タイトなスキニーパンツをおめしになるというずいぶん強気なマネキンを目にした瞬間、いわゆるビビッときた。どうしたって、そのマネキンにフェローさんを重ねてしまったのだ。
     正面のフェローさんが、鬱陶しそうにタートルネックと肌の間に指を差し込み、ぐるりと首を回した。
    「第一、お前は他国どころか誰もその名を知らない別世界からある日いきなり現れたそうじゃないか。そしてそんな得体の知れない素性を俺に隠していた」
    「そ、それは本当にうっかりしてたっていうか……というか、得体の知れないなんて言葉、アナタにだけは言われたくないんですけど」
    「まったくいけすかねえガキだな。俺も何を血迷ったんだ」
     フェローさんは長い脚を優雅に組み直し、その優雅さを打ち砕くように、アップルティーをずごごごと飲み干した。
     しかしながら、初対面の時におめしになっていたロングコートの下には、こんなにも細くしなやかな体躯が覆い隠されていたのだ。
     長く細い脚はもちろん、うなじの曲線から骨ばった手首に、薄っぺらい腹や臀部まで、タイトな上下の服がフェローさんのありとあらゆる輪郭をこれでもかというほど鮮明に際立たせている。
    「でも、着てきたくせに?」
    「もちろん金は返すさ。この際手切れ金もいるだけ言ってみな」
    「そんな話をするためだけに、わざわざここまで来たくせに?」
    「これで最後だ。まったく清々するぜ」
    「……や。やです。絶対別れない」
     こつこつこつこつと人差し指でテーブルを叩くフェローさんの手を掴む。
     強く指を握ったら、ぽきっと骨の音が鳴った。フェローさんが、鋭い歯を覗かせ舌打ちした。
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