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    まりも

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    ピエールの片思いな恭ピエ

    ##恭ピエ

    恋わずらい「恭二は、好きな人、いる?」
    なんでそんなことを聞いてしまったのかは自分でもわからなかった。心臓がドキドキとうるさい理由も。
     その日は、同じ事務所の仲間がテレビの芸能ニュースに出ると聞いて、恭二の家で一緒に見ることになった。みのりからは、朝早くからの仕事があるからと申し訳なさそうに断られた。きっと、録画しているかもしれないけど。テレビの中の見知った顔は、いつもよりキラキラと眩しくて、いつもだってもちろん大好きな仲間なのだけれど、アイドルってすごい!と思う。
     ニュースが終わり、いくつかのニュースが続くが、お目当てが終わったから、ボクも恭二も少し手持ち無沙汰になった。そこに、別のニュースが流れる。アイドルの恋愛についての報道だった。どちらもあまり知らない人だから、そのことについてはあまり感想がなかった。でも、丁度この前みのりと話した内容に関係する部分もあって、自然と視線がテレビに釘付けになる。チラリと恭二を見れば、興味がないのか、机を眺めているようだった。恭二はどうなのかな……と思ったら、つい聞いてしまった。好きな人はいるのか、と。
     突然の質問に恭二はポカンとして、すぐには答えなかった。なんだか焦ってしまって、慌てて言葉を続ける。
    「……みのり、恋愛、自由だって言ってた!ただ、ファンに知られるようなこと、よくないって」
    恭二は少し落ち着きを取り戻して、それでもなぜか一瞬躊躇ってから「いない」とだけ言った。その反応から、その答えが嘘で、本当は好きな人がいるのだと、わかってしまった。ごまかされた訳も、自分がショックを受けている訳も、なんでかわからないまま「そうなんだ……」と答えて、その話題はそこで終わったみたいだった。その後も取り止めのない話をしたけれど、内容はあまり覚えていなかった。
     それからは、何をしていてもそのことが頭の隅にちらついた。恭二が好きになるのはどんな人なんだろう。ボクも知っている人なのかな。……もしかして、もう付き合っているのかな。そこまで考えて、みのりなら知っているかも、と思いつく。聞けば教えてくれるかもしれない、と一瞬頭を過ぎるが、探るようなこと、よくないよね、と思い直す。どうしてこんなに恭二のことが気になるのかはわからなかった。
     ボクは、自分で思ってるよりわかりやすいのかもしれなかった。悩んでいることはみのりにすぐ気づかれて、「何かあった?」と聞かれてしまった。なんでもない、と答えれば、納得はしていないようだったけど、それ以上は聞かれなかった。みのりは優しいから、きっとそうすると思っていた自分もいて、ごめんね、と心の中で謝る。でもきっと、こんなんじゃ恭二に気づかれるのも時間の問題だった。
     恭二とは、二人きりになるのを避けてた。なんとなく気まずい思いがあったし、どんな顔をして会ったらいいのかわからなかった。それでも、同じユニットだからそんなことをずっと続けるのも無理で、ある日とうとう二人きりになる時が来てしまった。
     以前だったら、恭二と一緒にレッスンするのはもっとうきうきしていたはずなのに、今日は気が重かった。みのりもプロデューサーさんもいないダンスレッスンで、先生も大事なポイントを押さえてから、次の仕事があるからとその場を後にしてしまった。
     そういう時は以前もたまにあって、教えてもらったところをユニットメンバーと練習するのが常だった。つまり、今日はボクと恭二の二人きりで練習しなければいけない。なるべく意識しないように心がけていても、気持ちはダンスに出てしまった。何度か間違えたところで、恭二は「今日はもう終わりにしよう」と言った。些細なことをアイドルの仕事に持ち込んでしまった後悔と、それでも、恭二に呆れられてしまったかも、という恐れが心を占める。そんなこと考えたくないのに。ぽん、と頭に何か触れる。それが恭二の手だと、次の瞬間気がついた。そんなことで、少し嬉しくなってしまう。同時に、自分の気持ちにも気がついた。ボク、恭二が好きなんだ。気づいたところで、同時に失恋もしてしまった。落ち込んでるボクの頭を優しく撫でる手に泣きたくなる。
    「そんな日もあるから、気にすんな」
    恭二は、ボクが失敗に落ち込んでいると思っている。それを訂正する勇気はなかった。でも、次の練習もこのままではいられない。せめて、心のつかえだけでもどうにかしなければ。思い切って口を開く。
    「あのね……恭二の好きな人、聞いても、いい?」
    バクバクと心臓が痛いくらい鳴る。恭二の顔を見られなくて、俯く。恭二の驚いた雰囲気を感じて、ますます体が固まる。
    「……悪い。心配させたな。……確かに好きなヤツは、いるけど……それはもういいんだ」
    やっぱり、好きな人いるんだ、という気持ちと、言葉の続きが気になる気持ちとが戦った結果、後者が勝って恐る恐る顔を上げる。恭二の口元は笑っているかのようだったけど、眉は寄せられていて、つらそうだった。そんな顔をさせる人が存在することに胸が痛む。
    「好きな気持ちは、墓まで持っていくから」
    聞き慣れない言い回しに首を傾げる。そうすると、恭二は「死ぬまで誰にも言うつもりはない、ってことだ」と苦笑いで教えてくれた。諦めたように言う恭二に、思わず口を開く。
    「だめ!恭二、アイドルでも、恋愛、していいんだよ!……恭二には、幸せに、なってほしい……!」
    目が熱くなってくる。でも、泣いたら困らせるだけだとわかっていたから、ぐっと堪える。例え相手がボクじゃなくても、つらそうにしているよりは、その人と幸せになってほしい。その気持ちに、嘘はなかった。
    「……アイドルかどうかは、あまり関係ないんだ。ただ、俺に好かれてもそいつも困るだろう、ってだけだ」
    恭二に好かれて困る人なんて、この世界にいるんだろうか。ボクが恭二を好きなことを差し引いても、恭二は誰から見てもかっこいいし、優しい。もし、本当に恭二の好きな人がそんな人なら……。
    「じゃあ……その人より」
    言わずに心に秘めておこうとした言葉が、口から出てくる。
    「……ボクを、好きになって」
    恭二がポカンとする。言ってしまった。ここまで言葉にしてしまったら、ボクが恭二を好きなことも伝わってしまっただろう。でも、きっと恭二はごまかさないで返事をくれる。そう思ったから、俯かず、じっと目の前の顔を見つめる。
    「……やっぱり、さっきの『墓まで持ってく』っていうの、撤回してもいいか?」
    恭二は視線を彷徨わせ、たっぷり悩んだ末に、天井を見つめながら、そう言った。その言葉に嬉しさと悲しみの両方を感じる。後押しするような形になってしまったけれど、きっとこれでよかった。さっきみたいに笑う恭二は、見たくない。
    「……告白、するの?」
    「ああ」
    その答えに、俯かずに我慢していた心が挫ける。床を見つめたまま、目に涙が浮かんでくるのを感じた。泣くな、と自分に言い聞かせても、後から後から溢れてくる。
    「ピエール……泣かないでくれ」
    「っ……ごめん」
    しゃくり上げながら謝った。こんなつもりじゃなかったのに。
    「頼む……好きなやつの涙は見たくない」
    思いもよらなかった言葉に、バッと顔を上げる。目の前の恭二は笑顔だったけど、それはさっきみたいな顔じゃなくて、なんだか晴れやかな顔だった。今の言葉が確かなら、恭二の好きな人は。
    「おまえが好きだ、ピエール」
    そう言って、恭二はボクの涙を拭ってくれる。ボクはといえば、思いもよらなかった告白に頭が追いつかなくて、黙ってしまう。
    「……返事は?」
    照れたように頰を染めた恭二が聞く。そんなの、決まってる。
    「ボクも!恭二が、大好き!」
    恭二にギュッと抱きつけば、同じ強さで抱きしめ返してくれる。夢みたいだと思いながら、しばらくそのままそうしていた。

