大人になりたい! 夢を見た。恭二と目線が合うくらい背が伸びる夢。自分じゃわからないけど、成長したのかもしれない。そんなボクの頬に恭二は優しく触れて、キスしてくれた。
しあわせすぎて飛び起きたら、そこはボクの部屋で、手もさっきほど大きくない。身長だっていつも通りだ。
なんであんな夢を見たのかわかっている。この間恭二に告白して、年齢を理由に断られたからだ。早く大きくなりたい、という気持ちは夢にまで出てきたらしい。重症だな、とも思うけど、正直ボクには成長を待つ余裕はない。いつ国に戻るかもわからないのに。……そんな状況で、そしてこの身分で、恋愛にうつつを抜かすことは許されないのかもしれないけれど。でも、今までいろんなものを諦めてきたボクが、唯一諦めたくないものだった。
でもできることは何にもない。スキンシップは恋心を自覚する前からしてるし、それも告白してからは避けられていた。そうしたら、いつも通り接するしかなくて、進展なんて夢のまた夢だ。なんて、ずっと考え込んでいたボクをみのりが気にかけてくれていたことは気づいていた。
そして、ある日「何か悩んでる?俺でよければ話聞くよ」と声をかけてくれた。本当は相談すべきじゃないのかもしれない。でも、行き詰まっていたボクは、洗いざらい今の状況を話してしまった。
「恭二、おはよう!」
そう言って後ろから抱きつく。これなら、避けられないだろうと確信して。
「……ピエール……こういうのは……」
多分嗜めるような言葉を言おうとしたのだろう。続きが聞きたくなくて、体が固まる。そうしたら、みのりが助け舟を出してくれた。
「恭二は何か困ることでもあるの?……気持ちが揺らいじゃうとか」
「う……ない、っす」
「じゃあ、今まで通りでいいよね?」
にこりと笑うみのりには妙な迫力があった。きっと恭二もそれを感じたのかもしれない。こくりと頷いた。
みのりが今日の仕事の話をしに、プロデューサーさんの方へ行くと、恭二はこちらを振り返った。不機嫌そうな表情にびくりとする。
「ピエール……みのりさんに言っただろ……!」
「だって……っ、ボク、一人じゃ、どうにもならなかったんだもん」
「それに……、恭二のこと、諦めたくなかった」
そう伝えれば、恭二はぐっと言葉を飲み込む。そして、表情を少し緩めた。
「まあ、落ち込んでなくて安心した」
そう言って、ボクの頭を優しい手つきで撫でた。こんなことをされると、もっと好きになってしまう。そう思ったし、伝えた。すると、困ったように「いつも通りがいいんだろ?」と言う。その頬が少し赤い。
「うん、……恭二に、避けられて、寂しかった」
こんなことを言うのは卑怯かもしれない。なんとなく顔が見られず、俯いてカエールの王冠をじっと見る。
「悪かった。……俺も、調子狂うと思っていたんだ」
ちらと気づかれないように恭二の顔を見たけど、ボクを見つめていたらしい。目が合ってしまった。そしたら、恭二への思いで胸がいっぱいになってしまった。口を開く。
「ボク、早く大人になるから、それまで、待ってて!……恋人とか、作らないで!」
恭二は真っ赤になって、口元を手で隠す。
「二人とも、ここ事務所だよ」
しんとした部屋の沈黙を破ったのは、みのりだった。苦笑いするみのりに、ボクも恥ずかしさがじわじわ湧いてくる。
「プロデューサーが呼んでる。恭二は落ち着いたらおいで」
「……はい」
「ピエール、先に行こう」
「……うん」
小さい事務所の短い廊下を歩く。あと数歩でドア、というところまで来てみのりは立ち止まった。
「俺からアドバイス、するつもりだったけど、そんなの必要なさそうだね」
「えっ、アドバイス、聞きたい!」
みのりは首を振って教えてくれなかった。
「今のままのピエールで、いつも通り恭二に接していれば、大丈夫な気がするよ」
本当かな。そう思ったのがきっと表情に出ていたんだろう。みのりが続ける。
「だって、恭二があんなに真っ赤になってるの、初めて見たよ」
きっと、少しも意識してなかったら、ああはならないだろ、と言われポカンとする。確かに、告白した時も真っ赤だった。脈が、あるのかも……と思うと、単純なボクは頬が緩むのを感じた。
「いい笑顔だね、ピエール。今日の撮影はきっと上手くいくよ」
みのりもにこにこと微笑む。
「恭二は、どうかなー」
ぽそ、と呟いた言葉はボクには聞こえなかった。