    後日、今度は三人のレッスンがあった。恭二がトイレに行くため部屋を出た隙に、みのりがボクに声をかける。
    「ピエール、悩み事、解決した?」
    「うん!……心配かけて、ごめんね、みのり」
    「いいんだよ。ピエールは笑顔が一番!」
    「……あのね、みのり。ボク、恭二と付き合ってるんだ」
    みのりは目を丸くして驚く。脈絡がないようで、ボクの中では繋がっている話を、みのりがわかるかは疑問だったけど、わからなかったら最初から説明しようと思った。
     恭二とは事前に話していて、みのりには関係を打ち明けようということになった。というのも、ボクたち、関係を隠したままずっといられるほど器用ではないし、何より、みのりに嘘をつき続けるのは心苦しいだろうと思ったからだった。ボクがここ数日のことを思い返している間に、みのりの中でも納得ができたようだった。微笑んだみのりが口を開く。
    「つまり、ピエールのは恋わずらいだったわけだ」
    「コイワズライ?」
    「恭二のことが、好きだってこと」
    「うん!」
    色々、二人にも話せないことはあるけれど、恭二が好きだっていうことは胸を張って言える。カチャリとドアが開き、恭二が戻ってきた。にこにこ笑うボクたちに、会話の内容を察したらしい。「あー、……そういうことっす」と照れくさそうにいう姿に、ボクとみのりは顔を見合わせて少し笑った。
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